• factcheckjp badge

「安倍政権がホームレスを3分の1に減らした」は誤り。ネットで拡散、実際は…

ネット上で拡散していたのは、まとめサイト「ツイッター速報」の情報。ホームレスの人数は全体として減少傾向にあるが、第2次安倍政権下では「3分の1」までは減少していない。さらにここには、社会問題化しているいわゆる「ネットカフェ難民」などの住居不安定者が含まれていないことにも留意が必要になる。

ネット上で「安倍政権が全国のホームレスの人数を3分の1にまで減らしていた」というまとめサイトに端を発したとみられる情報が、拡散している。

結論からすると、これは「誤り」だ。ホームレスの人数は全体として減少傾向にあるが、第2次安倍政権下では「3分の1」までは減少していない。さらにここには、社会問題化しているいわゆる「ネットカフェ難民」などの住居不安定者が含まれていないことにも留意が必要になる。

BuzzFeed Newsは、ファクトチェックを実施した。

ネット上で拡散していたのは、まとめサイト「ツイッター速報」の以下のようなタイトルの記事(1月1日配信)だ。

《「れいわ山本太郎代表、渋谷でホームレスに年越し炊き出し。左翼さん「それに比べて安倍は~」←安倍政権、全国のホームレスの人数を3分の1にまで減らしていた」》

記事では、れいわ新撰組の山本太郎代表が年末の炊き出しを手伝っていることに触れる一方、「安倍政権、ホームレスをガンガン減らしていた」などと指摘。

「さすがパフォーマンスばっかし」などという山本代表を批判するネット上の反応を中心にまとめている。

問題は、見出しにもなっている「3分の1にまで減らしていた」についてだ。ホームレスの人数推移をまとめたグラフを紹介しているものの、「3分の1」の根拠は一切示していないばかりか、文中での言及すらもない。

とはいえ、この情報はTwitterで5000リツイート、1.3万いいねされるなど、大きく拡散。1月2日の「本中のホームレスを3分の1に減らした安倍総理」という別の人物のツイートも5000リツイート、1.7万いいねを超えるなど拡散している。

安倍政権の削減率は45%

結論からすると、これは「誤り」だと言える。

厚生労働省は、2003年以降(04〜06年はのぞく)全国におけるホームレスの数を毎年1月に調査している。その結果をみる限り、第2次安倍政権(2012年12月〜)における人数の推移は以下のようになる。

  • 2013年 8,265人
  • 2014年 7,508人
  • 2015年 6,541人
  • 2016年 6,235人
  • 2017年 5,534人
  • 2018年 4,977人
  • 2019年 4,555人


2013年と比べた場合、2019年は当時の約55%まで減少している(削減率約45%)。とはいえ、「3分の1」というためには最新の結果が2754人以下である必要があるため、実態とは異なることがわかる。

実際、調査を担う厚労省社会・援護局地域福祉課の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に対し、「統計をご覧になればわかる通り、3分の1にはなっていません」

担当者によると、ホームレスの人数は「ホームレス自立支援法」が施行された2002年以降、一貫して減少傾向にある。個別の政権に起因するものではないという。

実際、2007年から2013年の6年では、削減率は約55%。2009年から13年(政権交代が12年12月のため13年1月も算入)までの民主党政権下の4年では、削減率は約48%だ。第2次安倍政権下における6年の削減率約45%が、特異な数字ではないことがわかる。

一方、第1次安倍政権(2007年)を起点とした場合の削減率は約75%で「4分の1」になる。もちろん、その間には民主党政権を含む様々な政権が入り混じっていることから、安倍首相だけの成果ではないことは明らかだ。担当者はこうも語る。

「明確になぜ減っているというところを調査しているわけではないが、景気動向や経済状況によるものと、支援法の施行以降、各自治体で実施している自立支援によるものだと考えています。自立支援センターへの入所を促したり、生活保護受給につなげていく支援を進めたりしています」

増える「見えないホームレス」の存在

ただ、この調査でも掬い切れていない現実もある。いわゆる「ネットカフェ難民」などの住居不安定者だ。

ホームレス自立支援法は、「ホームレス」を「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」と定義している。

2000年代後半から社会問題となっている「ネットカフェ難民」などの人々は、定住できる家がなく生活に困窮していたとしても、「ホームレス」の定義に当てはまらないため、前出の調査には含まれない。そして、店舗内などにいるため、調査しづらいという現実もある。

2007年の厚労省による調査ではその数は全国で推計約5400人(東京2000人、名古屋200人、大阪900人)とされていた。しかし、その実数は増えているとみられる。

実際、2018年に東京都が実施した調査(2018年)では、都内だけで推計約4000人とされている。調査が違うとはいえど、単純比較で11年前の倍だ。

「ホームレスが減少傾向にある」ことを手放しで喜んではいけないのは、このような点にあると言える。厚労省の担当者も、こう語った。

「ホームレスとして定義されている方は減少している一方で、ネットカフェなどの店舗や社員寮などで過ごす住居不安定な方がいるということは把握はしており、厚労省としても『生活困窮者自立支援法』による支援の必要性も認識しています。とはいえ、実数を把握するのは現実的に難しいのが現状です」


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。