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赤ちゃんの突然死「原因」めぐる誤情報が拡散、医師が警鐘。SIDSのリスクと防止策、いまわかっていることは

「SIDS」とは、健康で既往歴もない赤ちゃんが、睡眠時に窒息などの事故ではなく突然死してしまう病気。いくつかの因子が絡み合って起きるということがわかっているが、なかでもうつ伏せ寝が明らかに関係をしているとされている。

元気だった赤ちゃんが睡眠中に死亡してしまう「乳幼児突然死症候群」(SIDS)。

うつ伏せ寝が大きなリスク要因とされているが、このSIDSをめぐり、「体質が原因と判明した。体勢ではない」などとする情報がSNS上で拡散した。

しかし、これは誤りだ。小児科医も誤情報の拡散に警鐘を鳴らしている。

そもそも「SIDS」とは、健康で既往歴もない赤ちゃんが、睡眠時に窒息などの事故ではなく突然死してしまう病気。日本では6000~7000人に1人に発生するとされ、とくに生後2~6か月に多い。1歳以上になるとまれだ。

Twitter上で拡散していたのは、このSIDSに関する論文について伝えている海外の医療情報サイトの記事を紹介した、5月12日の投稿。

SIDSについて、「ブチリルコリンエステラーゼ(BChE)が極端に少ない体質のため、無呼吸に陥るのが原因と判明」「(原因は)体勢ではない」としており、1万5000以上のいいねがつくなど、大きく広がった。

この情報について、専門家は「誤情報」であると否定する。佐久総合病院佐久医療センター小児科医長を務める坂本昌彦さんはBuzzFeed Newsの取材に対し、こう語る。

「SIDSの原因ははっきりしていませんが、いくつかの因子が絡み合って起きるということがわかっています。なかでもうつ伏せ寝が明らかに関係をしているとされ、これを防止するキャンペーンが始まってから、世界的にSIDSによる死亡数が大きく減少しています」

「つまり、拡散している投稿のように、SIDSの原因が『体勢ではない』と言い切ってしまうのは誤情報であると言えます。また、投稿では原因が判明したともされていますが、サイトで紹介されていた論文ではそのようなことは断言されていません」

実際、『eBioMedicine』に掲載されているもとの論文では、「ブチルコリンエステラーゼ」という酵素に関する体質がSIDSの要因のひとつであるかもしれないという点が、26の死亡例をもとに示されている。

しかし、他のリスク要因を否定したり、原因を断定したりもしていない。リスクがある赤ちゃんを事前に特定できる可能性があるとして、今後の研究が必要であることを訴えているものだ。

海外の医療サイトに掲載された際、「新たな原因を特定した」とより断定調となり、さらに日本で広がる際に「体勢が原因ではない」という誤情報が付記されたとみられている。

いまわかっているSIDSのリスクとは

坂本さんが指摘する通り、SIDSの主な要因とされているのは「うつ伏せ寝」だ。

かつては寝かしつけの手法として流行していたこともあるが、1998年から「あおむけ寝キャンペーン」が始まった日本では、前年に538人いたSIDSの死亡が、2008年には168人、18年には60人にまで減少。19年は78人だった。

世界的にも同様の傾向が現れており、「うつ伏せ寝」を防止することは、「少しでもリスクを減らすための有効な方法」(坂本さん)だといえる。

それ以外にもリスク要因とされているものがある。「親の喫煙」「非母乳育児」だ。坂本さんはこの点について、こう補足する。

「保護者の喫煙は、うつ伏せ寝と同じように明確にリスクを高めることが明らかになっていますが、母乳についてはいろいろな解釈があります。成分そのものではなく、赤ちゃんがミルクよりも早くお腹が空いて泣くために、親との接触が増えることが結果としてこまめな確認に繋がり、SIDSの減少に繋がっている可能性もあるという見方もあるんです」

そのうえで、必ずしも母乳でなければリスクがあると、母乳育児が難しい事情のある保護者が思い悩む必要はないと強調した。

「母乳育児は大事です。でもミルクが絶対にダメと言うわけではなく、こまめに様子を見ることでリスクを減らせる可能性もあるのでは、という風に個人的には思っています」

リスクを減らすためにできること

SIDSについては、このほか1)温めすぎ(2)重い布団(3)ベッドの周りにある柔らかい枕や玩具(4)ソファー、柔らかいベッドなどーーもリスク因子とされている。

リスクを減らすために推奨されていることもある。アメリカ小児科学会では、以下の4つのポイントをあげている。

1)ベッドに仰向けに寝かせる

2)赤ちゃん用のスペースで寝かせる(ベビーベッドなど)

3)固く平らなマットレスを使う

4)寝かせている周りにモノを置かない(枕やおもちゃなど)

さらに「おしゃぶり」もリスクを下げると指摘されているアメリカの研究もあるという。

こうした事例を紹介しつつ、坂本さんは、なにより大切なのは前述の通り「こまめな監視」だとも指摘する。

「SIDSを防止するためにはなによりも睡眠中のこまめな観察が大切です。一方、呼吸状態を監視するモニターなどもありますが、アメリカではリスクを下げることはないとして、推奨されていません」

親が「しんどく」ならないために

「機械があるからとチェックが甘くなってしまうということや、アラームを気にしすぎてしまうことも考えられます。ベビーモニターも同様ですが、導入する際はうまく付き合うようにしてください」

一方で、SIDSを過度に不安視してしまったり、推奨されることを全てできないからと言って、自分を責めてしまったりするケースもある。坂本さんはこう呼びかけた。

「保護者自身が安心していられることは、子どもにとっても大切です。不安になりすぎ、防止をする環境づくりのために親がしんどい状況になってしまうのは、あまり望ましいことではありません」

「リスクはゼロにはできませんが、いまわかっているリスクを知り、減らすということが大切です。気を付けるべきこと、できることをできる範囲でしていただければ、安心していただいて良いのではないでしょうか」

また、不安になってしまった親が、今回のツイートのように、拡散している間違った情報に飛びつかないことも大切だという。

「不安の根底には、正確な知識を知らないこと、正しい情報がわからないという部分があると思います。ネット上などにある情報に飛びついてしまうのではなく、まず、いまわかっている事実を知ることから始めていただければと思います」

そのうえで、厚生労働省など行政が発信する情報やSIDSの家族会、専門家などによる発信などを参考にするよう呼びかけた。

坂本さんは『教えて!ドクター』プロジェクトのリーダーも務めており、「こどもの病気とおうちケア」に関するアプリも配信している。

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