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「県民の理解が…」と除外された性風俗。山形県の事業者向け“抗原検査キット”配布、職業差別と批判も…

「従業員数の少ない中小企業等が事業継続を判断した際に、従業員が安心して出勤できる」ためにキットを配布する山形県の事業。その対象は「山形県内に本社又は本店を置く法人又は個人事業主」だが、「大企業、政治団体、性風俗産業を除く」とされている。

山形県がコロナ禍において中小企業などを支援するために実施を開始した「抗原検査キット配布」の事業で、性風俗業を対象から除外していることがわかった。

県側は「県民の理解が得られにくい」などと理由を説明。「職業差別」であると批判もあがっているが、現段階で対応を変える方針はないとしている。

性風俗業をめぐっては、国のコロナ給付金の対象外とされ、事業者側が「違憲」と国を提訴。一審判決はこれを退ける判決を下しており、県側の判断にも影響を及ぼしたとみられる。弁護団は「差別の連鎖」を懸念している。

県産業創造振興課によると、山形県では事業所で感染者が確認されても保健所による濃厚接触者の特定が行われず、各事業所に出勤判断が委ねられている。

そこで、「従業員数の少ない中小企業等が事業継続を判断した際に、従業員が安心して出勤できる」ためにキットを配布することになったという。

事業は6月に予算を確保し、7月25日に公表されたもので、27日から申請の受付が始まった。今回の7波を想定したものではなかったが、結果として「非常に多くの申し込みをいただいている」(担当者)という。

1週間以内に従業員や家族に濃厚接触者が出た事業者に、1回あたり20テスト(10テスト×2日分)が配布されるという枠組み。その対象は「山形県内に本社又は本店を置く法人又は個人事業主」だが、「大企業、政治団体、性風俗産業を除く」とされている。

ここで性風俗業が除外された理由について、同課の担当者はBuzzFeed Newsの取材にこう説明した。

「(性風俗業は)性行為や性的欲求を満足させるようなところがありますので、社会通念上、公的支援の対象とするなかで県民の理解が得られにくいと判断し対象としませんでした。また、当県の他の各種支援事業でも同じ形をとっており、その整合性も考慮して、対象を限定させていただきました」

こうした対応について、同課にはメールや電話などで「差別的」だとする批判的な意見や問い合わせなども寄せられているが、現状は変更する予定はないという。ただし、サイト上の「Q&A」で理由を補足するなどの対応は検討している。

国の給付金めぐる裁判でも…

そもそも性風俗業とコロナ支援制度をめぐっては、国の「持続化給付金」や「家賃支援給付金」でも除外されていたことが問題視され、国会などでも取り上げられていた。

梶山弘志・経済産業相は、昨年5月に開かれた参院予算委員会で野党から「職業差別である」と見直しの必要性を指摘された際に、こう答えた

「社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくいといった考えのもとに、これまで一貫して国の補助制度の対象とされてこなかったことを踏襲し、対象外としている」

これに対し、関西地方でデリヘル(派遣型ファッションヘルス)を経営する女性が、国の取り扱いは「職業差別」であり、「法の下の平等」を保障する憲法に反しているなどとして、訴訟を起こした。

しかし東京地裁は6月30日、原告側の訴えを退け、国の取り扱いが「合憲」であるとの以下のような判断を示した。なお、原告側はこれを不服とし、控訴した。

「限られた財源で行われる公的な給付金の制度設計は行政の裁量に委ねられている。客から対価を得て性的好奇心を満たすようなサービスを提供するという性風俗業の特徴は、大多数の国民の道徳意識に反するもので、異なる取り扱いをすることには合理的な根拠がある」

山形県の担当者はこうした動きについては把握しており、ほかの県の支援事業との整合性をとりながら、この判決や国側の主張なども今回の判断の「参考」にしたとしている。

専門家は「差別の連鎖」を懸念

この「セックスワークにも給付金を」訴訟をめぐっては、弁護団の一人である亀石倫子弁護士が当時のBuzzFeed Newsの取材にこう答えている。

「国が長い間、性風俗事業者を多くの公的給付の対象から外してきたその根底には性風俗への誤解や偏見があり、コロナ禍によって性風俗に対する『職業差別』が浮き彫りになったのではないか」

今回の山形県の問題は、司法が「職業差別」に「お墨付き」を与えた判決が、地方自治体の行政に影響を及ぼしていることが浮き彫りになった事例であるとも言える。

弁護団長の平裕介弁護士は取材に対し、山形県の判断を「憲法14条1項の平等原則に違反する行政裁量の逸脱濫用で、違憲・違法な判断です」と批判する。

「『県民の理解を得られない』というのが果たして本当なのか。統計資料等はなく、さらに違法な営業を行っているわけではなく、納税もしているなかで、その事業だけいかがわしいというのは論拠としては弱すぎるのではないでしょうか」

「命の問題、健康問題についての差別は許されないもので、これは東京地裁の判決でも触れているもの。山形県は判決を参考にしているといっていますが、その点も不合理です。コロナ対策という側面を無視した、よりひどい対応です」

平弁護士は国や司法の判断により、ほかの自治体などでも「差別が連鎖する」と懸念を示し、「高裁はこうした状況が起きていることも踏まえて、しっかりした判断をしてもらいたい」と語った。