関東大震災の朝鮮人虐殺、ウィキペディアが一時白紙に 小池知事の追悼文めぐる報道直後

    削除依頼が出されていた。

    東京都の小池百合子知事が、関東大震災で虐殺された朝鮮人らを弔う式典への追悼文の送付を断ったと報じられた8月24日朝、Wikipediaの記事「関東大震災朝鮮人虐殺事件」が一時白紙にされていたことがわかった。

    報道を受け、「関東大震災の朝鮮人虐殺」という言葉が注目を浴びていた時間帯に、約23分間、Googleで「関東大震災 朝鮮人」などと調べると先頭に表示されるWikipediaの記事が読めなくなっていたことになる。

    記事にはさらに削除依頼が出されるなどしたが、すでに閲覧できるようになっている。

    Wikipediaは、ユーザーが自ら編集がすることができるウェブ上の百科事典。その方針に賛同する人であれば、誰でも記事の内容に手を加えられるようになる。

    「関東大震災朝鮮人虐殺事件」の記事には、事件について、虐殺された人の数や事件に至った背景などが記されていた。

    編集記録によると、記事が白紙にされたのは、8月24日午前9時19分のことだ。

    直前の午前9時5分に作成された利用者アカウントによって、「現在、削除の方針に従って、この項目の一部の版または全体を削除することが審議されています」との項目が加えられ、記事中のすべての内容が削られた。

    つまり、記事自体は残っていても、内容は何もない状態にされたのだ。

    8月24日の朝には、東京新聞が、「関東大震災の朝鮮人虐殺 小池都知事が追悼文断る」として、小池知事が、少なくとも10年以上前の石原慎太郎知事時代から続いていた虐殺犠牲者の慰霊式への追悼文送付を取りやめたことを報じている。

    報道を受け、Twitterでは「関東大震災の朝鮮人虐殺」がトレンド入り。インターネット上で注目を浴びていた。この「白紙化」の時間帯は、これに重なる。

    「白紙化」から23分後の午前9時42分、別のアカウントが「意味不明な削除依頼で白紙化されているのを差し戻し」として、記事の内容を元どおりにする措置を取った。

    突如出された削除依頼

    そもそも、Wikipediaの編集は誰もができるが、記事の削除は「削除依頼」を経て、一定の条件を満たしている編集者たちの議論や投票が必要になる。

    「白紙化」の変更を加えた利用者は、記事の内容が元どおりになった7分後に、削除依頼を申請している。

    理由は、「民族的感情と目線が中心の憎悪に基づいていて、WP:NPOVWP:NORの考えが欠けている記事」であるというもの。

    これは、NPOV(中立的な観点)とNOR(独自研究は載せない)というWikipedia日本版の方針に違反している、との指摘だ。

    依頼に基づき、削除の審議に参加できる資格のある複数のユーザーたちが議論を始めた。記事には改めて、「削除の審議中」であることが表示された。

    「編集歴のないユーザーがこの記事を狙い撃ちしたのは疑問」「記事としての特筆性は十分にあり加筆や出典の追加が見込める」などの意見があり、最終的に「削除の方針に合致しない」との方向性がまとまった。

    管理者の決定により、削除依頼が却下されたのは、8月25日午前5時前。依頼がでてから約19時間後のことだ。

    相次いでいた「編集合戦」

    以前からこの子記事は、様々な利用者による編集(いわゆる「編集合戦」)が続いていて、出典の不足や正確性への疑問などが指摘されていた。

    たとえば、虐殺された人数については、以前は「少なくとも6000人」とされたり、「学術的には最大でも1,000人未満程度」などと書かれたりしていたが、白紙化の直前には「少なくとも233人(司法省調査)の朝鮮人が殺害された事件である(朝鮮総督府官憲調査では813人)」となっていた(8月30日現在も同様)。

    また、2017年7月には「背景」という項目に、警察が「朝鮮人に注意するように」と通達を出した理由が「これは従来よりこの民族の犯罪傾向が高かったためである」と書き加えられたが、この一文については現在削られている。

    さらに、「竹槍で朝鮮人を殺している自警団」として掲載されている写真は、8月24日午後9時25分に作成されたアカウントによって一旦削除されたが、5分後に別のアカウントの編集により復活。

    現在は「自警団が竹槍で朝鮮人を殺している様子として戦後に掲載された写真」というキャプションに変わっている。

    8月24日を機に盛んになった「編集合戦」は3日間ほどで落ち着いた模様だ。


    CORRECTION

    記事中の一部表現を修正しました。