新型コロナウイルス感染拡大の影響が長引き、政府の支援が届かず生活に困窮する人もいる中、菅義偉首相が国会で「最終的には生活保護がある」と発言したことに関連し、「簡単に言うが結構ハードルが高い」などとするツイートが拡散している。
投稿には、生活保護の申請時には▽現金や食料がまったくないこと▽不動産、株、車やバイクの保有はダメ▽金目のものは売り払うーーなどの条件が示されている。
しかしこの投稿には、誤った情報が多く含まれており、全体として「不正確」になっている。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。
拡散しているのは、生活保護をめぐる1月28日の以下のようなツイートだ。
生活保護を申請するためには、現金や食料がまったく無いことは当然として、不動産や株などはもちろん車やバイクの保有もダメ、金目の物はすべて売り払ってスッカラカンになった上、支援してくれる血縁者などが1人もいないことを証明しなくてはならない。菅義偉は簡単に言うが結構ハードルが高い。
1月27日の参議院予算委員会で、コロナの影響を受ける人々に政府の支援が届いていないのではないか、という立憲民主党の石橋通宏議員の質問に対し、菅首相は「最終的には生活保護がある」と答弁した。
野党からは「生活保護に陥らせないためにするのが首相の仕事」(蓮舫議員)などと批判の声が上がり、ネット上でも「生活保護はあくまでも最後の命綱、そこに至る前に困窮している国民に手をさしのべるのが政治の役割」などの声が高まった。
首相はその後、「最後はセーフティーネットもあり、信頼する社会をつくっていきたいという話をした」と釈明している。
こうした文脈もあり、ツイートは拡散。5000以上リツイートされ、1万4000件以上の「いいね」を得ている。
どこが「誤り」なのか
BuzzFeed Newsは厚生労働省保護課保護係への取材や、「生活保護法による保護の実施要領」などをもとにファクトチェックした。
(1)現金や食料がまったくないこと=誤り
生活保護の受給は、収入が厚生労働大臣の定める基準に沿って計算された「最低生活費」に満たない場合に認められる。
この金額は自治体によって異なるが、最低生活費の半額以上の貯金がある場合は受給は認められない(たとえば最低生活費が15万円だとすると、7万5000円まで)。
とはいえ、貯金が「まったくない」ことは求められていない。なお、子どもの学費や就労のためなど、生活保護の趣旨目的に反しない範囲で、保護費をやりくりして貯金をすることも認められている。
また、食料は基準には関係がない。厚労省の担当者も「申請される時点において、一切見ることはございません」としている。
(2)不動産や株の保有はダメ=一部誤り
持ち家(自宅)を保有していても問題ない。ただし、資産価値が大きい場合は売却や、担保に入れる「リバースモーゲージ制度」の利用を打診されることがある。
ただし、住宅ローンの支払いは、残額が少額であるケースなどをのぞき、認められていない。
また、株などの有価証券類については保有は認められていない。この点は正しいと言える。
(3)車やバイクの保有もダメ=誤り
自動車の保有は、例外的に認められている。コロナ禍を受け、柔軟な運用を自治体に求める通知が出されているポイントもある。
車の価値が低く、公共交通機関の利用が困難な地域に住んでいる場合や、業務・求職活動や通勤、子どもの送迎などに必要である場合、1年以内に再就職の見通しが立っている場合や、受給者が障害者であるケースなどが該当する。
125cc以下のオートバイや原動機付自転車についても、生活維持に必要な場合、任意保険加入などの要件を満たせば、認められる場合もある。125cc以上のオートバイは自動車と同様の扱いになる。
(4)金目の物はすべて売り払ってスッカラカン=一部誤り
貴金属やブランド品など「ぜいたく品」の所有は認められていない。
しかし、生活に必要だったり、処分価値の小さいものは保有が認められている。日常生活に必要な家具家電、寝具、衣類などがそれに当たる。
また、テレビやカメラ、ステレオ、楽器、趣味装飾品についても処分価値の小さいものや、利用の必要があるものや、一般世帯との均衡を失わないようなものは認められている。
(5)支援してくれる血縁者などが1人もいないことを証明=不正確
生活保護の申請をした際、役所が一部の親族に「援助が可能か」を問い合わせることがある。「扶養照会」と言われ、受給をためらうひとつのハードルとされている。
DVなどの家族関係の事情がある場合はこうした問い合わせはされず、また親族にも回答する義務はない。「援助しない」とされた場合も、受給できる。
そもそもこれは「扶養は保護に優先」とされているだけで、厚労省もサイト上で「同居していない親族に相談してからでないと申請できない、ということはありません」と周知している。
改善が求められている点ではあるが、自ら証明しないといけないという点においては、不正確だ。
厚労省は「ためらわないで」
昨年12月には、厚労省が「生活保護の申請は国民の権利です。生活保護を必要とする可能性はどなたにもあるものですので、ためらわずご相談ください」とウェブサイトに明記したことが話題になった。
担当者はBuzzFeed Newsの取材に「コロナ禍ではじめての年末年始を迎えるにあたり、支援に結びついていない方も多くいると伺い、そうした方に申請していただきたいと掲載しました」と語る。
今回拡散していたような「よくある誤解」についてはホームページにも一部掲載しているといい、「我々としては、ためらわずにまず申請していただきたい」と呼びかけている。
こうした生活保護をめぐる「誤解」はネット上に多く拡散されており、受給を阻む壁にもなっている。
一方で、一部の自治体においては、このような「誤解」が受給を拒む「水際対策」に使われているという指摘もある。この点について、保護課の担当者はこう語った。
「自治体に対しても、申請権の侵害にあたる行為やその疑いのある行為は厳に慎むよう周知しています。繰り返し注意喚起をしていきたいです」
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- 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。