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実は他人事じゃない「裁量労働制」 そもそも何が問題なのか、知ってますか?

国会で揉めていますが…

国会でいま、「裁量労働制」が注目を浴びている。

その対象職種の拡大めぐる働き方改革関連法案の議論で、データの不適切使用があり、安倍晋三首相が答弁を撤回。さらにほかにも数値の異常などの不備が見つかり、野党は批判を強めている。

実はこの「裁量労働制」をめぐる議論は、多くの人にとって他人事ではない。なぜなのか、改めて問題点を振り返る。

まず、経緯を振り返る

そもそも、「裁量労働制」とは、みなし労働時間制の一種で、労働時間に関わらず賃金が支払われる制度だ。

働き手は自らの「裁量」で仕事ができるとされている反面、長時間労働をしても残業代は支払われない。それゆえ、会社側による濫用の危険性もある。

対象業務などの基準は厳しい。現行法では、研究者や記者、デザイナーなど専門的な職種(専門業務型)や、企業の中枢などで事業計画などに携わる業務(企画業務型)に限られている。

しかし、裁量がない労働者に適用され、結果として長時間労働を強いられているケースは少なくない。

「ブラック」な長時間労働や残業代未払いのトラブルも相次いでおり、「定額働かせ放題」という批判もあがっている。

また、野村不動産や外資医療機器大手の日本メドトロニックのように、裁量労働制の不正をめぐり、労基署から是正勧告を受けている会社も出ている。

政府は、対象業務を一部の営業職などに広げる法改正を目指している。

ただ、その定義が不明確なため、会社側による濫用の危険性がさらに高まるとの批判も上がっているのだ。

明らかになったデータの不適切使用

そんな法改正の議論の中で明らかになったのが、厚労省の調査結果をめぐるデータの不適切使用だった。

安倍晋三首相は1月29日、裁量労働制が適用されている人の労働時間に言及し、「平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と述べていた。

しかし、このデータが不適切だったのだ。裁量労働制と一般労働者のデータを、本来は比べられないにも関わらず比較していた。

議論が始まってから3年にわたって、不備のある比較データを使っていたことになる。批判を受け、首相は2月14日に答弁を撤回。謝罪した。

さらにこれ以外にも、行政、労働者、企業側(公労使)で法案を議論した労働政策審議会(労政審)に出されていた資料で、残業時間が「1日45時間」といった数値の異常が見つかるなど、問題が収まる気配はない。

野党は強く反発しているが、政府は「働き方改革国会」と位置付けた今国会での成立を諦めていない。背景には、経済界からの強い要望がある。

施行時期を1年遅らせるとしているが、法案には問題ないとの構えだ。「残業時間の上限規制」との抱き合わせ法案であることも、撤回を拒む理由にしている。

水面下で横行する不正

労働問題に詳しい塩見卓也弁護士(京都弁護士会)は、BuzzFeed Newsの取材に対し、「議論をやり直すべきだ」と政府の対応を批判した。

「そもそも裁量労働制の本質は、業務の遂行や時間配分を自分の裁量で決められるというところにあります。きちんと法で定められた対象業務に適用され、命じられる業務量も過大でなければ、ストレスのない働き方が実現できると評価することもできます」

「しかし、対象外の業務に違法に適用されたり、形だけは対象業務に見えても裁量がほとんどない労働者に適用され、結果として長時間労働と残業代の未払いが強いられている場合が少なくありません。残業代を払いたくないがために制度を濫用している事例は水面下で横行している」

労働政策研究・研修機構の2013年調査では、月平均労働時間で比べると裁量労働制の方が一般労働者を上回っているという結果も出ている。野党も国会で言及しているデータだ。

これによると、1か月の労働時間の平均は、専門業務型裁量労働制が203.8時間、企画業務型裁量労働制が194.4時間。通常の労働時間制が186.7時間だった。

「このデータからも、本来対象としてふさわしくないにも関わらず制度を適用され、裁量もなく過大な業務量を与えられている人たちがいることがわかります」

「政府は厚労省の調査を元に、労働時間が短くなる、多様な働き方につながるなどと反論していましたが、今回の国会でそれが捏造と言っても良いほどいい加減なデータに基づいていたと明らかになったのです」

他人事ではない対象拡大

そのうえで塩見弁護士は、法改正されれば多くの人に影響が及ぶ可能性があると指摘。議論のやり直しが必要との見方を示した。

「改正案の非常に大きな問題点は、拡大対象の業務の定義が専門家から見ても不明確だということです。適用される側の労働者がわかるわけもなく、曖昧なまま適用されてしまう人が増えることになる」

「やはり、労政審の議論からやり直すべきでしょう。裁量労働制は長時間労働につながるという点から、ふさわしい職種とは何なのか洗い直す必要がある。ただ、それ以上に行うべきは、すべての人が無理なく就労参加できるよう、生活時間をしっかりと確保できるような労働時間規制であるのではないでしょうか」


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