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Updated on 2020年8月31日. Posted on 2020年8月26日

「台湾軍が中国軍機にミサイル発射」YouTube動画で「マスコミが報じない」と誤情報が拡散、60万再生超える

動画では作成者とみられる男性が、イギリスのタブロイド紙「EXPRESS」による「第三次世界大戦の瀬戸際…」と題した8月12日の記事を読み上げ、ニュースを解説している。

「台湾軍が中国戦闘機に対空ミサイルを発射した」という情報が、ネット上で拡散している。

「マスコミが伝えない情報」としてニュースを解説するYouTube動画を起点に広がっているとみられる。

動画は60万回再生を超えているが、台湾国防部の公式声明などではミサイルの発射には言及されておらず、これは「誤り」だ。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

YouTubeより

発端になっているのは、以下のYouTube動画だ。

【鬼の一撃!台湾軍が中国戦闘機に対空ミサイル発射!】日本政府よ刮目しろ!これが国を守る覚悟だ!台湾領空侵犯した中国戦闘機に台湾軍が対空ミサイルを発射!中国戦闘機を追い返した!流石李登輝の魂宿る台湾だ!

動画では、作成者とみられる男性が、イギリスのタブロイド紙「EXPRESS」による「第三次世界大戦の瀬戸際…」と題した8月12日の記事をGoogle翻訳したものを読み上げ、ニュースを解説している。

「中国の戦闘機に向かってミサイルをぶっ放していました」「この情報、日本では全然流れていません」「マスコミは嘘ばっかり流しています」などと話しているが、その要点をまとめると以下のようになる。

「アメリカのアザー厚生長官が台湾を訪問しているその日、中国軍戦闘機が台湾の領空を侵犯し、台湾軍が対空ミサイルを発射した。撃墜はできなかったが、追い払うことができた」

動画そのものはすでに60万回以上再生され、この情報はTwitterでも大きく広がっている。動画に直接言及はしていないが、以下のようなものが見つかった。

「台湾はもうチャイナと戦闘開始してるよ 台湾の領空侵犯したチャイナの戦闘機撃としているよ!! ミサイルも撃ってるよ」(原文ママ、8月22日、5400リツイート以上)

「中国戦闘機が台湾に近づいて台湾からミサイル撃たれて逃げたニュース聞きましたか?何処のメディアも放送した形跡がない。」(原文ママ、2800リツイート以上)

動画内では、同じく「EXPRESS」をソースに同様の情報を伝えているまとめサイト「保守速報」が8月19日に配信した《【速報】 第3次世界大戦、目前だったことが判明 台湾、領空侵犯した中国戦闘機を撃墜寸前だった》というタイトルの記事も紹介している。

保守速報の記事では「ミサイルを発射した」とは明言していないが、すでに削除されている。

台湾国防部の声明は?

Twitterより

まず、アザー長官が台湾を訪問した8月10日、中国軍が台湾海峡にある「中間線」を超え、台湾側に入ったことは、台湾国防部の公式声明でも同日中に発表されている。日本語訳は以下の通りだ。

空軍司令部は本日(10日)、中国共産党軍の空軍に所属するJ-11、J-10型戦闘機が本日午前9時ごろ、海峡の中間線を度々超え、我が空軍が地対空ミサイルを用いてその間、常時監視したほか、直ちに警告を発し、空中哨戒兵力によって強制的に撤退させたことを明らかにした。

空軍司令部は、中共の軍戦闘機による挑発行為により地域の安全と安定が大きく損なわれたと指摘し、我が軍は台湾領海と領空の状況を十分に把握しており、敵情の変化に応じて妥当な対処ができ、国土の安全を確保できると強調した。

ミサイルを発射したという表現は見当たらない。「地対空ミサイルによる監視」と「警告」さらに「哨戒」(パトロール)という指摘に留まっていることがわかる。

この表現は、同日にアップされた台湾のニュースサイト(台湾最大手紙・自由時報など)でも同様になっている。

また、NHKも同日のニュースで「迎撃ミサイル部隊が地上で警戒にあたり、上空では戦闘機が、離れるよう放送で警告した」と記しており、国防部の発表にならっていることがわかる。

さらに、香港紙「South China Morning Post」は「地対空ミサイルレーダーで人民解放軍の戦闘機を追跡した」と伝えている。台湾がレーダーによる追跡をしたのは初めてだという。

そのうえで、軍事評論家による以下のような見解も掲載した。

「台湾側は海峡の東半分を防空圏としているため、防空ミサイルシステムを起動することは自然だ。一方で中国側は海峡の中間線を正当な境界線とみなしておらず、今後もこのような事態が起きることになるだろう」

そのうえで評論家の見方として「台湾がミサイルを発射することは考えにくい。それは軍事衝突の始まりを意味するからだ」とも伝えている。つまり、ミサイルを発射していない、と明言しているのだ。

「EXPRESS」のソースは…?

mnd.gov.tw

台湾国防部の公式声明

では、動画のソースとなっているイギリス「EXPRESS」の記事はどうか。

The aircraft were tracked by land-based Taiwanese anti-aircraft missiles and were "driven out" by patrolling Taiwanese aircraft, the air force said in a statement released by the defence ministry.

(台湾国防部が発表した声明で、台湾空軍は、航空機は台湾の地対空ミサイルによって追跡されたとともに、台湾の航空機がパトロールしたことによって「追い出された」と語った)

明記はされていないものの、ロイター通信がまったく同じ文章を配信していることから、「EXPRESS」はこの文章をそのまま引用しているようだ。

この文章では、国防省が「発表した声明」をソースとして提示している。つまり、上記に記した通りの内容であり、台湾や日本の報道機関が引用しているものと同じものであると言えるだろう。

文中の「tracked by」は確かに追跡と訳すことはできる。しかし、「track」にはレーダーなどによる追跡や監視という意味もある。台湾国防部の説明や各国の報道を総合しても、ミサイルが発射されたという解釈はできない。

仮にミサイルが発射されていたとすれば、台湾国防部や中国側が声明などを発表し、双方の国を含むメディアでも大きく報じられるはずだ。

実際のところはどうか。台湾国防部は8月13日、一連のメディア報道に応じる形で「地域全体で高度な監視を維持する」とする声明をサイトおよび英語版Twitterで公表している。ここでも「監視」という表現に留まっていることがわかる。

「マスコミは報じない」に注意

express.co.uk

EXPRESSの当該記事

今回ファクトチェックの対象となったYouTube動画では、翻訳された「ミサイル追跡」を「発射されたミサイルによるもの」と他のソースなしに解釈したとみられる。

動画内では「EXPRESS」をGoogle翻訳したものと、まとめサイト「保守速報」の記事以外、明確なソースを示していないことからも、その可能性は極めて高い。

また、「EXPRESS」の記事が「第三次世界大戦の瀬戸際」という強い見出しを打っていることも、そうした解釈につながった理由のひとつだろう。

実際、この記事の影響はYouTube動画や保守速報だけに止まらない。言論プラットフォーム「アゴラ」にも8月21日になって《「第三次世界大戦」の瀬戸際だった8月…ミサイルで国を守る覚悟を見せる台湾》として、「EXPRESS」の記事を取り上げた内容が掲載されていた。

アゴラの記事ではミサイルについて触れながら、「台湾が対空ミサイルを持って応じた」「兵器を用いて追い払うことに成功したことは確実だ」などと記されていたが、すでに削除されている。

なお、2019年4~12月の自衛隊の緊急発進(スクランブル)は742回だったが、そのうち523回が中国でトップだった。

中国による日本や台湾に対する「挑発」が相次ぎ、緊張関係が近年高まっているのは事実だ。そうした状況も、今回のような情報が拡散した背景にあると言える。

とはいえ、そうした状況を利用して「マスコミは報じない」という言葉で不安を煽るように自らの主張を発信しているような情報には注意が必要だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知し、そのレポートを参考にしました。また、台湾国防部声明の翻訳にはFIJの翻訳チームの助力も得ました。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。


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