なぜ小池知事は関東大震災・朝鮮人虐殺の追悼文を断ったのか 都議会で交わされた”あるやりとり”

    改めて経緯を紐解いた。


    東京都の小池百合子知事が、9月1日に開かれる、関東大震災で虐殺された朝鮮人らを弔う式典への追悼文の送付を断ったことがわかった。

    これは少なくとも10年以上前、石原慎太郎知事時代から続いていた慣例で、小池知事も昨年は同様の対応をしていた。しかし、3月の都議会で「虐殺された朝鮮人の人数」をめぐる質疑があったことなどを機に取りやめたという。

    いったい、何があったのか。

    まず経緯を振り返る

    式典は、1973年に東京都墨田区の都立横網町公園に「朝鮮人犠牲者追悼碑」が建立されて以降、震災のあった9月1日にほぼ毎年開催されてきた。

    関東大震災後に流れたデマによって、虐殺された人たちを弔う目的。主催する市民団体「日朝協会都連合会」によると、都知事による追悼文には、犠牲になった朝鮮人への追悼の意や、それを繰り返さないとする思いなどが記されていた。

    なぜ、送付を取りやめたのか。都建設局公園緑地部管理課の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に「個別の追悼行事への追悼文の送付を差し控えようという方針になった」と説明する。

    横網公園では毎年3月と9月、東京大空襲と関東大震災で亡くなった人を弔う法要が開かれている。知事はここで「震災の犠牲になったすべての人」に哀悼の意を表しており、個別の式典に追悼文を送付する必要はないとの判断をしたという。

    では、このタイミングでの方針転換になった理由は。担当者は言う。

    「昨年から都民の方から『こうした式典に追悼文を出すのはどうかと思う』といった指摘をいただき、検討を進めていました。また、3月議会で都民の代表であられる都議の先生が同様の質問をされたことも、大きな機会になりました」

    きっかけとなった、都議会質疑

    担当者が「大きな機会」と表現したのは、3月の都議会で出た、朝鮮人追悼碑や式典に関する質疑だ。

    この質疑では、自民党の古賀俊昭都議が、公園にある追悼碑の「あやまった策動と流言蜚語のため6千余名にのぼる朝鮮人が尊い生命を奪われました」との文言について「事実に反する」と問題視した。

    そのうえで、同様の人数が虐殺されたとしている日朝協会主催の式典に、知事が追悼文を送付することは「歴史をゆがめる行為に加担する」とし、送付の再考を求めていた。

    実際、この人数についてはっきりとした数字はない。

    内閣府中央防災会議が出した報告書は、関東大震災の死者・行方不明者を約10万5千人としたうえで、朝鮮人や中国人などを含めた虐殺の被害者について「殺傷事件による犠牲者の正確な数は掴めないが、震災による死者数の1~数パーセント」としている。

    都の担当者によると、「都民からの指摘」にも、古賀議員と同様に虐殺された被害者数を問題視するものがあったという。

    ただ、その指摘が個人によるものなのか、団体なのか、何件ほどあったのかについては、明らかにしていない。

    慣例として長年続いていた知事の追悼文をやめるに至るほどの理由は、どこにあるのか。

    都議会でのやりとりとは

    都議会では、どのようなやりとりがされていたのか。2017年3月2日の議事録を見てみよう。

    質問に立った自民党の古賀議員(日野市選出)は、1993年に初当選をした7期目のベテラン。2017年の都議選では「日本のこころ」の推薦も受け、次点(1万6458票)で当選した。

    自身のホームページによると、「戦後日本社会の中で忘れられた国家の誇りを取り戻す運動にも積極的に関わ」っているといい、「日本人なら知っておきたい近現代史50の検証」などの著書がある。

    質疑で古賀議員はまず、朝鮮人犠牲者を追悼することについて「異論はありません」としつつ、「事実に反する政治的主張と文言を刻むことはヘイトスピーチ」だと主張。

    当時の国勢調査などに言及し、虐殺された「六千余名」という数字が「根拠が希薄な数」であるとした。

    公園内に朝鮮人犠牲者を追悼する施設を設けることに、もとより異論はありませんが、そこに事実に反する一方的な政治的主張と文言を刻むことは、むしろ日本及び日本人に対する主権及び人権侵害が生じる可能性があり、今日的に表現すれば、ヘイトスピーチであって、到底容認できるものではありません。

    そのうえで、「六年後の平成三十五年は、関東大震災百周年に当たります」と指摘。韓国が「謝罪と補償」を求めてくる可能性があるからこそ、「知事の判断は国益にもかかわる」とし、碑の「撤去を含む改善策」の必要性を訴えている。

    朝日新聞や詐話師であった吉田清治が捏造し、世界中に垂れ流し続けた慰安婦強制連行が完全な虚構であったことが判明した今、次に関東大震災百年を捉えて、朝鮮人犠牲者への我が国の謝罪と補償をいい募ってくる可能性があることは否定できません。だからこそ、知事の判断は国益にもかかわることであり、重かつ大であるといわなければならないのです。

    歴史の事実と異なる数字や記述を東京都の公共施設に設置、展示すべきではなく、撤去を含む改善策を講ずるべきと考えます

    また、9月1日の日朝協会の式典については「当組織の案内状には、六千余名、虐殺の文言があります」と言及。追悼文の送付が「歴史をゆがめる行為に加担する」とし、送付の是非を再検討するよう求めた。

    東京都を代表する知事が歴史をゆがめる行為に加担することになりかねず、今後は追悼の辞の発信を再考すべきと考えます。

    小池知事の回答、そして碑の行方は

    これらに関する小池知事の回答はこうだ。

    まず、追悼碑にある犠牲者の数ついては「さまざまなご意見がある」とし、「適切に対応したい」として、「改善」に含みをもたせた。

    大震災の際に、大きな混乱の中で犠牲者が出たことは、大変不幸な出来事でございます。そして、追悼碑にある犠牲者数などについては、さまざまなご意見があることも承知はいたしております。

    都政におけますこれまでの経緯なども踏まえて、適切に対応したいと考えます。

    また、追悼文については「慣例的に送付してきた」とし、「私自身がよく目を通」すと答えた。碑と同様に見直しを示唆している。

    この追悼文についてでありますけれども、これまで毎年、慣例的に送付してきたものであり、昨年も事務方において、例に従って送付したとの報告を受けております。今後につきましては、私自身がよく目を通した上で、適切に判断をいたします。

    担当部局が検討をし、知事の了解を得たのはこの4ヶ月あと、7月のこと。結果的に、追悼文についてはこのやりとりの通り、見直された。では、碑についてもなんらかの改善策が講じられることはあるのだろうか。

    その点についてBuzzFeed Newsが問うと、都の担当者はこう答えた。

    「碑に関しましても、質疑や都民のご指摘を受け検討しましたが、都として現状のままという方針を決定しました。虐殺された人数については諸説あるため、都の方で正しい間違ってるという判断する立場にもなく、できない、ということがその理由です」

    主催団体側は抗議の意思

    一方、BuzzFeed Newsの取材に応じた日朝協会都連合会の赤石英夫事務局長は、「都側の説明はまったく理由にならない。納得できません」と憤る。

    虐殺された人数について碑の記載を踏襲しているという同会では、古賀議員の質疑が都側の判断に影響を及ぼすことを懸念。同様の対応を続けるよう要請していたが、追悼文取りやめの報告があった8月以降も変化はなかった。

    「都の幹部と面会した際には、『長い間にやってきた都知事の追悼の意を出すことは間違っていたのか、中身が不適切だったのか』と問いただしたが、『そうではない』ということだった。それなら、なぜ追悼文を出せないのか」

    碑や式典をめぐっては、保守系団体がブログなどで抗議を続けている。今年9月1日には、式典が開催される同じ公園内で「真実の関東大震災石原町犠牲者慰霊祭」も開かれる。

    都側は同会に「団体による抗議」があったことは認めたものの、その詳細は明かしていないという。赤石さんはこれが保守団体によるものだったのではないか、と見ている。

    「虐殺の犠牲者を慰霊する場を『個別の式典』とする今回の判断は、大きく捉えれば日本の負の歴史を封印する手助けにもなってしまうと思っています。都側は古賀議員や抗議をした団体に屈してしまったのではないでしょうか」

    都側には文書で経緯に関する正式回答を求めており、それを受け、改めて抗議をする方針だ。


    各地の朝鮮人追悼碑をめぐり、BuzzFeed Newsは【撤去された「朝鮮人強制連行追悼碑」 問われた「中立性」とは】という記事を掲載しています。