PKO日報、稲田大臣は隠蔽に「関与していない」。監察結果が出ても残る1つの疑問

    特別防衛監察の結果が公表されたが…

    南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に参加していた陸上自衛隊が、2016年7月11〜12日に作った日報をめぐる「特別防衛監察」の結果が7月28日午前、公表された。

    稲田朋美防衛相は、この問題の監督責任をとるとして、辞任を表明。この問題をめぐっては、すでに陸自トップの岡部俊哉陸上幕僚長が辞任を決めているほか、黒江哲郎事務次官も退職する。

    監察結果では、陸自の情報公開への対応は、情報公開法の「開示義務違反」や自衛隊法の「職務遂行義務違反」にあたる法的に不適切な行為だった、とした。

    この結果を受け、28日午前に会見した稲田防衛相は、黒江事務次官を停職とするほか、岡部幕僚長を減給とするなどの処分方針を明らかにした。また、今後は日報の管理を一元化するだけではなく、文書管理規則を改訂するという。

    具体的には、日報の保存期間を10年間とし、その後国立公文書館に移管する。さらに、「情報公開査察官」を新設。内部のチェック機能強化をはかるという。

    また、監察結果では、陸自内で廃棄したとしていた日報について稲田防衛相が「隠蔽を了承した」と報じられていた点について、「なんらかの了承や決定をした事実もなかった」と結論付けた。

    日報の存在が報告され、隠蔽の了承があったとされていた2月の会議については「日報データの存在について何らかの発言があったことは否定できないものの、大臣が書面をもたらした事実や、非公表の了承を得た事実もなかった」としている。

    つまり、陸自側が日報を自ら隠蔽し、防衛相はその判断には関わっていない。会議では「何らかの発言」があったが、その「何か」の解明には至らなかったという結論だ。

    こうした結論には、現役の陸自幹部などからも疑問の声が投げかけられている。

    まず、経緯を振り返る。

    そもそもこの日報には、南スーダン現地の細かな情勢が、駐留する陸自部隊によって記録されている。

    陸自は2011年から17年5月まで、南スーダンのPKOに参加し、道路などの整備に当たっていた。

    駐屯地があったジュバでは2016年7月、数日間で300人以上の死者を出す大規模な混乱が発生。これが「戦闘」か「武力衝突」かについて、国会で大きな議論となった。

    「戦闘」とするならば、停戦合意などを前提とした「PKO参加5原則」に抵触するおそれがあるからだ。つまり、安全保障法制に基づいた「駆けつけ警護」など、新任務を付与された陸自部隊のPKO派遣そのものに影響が出る、ということだ。

    それゆえ、日本政府は「戦闘ではなく大規模な武力衝突」との見解を貫いてきた。

    指摘されていた「組織的隠蔽」

    こうした経緯を踏まえ、2016年9月、ジャーナリストの布施祐仁さんが現地の情勢を記した日報について、防衛省に情報開示請求をした。しかし、12月に「廃棄した」との理由で不開示となった。

    12月末になって、自民党行政改革推進本部(本部長・河野太郎衆院議員)の要請を受けた防衛省が再調査し、統合幕僚部に電子データが残っていることが判明。

    「隠蔽していたととられないよう」(防衛省広報担当者)に、2月になってBuzzFeed Newsを含む報道各社に公開された。

    公開された日報には、「戦闘」という言葉が多用されていた。

    たとえば、「UN施設近辺で偶発的に戦闘が生起する可能性があり、流れ弾には注意が必要である」(7月12日)というような形に。こうした表現は、大きな物議を醸した。

    ただ、問題はこれで終わらなかった。2017年3月、本来はないとしていた陸自内にもデータが残っていたことが発覚したからだ。「今更陸自にあったとは言えない」と、データ削除の指示まで出されていたことが、NHKの報道で明るみになった。

    つまり、自衛隊内で組織的な隠蔽があった、ということになる。こうした経緯について、元検事などが幹部を務める防衛相直轄の「防衛監察本部」による「特別防衛監察」が始まった。

    稲田防衛相の問題点とは

    稲田防衛相は3月16日の国会で、民進党の今井雅人議員に一連の隠蔽について問われ、「報告されなかった」と答弁している。

    しかし、共同通信などは7月19日、稲田防衛相が2月に、防衛省内で開かれた会議に参加し、陸自側から日報が存在したとの報告を受けており、さらに「事実を公表する必要はない」とする決定を了承した、と報じた。

    当人はこの報道を否定したが、その後、フジテレビが防衛省内部のメモを報じるなど、文民の代表である稲田防衛相が、隠蔽に関与していたことを伺わせる報道が相次いだ。

    これら報道の通りだとすれば、3月の「報告を受けていない」は、虚偽答弁である可能性が出てくる。ただ、問題はそこに止まらない。先出の布施さんは、BuzzFeed Newsの取材にこう指摘している。

    「シビリアンコントロール(文民統制)とガバナンスという自衛隊の運用面からも大きな問題があります。また、2月の時点で報告されていたということが事実であれば、稲田氏は5ヶ月間、国民を欺き続けていたということにもなる」

    辞任では終わらない

    ただ、特別防衛監察の結果、稲田防衛相の関与はない、とされた。稲田防衛相は監察結果について、会見でこう述べた。

    「私自身に関する報道がありました。ただ、日報の存在は事務次官まで報告されたものの、管理状況が不明確であるため、大臣に報告する必要ない旨の判断がされた」

    「陸自に存在するとされ、非公表とすることを了承したという報道がございました。しかし、なんらかの了承や決定をした事実もなかった」

    ただ、「陸自側だけの判断で隠蔽をした」という見方には、疑問を呈する声もある。現役の陸上自衛隊幹部は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

    「基本的に、自衛隊側が自ら隠蔽をするということはありえないんじゃないか。そもそも、日報という事後の活動に資する貴重な資料を捨てるはずもない」

    この問題について、週明けにも閉会中審査が開かれる予定だ。ただ、審査には稲田防衛相ではなく、新たに防衛相を兼務する岸田文雄外務相が参加することになる。

    一方、野党などからは、稲田防衛相や退職が決まった岡部幕僚長、黒江事務次官の証人喚問を求める声が出ている。


    BuzzFeed Newsでは、黒塗り日報の全文をこちらで公開しています。