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「トイレ法」に、トランスジェンダーたちが自撮り写真で抗議:それは本当の解決につながるか

アンチ・トランスジェンダー的な「トイレ法」に抗議するため、シスジェンダーで通る魅力的なトランスジェンダーたちの中には、自撮り写真を使って、自分のジェンダー・アイデンティティーに合わないトイレを使用しなければならないことの不条理さを訴えている人もいる。だが、こうした画像をシェアするシスジェンダーの支持者は、「既存のジェンダーロール(性別役割)に従うかたちならばトランスジェンダーを支持できる」と表明することにならないだろうか。

ノースカロライナ州では、トランスジェンダーの人が自認する性に合った公衆トイレに入ることを禁止する州法「HB2」が成立したが、これを受けて多くのトランスジェンダーは、基本的な生理機能の規制だとして抵抗を続けている。

最近用いられて大きな効果を上げている抗議方法は、自撮りだ。こうしたトランスジェンダーたちは、法律上の性別に従った公衆トイレでポーズをとり、HB2(および、米国各地の他の似たような法)を成立させた論理の問題点を突こうと試みている。

この戦略の雛形になったのは、ジェームズ・シェフィールドが投稿したツイートだが、それ以前それ以降も、この戦術は採用されている。非常に男らしい男性が、法的には女子トイレの使用を義務づけられるという現実を見た衝撃で、多くのシスジェンダーは、この法が馬鹿げていることを悟った。

そして4月中旬、新しいタイプの口コミ画像が登場した。トランスジェンダー擁護者のサラ・マクブライドが、ノースカロライナ州政府の建物の女子トイレでインスタグラムに投稿した自撮り写真がFacebookで拡散したのだ。

こうした自撮りのおかげで、ノースカロライナ州に住むトランスジェンダーたちの窮状は注目されるようになった。

しかし、適切なかたちで注目されているのかについては疑問が残る。こういった投稿の多くは、支持者であるトランスジェンダーとシスジェンダーの両方から、励ましと賛同を得た。

ただし、「シスジェンダーで通用するトランス男性」が女子トイレにいる画像は特に、自分の妻や娘が男性とトイレを共有することを望まないシスジェンダー男性の恐怖をかき立てる、と指摘した記事数多かった

これは、以前からずっと存在する、「トイレで性犯罪を行うトランスジェンダー」という通説をはびこらせたパターナリズム(父権的干渉主義)的な恐怖に、驚くほどよく似ているものだ。

一方、見ただけではトランスジェンダーとわからない魅力的な白人女性が写っている、マクブライドのような自撮り写真をシェアした多くの者は、女性として見える外見の者が女子トイレの使用を禁止されることに、軽蔑の念を示した。

だが、彼女がシスジェンダー女性と区別できないということは、ほとんどではないにしても多くのトランスジェンダーが公衆トイレで経験することを正確に表すものではない。

トランスジェンダーの闘いを人間味あふれるものにしようとするマクブライドの試みは、より幅広い人たちを納得させるものではあるが、こんな風に画像がシェアされると、「トランスジェンダーは、シスジェンダーと区別できない普通の立派な人間としてふるまった場合にのみ、安全にトイレを使用するに値する」という考え方を進めてしまう可能性がある。

実際のところ、トイレ法を適切に捉えることは、「トイレでのプレゼンス」という視点からは不可能だ。むしろ、最も完全に捉えるには、「トイレでの不在」という視点に立つことが必要だ。

トイレ法によって受ける影響が最も大きいのは、シスジェンダーで通るトランスジェンダーの人々ではなく、シスジェンダーとしては通用しないトランスジェンダーの人たちなのだ。

特に、有色人種の女性や、男女の性どちらにもあてはまらず、男子トイレでも女子トイレでも違和感を覚えるジェンダー・ノンコンフォーミングの人たち、公衆トイレの使用を全面的に避けている他のトランスジェンダーといった人々だ。

非常に女性らしい、あるいは男性らしい外見の自撮りがソーシャルメディアで口コミで広がり、タイムラインのトップに表示される場合、その画像が示す物語は、最も影響を受けるトランスジェンダーの生活にはほとんど影響を及ぼさない。

「シスジェンダーで通用するトランスジェンダー」によるトイレでの自撮りは、最良の場合は、トイレ法の落とし穴に関する議論のきっかけになるだろう。しかし最悪の場合は、ふさわしい性別に「見える」者だけについて、選んだトイレを安全に利用できるようにすれば、トランスジェンダーによるトイレ使用の問題を解決できる、という通念をはびこらせる結果になる。


BuzzFeed Newsが以前報じたように、マクブライドは2016年4月19日、州政府の建物にある女子トイレから、Instagramに自撮り写真を投稿した。

それは、マクブライドがノースカロライナ州で数日間にわたって、トイレ法がトランスジェンダーの生活に及ぼしてきた影響についてトランスジェンダーの前で講演を行なってきた後のことだった。

投稿に添えられたキャプションには、トイレ法の支持者はトランス女性を、性倒錯者や、女装した男性のように扱っていると書かれている。

「私は1人の人間に過ぎません。私たちは皆、ただの人間です。平和に用を足そうしているだけです」とマクブライドは述べ、「こんなことは止めて。私達は善良な人間です」というメッセージで締めくくっている。マクブライドのインスタグラムが添付されたフェイスブックの投稿は、この記事を書いている時点で4万回以上シェアされている。

マクブライドは、ノースカロライナ州に住む多様なトランスジェンダーについて語りたいと願っている。それを考えると、マクブライドがすべてのトランスジェンダーのために、差別との闘いに打ち込んできたのは明らかだ。

マクブライド自身、自身の投稿へのコメントで次のように書いている。

「自分が、公衆トイレの使用が禁じられていない場所に戻ることができる、恵まれた立場にあることも意識していたいと思います。こうした法が、若者や有色人種のトランスジェンダー、障害を持つトランスジェンダーに特に大きな影響を及ぼすことも意識していたいです」

マクブライドの画像は、本人が制御できないところでシェアされ続けている。それでも、そのメッセージが届いた多くの人々が、外見が彼女のようではないトランス女性よりも、外見が彼女のようなトランス女性を女子トイレに迎えるほうが快適だと感じるのは明らかだ。

ソーシャルメディア上のマクブライドの画像に殺到した多くのコメントの中には、彼女の容姿を褒めているものも多い。マクブライドは、シスジェンダーで通る、女らしい外見の若い白人のトランスジェンダーだ。

その画像は、シスジェンダーとして認識される生活を送り、邪魔されず、気づかれずに、公衆トイレを頻繁に利用できる一部のトランス女性たちを代表する、対決的ではないモデルになる。

マクブライドの画像に対する反応の多くは、単に美しさを褒めるにとどまらない。他のトランスジェンダーをそれとなく、またははっきりと締め出している。「サラ(マクブライド)は女性のように見えるのだから、女子トイレで用を足せるようにするべきだ」というコメントや、「あなたは性倒錯者に見えないし、男性にも見えない」という価値判断とともに支持しているコメントもあった。

こうしたコメントを投稿したシスジェンダーたちは、マクブライドがこれほど「女性らしい」外見でなければ、そこまで支持しない可能性が高い。それに、自分をこうした判断の裁定者と見なしているのは明らかだ。

「男性に見える」トランスフェミニン(「どちらかというと女性」と自認しているトランスジェンダー)は、女子トイレでは歓迎されない存在であり続けている。それは、トイレ使用に的を絞った反LGBT法が相次いで制定される前からずっと同じだ。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校ウィリアムズ研究所のジョディ・L・ハーマンは2013年、これまでで最も包括的な論文を発表した。

その中でハーマンは、トイレを利用しにくい点が、トランスジェンダーの人々の生活にすでに大きな影響を及ぼしていることを示している。ワシントンDC地区のトランスジェンダー93人を対象にしたこの調査では、回答者の3分の2以上が、公衆トイレで言葉による嫌がらせを経験し、18%が利用を拒否されたことがあり、9%が暴行を受けたと回答した。

この調査から、ノンバイナリー(non-binary:性別を男女に特定しない人。第三の性別とも言う)やジェンダークィア(ジェンダー・ノンコンフォーミングの別称)とされる人々は、公衆トイレでトラブルを体験する可能性が比較的高く、MtF(男性として生まれて性自認は女性)のトランスジェンダーは暴行を受けやすいことも明らかになった。また、あるMtFトランスジェンダーは、男子トイレを利用しようとして性的暴行を受けたと回答した。

ハーマンによると、こうした体験はトランスジェンダーに広範な影響を及ぼしてきたという。

トイレ利用を拒否されたので、学校を休んだり仕事を辞めたりしなければならなかったと答えた者が複数いたほか、トイレを利用できるかが心配で公共の場に出かけるのを避けてきたと答えた者は半数を上回った。

これが、「安全な公衆トイレの不足」がトランスジェンダーの生活に日々与えている影響なのだ。こうした影響は、トランスジェンダーがジェンダー・アイデンティティーに合ったトイレを利用することを認めない法のせいで大きくなる一方だ。

ノースカロライナ州のHB2のような法がどのようなかたちで執行されるのか、その詳細は明確でない。同州の警察は、HB2違反者の特定や告発、処罰がどうなるのか明らかにしてない。だが、執行状況に関係なく、HB2法案が提出された敵意ある環境は、トランスジェンダーに対して大きな悪影響を及ぼすのに十分だ。

シスジェンダーで通るトランスジェンダーが公衆トイレで自撮りをしても、トランスジェンダーの中でもいちばん弱い立場にいる人々の恐怖を伝えることはできない。そうした自撮り写真の投稿者は、自分たちが恵まれた立場にあると認めている場合が多いし、皆の代弁者になろうとしているとは限らない。

それでも、こういった画像が投稿者の手を離れたところでシェアされ、コメントが投稿され続ける中で、画像に写っているような存在に対して支持を表明する人々の多くは、自分が支持できる条件は、既存のジェンダーロールに従うことだとはっきり述べることになる。

トラブルに巻き込まれる危険性がほとんどない状態でトイレを利用できるトランスジェンダーにフォーカスを当てることは、あるメッセージをシスジェンダーに送ることになる。つまり、社会的に受け入れられるかたちで存在するトランスジェンダーこそが、安全と支援に値するトランスジェンダーだというメッセージだ。

だが、トランスジェンダーの多くは、そんな風にはなれない。ジェンダー表現や、身体的な外見、自認するジェンダーを支持してくれるような医療措置を利用できないことなどが理由でだ。シスジェンダーの恐怖心を煽ることも、あるいは、「善良な」トランスジェンダーという許容可能なイメージでシスジェンダーを安心させることも、トランスジェンダー全体が安全にトイレを使えることを保証するものではない。

ジェンダー・アイデンティティーやジェンダー表現がどうであれ、すべてのトランスジェンダーに平等に、制限なく公的生活を送る権利があると主張することによって初めて、すべてのトランスジェンダーが平和に公衆トイレを利用できるようになる未来を期待できるようになるのだ。

この記事は英語から翻訳されました。翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:BuzzFeed Japan

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