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「アオサが新型コロナに効果?」中部大の発表「研究者倫理に反する」と専門家は批判

メルカリでは「コロナウイルス対策に!」として転売がはじまったほか、SNS上には、一部のスーパーでアオサが売り切れた様子がアップされている。一方、研究結果や「効果に期待」というリリースに疑義を示す声が相次ぎ、削除された。

中部大学(愛知県)が公表した、「海藻のアオサが新型コロナウイルスを抑制する効果に期待」できる、という「研究結果」。

一部メディアで報じられるとアオサが売り切れ、メルカリで転売され、さらに海苔メーカーの株価があがるなどの事態に。一方で研究そのものに疑問を投げかける声や批判も相次ぎ、大学側はプレスリリースを削除した。

専門家は「ミスリーディングであり悪質という印象」と一刀両断する。いったい、どういうことなのか。

2月20日に公開されたのは、中部大学・生命健康科学部の河原敏男教授と工学研究科の林京子客員教授、化学薬品メーカー「江南化工株式会社」(三重県)とアオサの健康効果を研究するラムナン研究所(同)の共同研究の結果。

《海藻の「あおさ」にヒトコロナウイルス増殖抑制効果を確認 ─新型コロナウイルスでの効果にも期待─》

プレスリリースでは、アオサに含まれる「ラムナン硫酸」が「ヒトコロナウイルスの抗体を増やす効果があることを確認した」と主張。「新型にもラムナン硫酸の効果があると期待している」と述べている。

リリースは一部メディアが引用して記事化され、拡散。メルカリでは「コロナウイルス対策に!」として転売がはじまったほか、SNS上には、スーパーでアオサが売り切れた様子がアップされている。さらに、加工海苔メーカーで唯一上場している「大森屋」の株価が一時18%以上あがるなど、影響は広がった。

一方、一部では批判の声もあがった。研究チームが化学薬品メーカー「江南化工株式会社」がアオサ(ラムサン硫酸)のサプリメントを販売していることに触れ、利益相反があるなどとして信頼性に疑問を投げかける声もあった。

プレスリリースは2月25日夕までに削除された。BuzzFeed Newsの取材に対し、中部大学の広報担当者は「意図した内容と違う捉え方をされ、反響が大きくなってしまっているということで、一旦取り下げた」と回答。

「効果が新型コロナウイルスに期待できるという風に記載していたが、今回立証されたのはヒト型コロナウイルスだった」としている。

専門家は「論外です」

「論文化されていない内容について言及しています。行った実験は、A型インフルエンザウイルスを用いて感染モデルを作り、マウスにあおさの成分であるラムナン硫酸を与えたというものです。プレスリリースに書かれている情報から考えると、まずコロナウイルスはまったく用いられておらず、論外です」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、米国国立研究機関博士研究員として免疫学やウイルス学を専門とする峰宗太郎医師だ。

プレスリリースによると、研究チームは「ラムナン硫酸」の効果を以下のように「A型インフルエンザウイルス」に感染したマウスを用いて調べた、としている。理由は「ヒトコロナウイルスの感染実験に使用できる動物がいない」からだという。

A型インフルエンザウイルスを用いて感染マウスに対するラムナン硫酸の効果を調べた。その結果、ウイルスに感染させたマウスにラムナン硫酸を与えたところ3日後のウイルスの量が半減した。

一方で、コロナウイルスについては以下のように、インフルエンザウイルスと「エンベロープとRNAを持つ」という共通の構造を持つことに触れているのみ。新型コロナウイルスを含め、「増殖を抑える効果」をどう確認したのか、その根拠は特段示されていない。

ヒトコロナウイルスと新型コロナウイルス、他に麻疹ウイルスやおたふくかぜウイルス、A型インフルエンザウイルス、エイズウイルスもエンベロープとRNAを持つ点で共通する。ヒトコロナウイルスだけでなくこれら他のウイルスについてもラムナン硫酸がウイルスの増殖を抑える効果を持つことを確認した。

この点について、峰医師はこう指摘する。

「コロナウイルスとインフルエンザウイルスは全く異なるウイルスであり、エンベロープに存在するタンパクの種類も全く違います。感染による影響も異なり、代用はできません。なので、『ラムナン硫酸にコロナウイルスの増殖を抑制する効果』は当然、妥当ではありません」

「非常にミスリーディングであり悪質」

また、「A型インフルエンザウイルス」を用いた実験手法についても、以下のように指摘した。

「『ヒトコロナウイルスの感染実験に⽤いることができる動物はいない』としていますが、すでにマウスモデルが作製されています。これはここ数日の動きなので知らなかったのだと思いますが……」

「また、ラムナン硫酸を投与した量もわかりませんし、抗体量については感染モデルの話なのか、通常のマウスに投与しただけでなのかもわかりません。また、抗体がインフルエンザウイルスに対して特異的な反応であるかも不明であり、なんとも言えません」

さらに、プレスリリースのなかでラムナン硫酸について「ウイルスのエンベロープ中のタンパク質が生細胞へ付着しようとするのを阻害する、腸管に集中する免疫細胞を活性化して抗体の産生を促進する2つの効果を持つ」とされている点についても、こう指摘した。

「まず、前者の効果については、コロナウイルスでは当然確認されていません。実験の詳細は不明ですが、ウイルスをラムナン硫酸に作用させて感染実験を行なったデータが必要です。データが提示されていないため詳細は言及できません。後者も、腸管における免疫細胞の活性化もデータが提示されておらず、言及不可能です」

そのうえで峰医師は、論文として根拠や詳細を明示していない中で効果を宣伝するような今回のプレスリリースを批判した。

「全体として非常にミスリーディングであり悪質という印象です。少なくとも論文が出版されるまえにこうしたプレスリリースを行うことは研究者倫理に反すると考えます」

BuzzFeed Newsは中部大学に追加で問い合わせをしているが、2月28日午前現在でも「今後の対応は打ち合わせ」をしているといい、詳細については回答を得られていない。