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「助けられるはずの命が、助からないかもしれない」 "ピークアウト”の裏側で。救急医がいま、伝えたいこと。

第6波については、全国各地でピークアウトが伝えられている。一方で、千葉だけでなく全国的に救急医療が逼迫する危機的な状況は、変わらない。

新型コロナウイルスの感染が収まらないなか、救急医療の現場で逼迫が続いている。

最前線の現場に立つ医師は「助けられるはずの命が、助けられなくなってしまっている」とその実態を語る。

ピークアウトが伝えられる裏側で、いったい何が起きているのか。話を聞いた(インタビューは2月24日に実施)

「医療の需要に対し、供給がまったく追いついていない。そもそも、入院するベッドが空いていないんです」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、国際医療福祉大学成田病院・救急科部長の志賀隆さんだ。

「入院が必要な場合でも、お断りをせざるを得ない例が毎日のように起きています。たとえば、新型コロナウイルスの患者が何人か出ているという高齢者施設の方で、酸素飽和度が70〜80%と、そのままにしていたら亡くなるしかない状況でも、受け入れることができなかったということがありました」

これは、志賀さんの病院だけで起きていることではない。県内のほかの病院も同様の状況で、転院先も見つからないことが多いという。

「ひとつの病院にベッドがないわけじゃなく、千葉県の隅々までベッドがないんです」。新型コロナ患者で救急病床が埋まっていることに加え、冬は脳関係の病気やけがの増える季節であることも影響していると、志賀さんはみている。

「12月であれば助かったような患者さんでも、いまは亡くなってしまうというような状況なんです。コロナがなければ助けられる人がたくさんいる。コロナだって、数が少なければ助けられるんですが……。助けられる命を、助けられない状況になってしまっている」

そのような状況について、「本当に悲しいですよね」と心情を吐露する。たとえ命に危険があっても入院ができないという状況は、新型コロナに感染しているか、していないかに関わらないともいう。

「骨折や心不全など、コロナではなくても同様のことが起きています。いまはとにかく、防ぎうる大きなケガや病気はしないようにしてください。入院したくても、できないかもしれません。助けられるはずが、助からないかもしれません」

「嵐を過ぎるのを待つしかない」

第6波については、全国各地でピークアウトが伝えられている。一方で、千葉だけでなく全国的に救急医療が逼迫する危機的な状況は、変わらない。

救急患者の搬送先が見つからない「救急搬送困難事案」が、ひとつの指標となる。総務省消防庁のまとめ(2月14〜20日)の1週間で6064件と、第5波のピーク(3361件)を大きく超え、6週連続で過去最多を更新していた。

「感染者が減ったとはいえ、病院のある千葉県だけでも毎日何千人、全国では何万人と感染者が出ています。現場にいる僕らがどうにかできる問題じゃなくなってしまったくらい、いまもまだ大きな波の中にいるという感覚です。重症化するのは少し遅れてから。ピークはつい最近にあったわけですし、1ヶ月くらいはまだまだ厳しい状況が続くのではないでしょうか」

現場で最前線に立ち続ける医療者たちの体力、精神面も限界に近づいていると、志賀さんは感じている。

「数が多すぎて、嵐が過ぎるのを待つしかない。完全に負けいくさなんです。諦めてしまったわけではありませんが、人間がどうにかできるような状況ではなくなってしまっている。本当に辛いですね」

「そもそも、もう2年やってますから。それに来年度だって、きっと続くでしょう。終わりがないんです。本当に現場の医療者はみんなつらいと思いますよ。私も疲れていますよ。限界を超えないようにはしていますが、かなりギリギリのところにいます」

そのうえで志賀さんは、この「第6波」を乗り越えるためだけではなく、次の波を見据えながら、「ワクチン」の大切さをこう強調した。

「もし過去に戻ることができるのなら、3回目のワクチン接種をとにかく早くすべきだったと感じています。とはいえ私自身、第5波のときはどこか根拠なく収まったと思い込んでいた。今回のような接種の遅れが、次の波のときにこないようにしないといけません」

「次の波は、おそらくくるでしょう。なくなる理由が特段ないですから。今回よりも大きな波がくる可能性も十分にある。とにかくできることはワクチンを遅滞なくうつことですから、高齢者やハイリスクの人たちの感染や重症化を防ぐため、今後の接種についての議論も、もう始めないといけないと思います」