• tokyo2020 badge
  • lgbtjapan badge
  • factcheckjp badge

東京五輪めぐり「中国『女子』選手たち」と画像が拡散。トランスジェンダーへの差別投稿、誤情報も

拡散しているのは重量挙げ・侯志慧選手と陸上・廖孟雪選手の写真。東京五輪には、オリンピック史上初めてトランスジェンダーであることを公表している3人の選手が参加しているが、中国から参加しているという情報はない。

「今回のオリンピックでいい成績出してる、中国の『女子』選手たち」。そんな言葉とともに、ある画像が拡散されている。

写真は中国の重量挙げと陸上の女子選手のもの。しかし、今回の東京五輪の写真ではないうえ、五輪出場者以外が含まれていることにも注意が必要だ。

この投稿には写真の選手をトランス女性と誤解した人から差別的なコメントも寄せられており、トランス当事者は「マイノリティを実態よりも脅威であるかのようにみせ、不安を扇動するやり方」と批判している。

ツイートは「CCP(*中国共産党)は人類の敵、トランプ大統領支持!」とするアカウントが発信し、6000回以上リツイートされ、8000を超える「いいね」を集めている。

このアカウントは、自らの投稿に寄せられた「トランス女子が女性枠で競技に出ることで一般女性を事実上いじめる光景」というコメントをリツイート。

問題の画像投稿には「トランスジェンダーは競技参加禁止だ」「自称トランスジェンダー女性選手」といったリプライも集まっている。

「女子競技にお釜出してでも金メダル欲しいかな」など、トランス女性に対する差別的なコメントも多い。

2人の選手は誰?

では拡散されている選手は、それぞれ誰なのか。まず、重量挙げの写真は侯志慧選手(上)。東京五輪の女子49kg級にも出場しており、金メダルをとっている。

出身地・湖南省のメディアによるインタビューでは「田舎の女の子」と紹介されている。祖父母は「子どもの頃からとてもボーイッシュでした」とも語っているが、トランスジェンダーであるという情報はない。

広がっている写真は過去の大会のもの。Twitter上では中国の男性選手の動画の顔部分を隠し、侯選手だとするような誤情報も拡散され、17万回以上再生されている。

陸上競技の方の写真は廖孟雪選手(下中央)。「IAAF(国際陸連)世界リレー2019横浜大会」などの様子を写したものだ。しかし、廖選手は東京五輪には出場していない。投稿の「今回のオリンピックでいい成績出してる」という表現は、前提からして誤っている。

2019年の大会参加時には、もうひとりの女性選手とともにその容姿が「男性」であると、国内外のネット上で物議を醸した。この時は、中国陸上競技連盟が公式Weiboで2人が女性であると発表する事態にまで発展している。

廖選手は中国スポーツメディアの取材に、外見や声を理由に偏見を受けてきた過去について語っている。小中学校時代にクラスメイトの女子たちに疎外されたほか、ネット上で誹謗中傷を受けたこともあったという。

五輪史上初のトランス選手は…

東京五輪には、オリンピック史上初めてトランスジェンダーであることを公表している選手が参加している。

プライドハウス東京によると、重量挙げ・ニュージーランドのローレル・ハバード選手(下)と、サッカー・カナダのクイン選手、そしてBMX・アメリカ(補欠)のチェルシー・ウォルフ選手だ。

IOCは、女性種目への参加を希望するトランス女性の選手に対するガイドラインを策定している。

2015年に改定されたものでは、男性ホルモンのテストステロン値の基準を設けているほか、性自認が女性であることや、自認の宣言から4年間は変更していないことなどを条件とした。

2004年時点では性別適合手術も必要とされていたが、現在は必須ではなくなっている。

「外見に基づくらしさの押し付け」

トランス女性の五輪参加をめぐっては、女性種目に出場するのは体力面などから不公平だという意見も出ている。

なかには、今回のツイートに寄せられたリプライのように、トランス女性に関する不正確な情報を元に自説を主張する人もいる。

LGBTの子ども・若者支援に関わるトランス男性の遠藤まめたさんはツイッター上で今回の画像をいち早く否定していた。BuzzFeed Newsの取材に対し、こう語る。

「マイノリティを実態よりも脅威であるかのようにみせ、不安を扇動するやり方だと思います。『トランスジェンダーの選手が女子競技を壊している』として、トランスジェンダーに対する差別感情をあおるために拡散する人や、中国選手に対して人種差別的な書き込みをする人もいました」

「そもそも外見に基づいて『女らしくない』と揶揄すること自体が、らしさの押し付けにつながります。女子アスリートは男子アスリートに比べて、単に強い選手であるだけでなく、女性的であることを外から求められやすいのではないでしょうか」

「結婚の予定を尋ねたり、得意料理を尋ねたり、男子アスリートにはしない質問が寄せられるのもそのひとつ。性別にもとづく偏見が潜んでいないか、いまいちど振り返る機会にしてほしいと感じました」

「性別確認検査」めぐる議論も

スポーツにおける「性別確認検査」は、長年にわたり論争の的となっている問題だ。

女性だけに設定されていることへの批判や、そもそも科学的に正しいのか、さらに最近では「男女の区別」に疑問を投げかける声もある。

かつては目視でされていたが、その後は染色体検査が主流となり、いまでは「テストステロン値」が主流だ。たとえば、国際陸連はオリンピックを含む国際大会において、トランスジェンダーに限らず、女性選手にこの基準を設けている。

ただ、女性として生まれ性自認があっても、「性分化疾患」(DSD)などを理由にテストステロン値の高い選手が排除される可能性があるとして批判を集めている。実際、東京五輪に出場ができなくなった女性選手が複数いると報じられている

訴訟に発展しているケースもある。体質的にテストステロン値が高く、「女性ではない」とされた女子100mのデュティ・チャンド選手(インド)による訴えはスポーツ仲裁裁判所(CAS)に認められ、基準の停止・改定につながった。

女子800mでオリンピック2連覇の記録を持つキャスター・セメンヤ選手(南アフリカ、上)も同様の理由から現行の基準に対して訴えを起こしているが、CASなどに却下されており、現在は欧州人権裁判所で係争中だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーです。2019年7月からそのガイドラインに基づいたファクトチェックを実施した記事には、対象言説のレーティングを必ず記載しています。

一方、レーティングを示していない記事もあります。ある事象の「事実関係」だけでなく、その「評価」などに関する内容も含まれる時や、問題の背景を解説する記事などは、レーティングの対象とはしません。

これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

UPDATE

クイン選手の名前を、本人が表明している現在の名前に修正しました。