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言葉には副作用があることをわすれないで 杉田水脈発言で傷つくがん患者たち

「政策の話だから」「特定の個人に向けて言ったわけではないから」では片付けられません

自民党の杉田水脈・衆議院議員が書いた「生産性がない」という言葉は、治療で子供を産むことが叶わなくなったがん患者の心も深く傷つけました。

「言葉の副作用」について、国会議員のような影響力のある人は特に考えて発言してほしいのです。

独身でも、結婚しても、産んでも踏み込まれるプライバシー

私は1973年9月に生まれました。

20歳で短期大学を卒業し就職。その頃から法事など親族の集まりで居心地の悪さを感じるようになりました。

例えば結婚するまでは、「彼氏はできたのか」「結婚はまだなのか」「はやく結婚して孫の顔を見せてあげるのがいちばんの親孝行」などズケズケと私のプライベートに踏み込んだ話をしてこられます。

結婚をしたら、「まだ子供はできないのか」「子供を産んでやっと一人前(なのだから早く子供を作れ)」とこちらの事情も知らないで好き勝手なことをいわれます。

子供を産まなくても、産んでも好き勝手なことを言われます
Globalmoments / Getty Images

子供を産まなくても、産んでも好き勝手なことを言われます

子供を授かったあとは、親族の集まりだけではなく、町の公共交通機関や、レストラン、育児サークル、幼稚園など子供を連れていく場で見ず知らずの人に声をかけられ、居心地の悪い思いをすることになります。

男の子を授かったら「女の子の方が最初は育てやすいのに」といわれます(もし女の子を授かっていたら「はやく跡取りを産まないと」といわれていたと思います)。

子供がひとりっ子だったら「ひとりっ子はかわいそう」「兄弟いないと寂しいよ」といわれます。

私が専業主婦だったときは「働かないで家で楽をしている」「働かないで税金等優遇されている」といわれ、働き出すと今度は「子供が幼稚園の延長保育にいれられてかわいそう」「ママが出張で家を空けるなんて子供がかわいそう」といわれます。

お子さんが多い家庭のママ友に話を聞くと「子供が多くて教育にお金が回らなくてかわいそう」「母親の愛情がいきとどかなくてかわいそう」「節操のない(避妊をしない)親でかわいそう」などという言葉を見ず知らずのひとにかけられ辛い思いをしたことがあるといいます。

結婚後、不妊治療をうけている学生時代の友人はお姑さんに、「あなたのせいで息子が子を持つことができずにかわいそう」「仕事を辞めて妊活に専念して子供を授かる努力をしたら?」といわれたといいます。

不妊の原因は女性の身体の問題だけではないことは多くのメディアで取り上げられている時代でも、理解のない言葉を投げつけられるのはとても残念なことです。

男性も押し付けられる「正しい」生き方

こういった言葉は発する側としては「あなたのために良かれと思って」伝えている一方で、受け取る側はとても不愉快になる言葉です。こうした不愉快になる言葉は女性だけが受けるわけではなく、男性も受けているのだと思います。

実際に例をあげると、前述した不妊治療を受けている友人のパートナーは「性行為をすれば簡単に子供はできるのに(なぜできないの?)」など職場の上司や同僚のデリカシーのない言葉に傷ついたといいます。

多様性のある生き方が認められる時代なんていう人もいますが、実際は、それぞれが「正しい」「理想とする」生き方の価値観をもっています。それを他人に対しても押し付けてしまう人はまだまだ多いのではないでしょうか。

そして私たちは人と関わる以上、こうした生き方に関するコミュニケーションのなかで不愉快な思いをすることは少なくなく、ストレスという副作用を常に感じ生活をしているのかもしれません。

卵巣がん患者にとっての妊娠

私は「卵巣がん体験者の会スマイリー」の代表をしています。

国立がん研究センターがん情報サービス最新がん統計によると卵巣がんという病気は年間9804人(2013年)が罹患し、年間4758人(2016年)が亡くなっているがんです。女性であれば、小児から成人まで全年齢で発症する可能性があります。

主な治療方法は手術と抗がん剤治療です。

卵巣がんの手術方法は子宮と両方の卵巣・卵管の切除、大網(だいもう)の切除、リンパ節の郭清(かくせい、切除すること)が基本的な手術法となっています。

しかし、強い妊娠の希望がある場合かつ以下の条件に当てはまる患者さんに関しては主治医と相談のうえ、がんがある方の卵巣と卵管を摘出して妊娠の可能性を残すこと(妊孕性温存手術)ができることもあります。

「妊孕性温存が考慮される病理組織学的要件」については、再発の心配がやや高くなることへの十分な理解が必要。
患者さんとご家族のための子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん治療ガイドライン第2版(日本婦人科腫瘍学会、金原出版株式会社)

「妊孕性温存が考慮される病理組織学的要件」については、再発の心配がやや高くなることへの十分な理解が必要。

卵巣がんは早期発見がとても難しいがんとされ、多くの患者さんが進行した状態で発見されることから妊孕性温存ができる患者さんはごく限られた患者さんだけとなります。

10代から20代に多い卵巣胚細胞腫瘍に関しては、進行していても本人が妊孕性温存を望む場合は片側卵巣を切除しすぐに抗がん剤治療を行うといった条件のもと温存することも可能です(※1)。

2017年1月1日から12月31日まで私が受けた、卵巣がんに関する患者さんからの相談550件中12件が妊孕性温存に関するものでした。

なかにはがんが進行しているⅢ期、Ⅳ期と思われる患者さんから「結婚の予定があり子供を産みたいので治療するのは嫌です」といった相談もありました。

また、手術の後に子宮や卵巣の喪失感、子供を産めない辛さを訴える相談は30件ありました。

「いのちが助かるために子宮や卵巣を切除するしか選択肢はなかった」と理解していても姉妹や友人、職場の同僚など身近な人から妊娠の報告があった時に素直に祝えない自分が惨めで辛いといった相談もありました。


なかには、嫁ぎ先の親族から子供を産むことができないことに対する理解が得られずパートナーと別れさせられたというとても悲しいお話を聞くこともありました。

多様性のある生き方ができる時代といいつつ、私たち自身もそれぞれの人生の価値観や理想とする未来があるため、それが実現できなかった時の悲しさははかり知れません。でもそのことを少しずつ、少しずつ時間をかけて患者さんは現実として受け止め、心に痛みを感じながら社会で暮らしているのです。

「生産性がない」という言葉の衝撃

自由民主党の杉田水脈衆議院議員が「『LGBT』支援の度が過ぎる」として雑誌で持論を展開した(※2)というニュースがメディアで大きく取り上げられました。

月刊誌「新潮45」2018年8月号に掲載された自民党の杉田水脈衆院議員の寄稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」
Naoko Iwanaga / BuzzFeed

月刊誌「新潮45」2018年8月号に掲載された自民党の杉田水脈衆院議員の寄稿「『LGBT』支援の度が過ぎる」

その雑誌の一文に、

「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」

ということが記載されていました。

私は「子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」という部分にとてもショックを受けました。

まず、私には17歳の息子がいます。その息子のことを生産性という観点から考えたことがなかったことで子供を産み育てることがどうして『生産性』と表現されることなのかわかりませんでした。

そして、子供を作らないことが『生産性がない』として税金を使うことに賛同が得られるのかという話にショックを受けました。

私は自分のSNSで杉田議員の発言でショックをうけているということを書いたところ、杉田議員の意図することは「LGBT」に対してであり子供を産むことができない女性に対しての発言ではないことから私がショックをうけるのはいささか過剰反応ではないのかという指摘もいただきました。

国会議員の発言は重みがある

確かにそうなのかもしれないと思う一方で、これが街中で偶然出会った人の発言だったら「デリカシーがないなぁ」と思う程度で流せたかもしれないと考えました。

この言葉が国会議員という私たち国民のための政策を打ち出してくれる立場の人の発言だからこそショックを受けた気がします。

杉田水脈議員の発言にがん患者もショックを受けた
Nozomi Shiya / BuzzFeed

杉田水脈議員の発言にがん患者もショックを受けた

ここ数年、国の政策により、がんや難病と向き合う患者やその家族ら、辛い状況に向き合う人たちを支える施策が講じられ、少しずつですが社会的な支援が広がり、ひとりひとりが、その人らしく生きられるような環境整備が進んできています。

そのなかで、生きづらさを感じない人もいるだろうし、支援の必要性を感じない人もいるかもしれませんが、生きづらさを感じ支援を求めている人もいます。

その支援のために国民の税金を投じる理解が子供を産まないことで左右されることはあってはならないし、それを国会議員が公開の場で発言することがショックだったのです。

まるで「子供を作れない人には価値がない」と言われているような気持ちになり落ち込み、しばらくすると、こんなことで傷ついてはいけないと自分に言い聞かせるという不安定な精神状態が続きました。

同世代の卵巣がん患者さんと話す

私のSNSでの不安定な投稿を見て、同世代の卵巣がん患者さんが連絡をくださいました。

個人を特定されないように、ここでは「Aさん」と呼びたいと思います。

Aさんは40歳のとき下腹部の鈍痛を感じ産婦人科を受診した結果、卵巣の腫れを指摘されました。すぐに手術が必要といわれ、緊急手術を受けました。

摘出した卵巣などを病理検査した結果はⅢ期の卵巣がんでした。

当時Aさんは婚約中で、40歳という年齢を気にするAさんに婚約者は「子供が授かるかどうかより、二人でいることが大切」ということを言っていたそうです。

それなのにAさんが卵巣がんだとわかると、「支える自信がない」と婚約を一方的に解消、その後すぐに別の女性と授かり婚したという辛い経験を聞いています。

Aさんはあまりのショックに仕事をする気力も生きる気力も奪われ、引きこもりがちになったといいます。

その後、周囲の支えもあり徐々に社会復帰をされ、知り合いがいない業種にいきたいと大手企業に再就職し、いまはとてもアグレッシブに活躍されています。

Aさんがスマイリーの事務所に顔を出してくれた時に、私は杉田議員の発言についてどう思うかと率直に尋ねました。

するとAさんは「子供を授かることを生産性と表現することに国会議員としてのセンスを疑うわね」と彼女らしい感想を述べられました。

そして、「杉田議員は自分が書いた言葉が、LGBTで支援を必要とされている方たちだけではなく、子供を作ることができない多くの人が聞いてどう思うかなんて想像ができないのだろうね」と私の気持ちを肯定してくれました。

そのうえで、こう話してくれました。

「卵巣がんになって、いま、生きていることに感謝する気持ちは多分にあるけれども、やはり子供が産めない自分に対してコンプレックスを感じない日はないです」

「恋愛するにしろ結婚するにしろ、その相手がどういう未来図を考えているのか、子供を産めないことが相手にどう受け止められるか、そのことを盾に断られたら自分は耐えられるのかどうか。考えすぎるくらい考えすぎてネガティブに負けそうになります」

「それでも毎日奮起して頑張っているのに、杉田議員はなんて酷い言葉を世に発信するんだ!と思うよね」

「杉田議員になんか伝えたいことはある?」と尋ねたら「子供を作らないからとかいうことで人の価値を決めないでほしい」と言いました。

「久しぶりに心が痛い言葉だった」

そうつぶやいて、Aさんはしばらく下を向いて黙りこんでしまいました。

さいごに

私たち卵巣がん患者だけでなく、子供を授かりたいという希望を持っていても授かることができない人はたくさんいます。

それは、私たちのように子宮や卵巣という妊娠出産に必要な機能を失うことで不可能な人もいれば、病院にかかっても特段の理由も原因もないのに子供が授かれない人もいます。また仕事の環境、自身の価値観、金銭的理由などさまざまな理由で子供を作らないことを選択する人もいます。

いっぽう、同じ卵巣がんの患者さんでも「なんで子供を授かれないことを気にやむの?」「そんな人はいっぱいいるのだから堂々としてればいい」という方もおられます。

人が人と関わる、たとえそれが対面でのコミュニケーションじゃなくても、メディアなどで発信する言葉でも、人が言葉を使って関わる生き物である以上、言葉により励まされるメリットもあれば、言葉により辛い思いをするデメリットも多くあります。

特に子供に関しては、どんなに不妊治療などで努力をしても授かることが叶わないなど、いろいろな理由で辛い思いを抱えている方も多いです。

国会議員のような影響力の強い方が、そのことに触れられる時には言葉の副作用をしっかり考え発言してもらえたら、今回のように不愉快な思いや辛い思いをする方が少なくなるのではないかと思います。

そして、私たち患者会もこうしたさまざまな言葉で患者さんが心を痛めた時には、その痛みに共感をしたうえで、私たちがよりよく社会で暮らしていける環境を整えるような発信を続けていく必要があると思いました。

傷ついただけで終わらないしなやかな優しさと強さを持ち患者さんを支え続けたいです。

【参考】

(※1)患者さんとご家族のための子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん治療ガイドライン第2版/日本婦人科腫瘍学会/金原出版株式会社/p199-202

(※2)月刊誌『新潮45』2018年8月号「日本を不幸にする『朝日新聞』」(新潮社)

【片木美穂(かたぎ・みほ)】 卵巣がん体験者の会スマイリー代表

2004年、30歳のときに卵巣がんと診断され手術と抗がん剤治療を受ける。2006年9月、スマイリー代表に就任。2009年~14年 婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構倫理委員、2009年~北関東婦人科がん臨床試験コンソーシアム倫理委員(現職)、2011年厚生労働省厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会委員、2012年、国立がん研究センターがん対策情報センター外部委員、2014年厚生労働省 偽造医薬品・指定薬物対策推進会議構成員、2015年~一般社団法人 東北臨床研究審査機構理事(現職)。

2010年12月、「未承認の抗がん剤を保健適応に ドラッグ・ラグ問題で国を動かしたリーダー」として、日経WOMAN主催の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010」にて「注目の人」として紹介された。ドラッグ・ラグ問題での経験を活かし、臨床研究の必要性や課題、医薬品開発についてさまざまな場所で伝える活動をしている。