さまざまな不条理に翻弄されながら、ホームレスとなった男性の人生の軌跡を描いた『JR上野駅公園口』で全米図書賞(翻訳文学部門)を受賞した小説家の柳美里さん。
『我と汝: 対話』(マルティン・ブーバー)
孤高の宗教哲学者ブーバーによれば、世界は人間のとる態度によって〈われ‐なんじ〉〈われ‐それ〉の二つとなる。現代文明の危機は後者の途方もない支配の結果であって、〈われ〉と〈なんじ〉の全人格的な呼びかけと出会いを通じて人間の全き回復が可能となる。対話的思惟の重要性を通じて人間の在り方を根元的に問うた主著二篇。(Amazonより)
『ことばが劈かれるとき』(竹内敏晴)
からだは、自分と世界とがふれる境界線だ。そこに必死になって生きようとしながら、閉ざされ、病み、ゆがむ“からだ”…。幼時に耳を病んだ著者が、どのようにして“こえ”と“ことば”を回復し、自分と世界とのふれ合いを、また、人間関係のダイナミズムをとり戻していったか―。長く苦しい努力の過程を語りつつ、人間の生き方の根底を照らし出すユニークな一冊。(Amazonより)
『全体性と無限』(エマニュエル・レヴィナス)
西欧哲学を支配する「全体性」の概念を拒否し,「全体性」にけっして包み込まれることのない「無限」を思考した、レヴィナス(1905―1995)の主著。暴力の時代のただなかで,その超克の可能性を探りつづけた哲学的探求は,現象学の新たな展開を告げるものとなる。(Amazonより)
10代のころ、学校や家庭で孤絶し「本」に救われた経験があるという柳さん。「言葉は、光になる」と語ります。
「気分が沈んだときに、ひとつの物語を通して読むのが難しいという方も多いのではないでしょうか。私も小説を書いていながら、東日本大震災のあとは小説が読めなくなってしまった。手にとるのは、哲学や宗教、社会学の本が多いですね」
「紹介した3冊は、震災のあとから枕元に置いて、何回も繰り返し読んでいるのでもうボロボロです。パッと開いたときに、そこに書かれている言葉や、問いに救われることがあるんです」
「私は、本を読むときには、1冊を読み通さなくても良いと思っています。同じページでずっと1年間立ち止まってみても、1日1ページしか読めなくてもいい。1行だけでも読んで、考えてみるという読み方もあるはずです。そこにある言葉が、出口も見えないトンネルのなかにいるときに、光になりうるはずですから」