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ロシア大使館「ウクライナのジェノサイド」と無関係の写真を投稿。実際は米兵、カメラマンも否定

ロシアは2014年以降、ウクライナ東部で同国軍によるロシア系住民の「ジェノサイド(大量虐殺)」が起きていると主張。ゼレンスキー政権をナチス・ドイツになぞらえて批判し、今回の侵略を正当化している。そのなかで用いられていたのが、2005年にイラク・モスルで撮影された米兵の写真だった

ロシアのウクライナ侵略をめぐり、駐日ロシア大使館がTwitterで「ウクライナのナチスト政権は、8年間にわたり自国民に対するジェノサイドを行っている」(*原文ママ)として写真を投稿した。

しかし、この写真は17年前にイラクで自爆攻撃を受けた少女を抱き抱えるアメリカ兵を撮影したもので、ウクライナとは全く無関係だ。

ロシア大使館は侵略を正当化する「情報戦」を続けており、今回の投稿もそうした発信の一環とみられる。その内容には注意が必要だ。

問題となったロシア大使館のツイートは3月24日に、ウクライナ侵略に関する日本政府の対応を批判する文脈で投稿された連続ツイートのひとつ。

自民党の政治家が「ロシアがウクライナで戦争犯罪を犯した」と発言したとし、日本の同盟国である米国や、NATO加盟国もユーゴスラビアやイラク、リビアで戦争犯罪を行っていたと批判。続く投稿でウクライナについても以下のように触れた。

「またウクライナのナチスト政権は、8年間にわたり自国民に対するジェノサイドを行っている。女性や子供を含む何千という人々の命を奪ったこの蛮行を、日本が批判したという話は記憶にない」

前提として、ロシアは2014年以降、ウクライナ東部で同国軍によるロシア系住民の「ジェノサイド(大量虐殺)」が起きていると主張。ゼレンスキー政権をナチス・ドイツになぞらえて批判し、今回の侵略を正当化している。

しかし、ゼレンスキー大統領は母語がロシア語。ユダヤ教徒の家系で、一族にナチスのホロコースト犠牲者がいる。ロシアの主張は、大統領の出自と矛盾している。

また、ウクライナ東部の状況を監視している国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)や欧州安全保障協力機構(OSCE)の報告では、ウクライナ東部でロシアが主張する市民の大規模な虐殺は、確認されていない。アメリカ国務省も「事実とする根拠はない」と指摘している。

撮影者本人が否定

こうしてウクライナ政府を批判する主張をロシア大使館は繰り返し日本語などで投稿しているが、そのなかで用いられていたのが、17年前にイラクで撮影された米兵の写真だった、ということだ。

スレッド全体ではイラク戦争にも言及しているとはいえ、当該ツイートはウクライナ政府を批判するコンテクストしか含まれていない。単体のツイートとして多数のリツイートや「いいね」を集めて流通しており、誤情報であると言える。

今回使われていた写真は、イラク北部モスルで2005年、従軍記者をしていたマイケル・ヨン氏が撮影したものだ。

テロリストによる自動車爆弾でけがをした少女を、アメリカ兵が抱き抱えて搬送する瞬間を捉えたもので、少女はのちに亡くなったという。

ロシア大使館の投稿では画素が低くなり軍服のワッペンなどが判別しづらくなっているが、元の写真をみると、星条旗の一部や英語の文字が確認できる。

この写真はヨン氏の著作の表紙(上)にも使われている写真で、同氏は3月27日にTwitterで、ロシア大使館に対して直接誤りを指摘している。

ウクライナ情勢をめぐっては「情報戦」が活発化しており、ロシア側からの発信のほかにも、さまざまな誤情報、偽情報が飛び交っている。情報の取り扱いにはより注意が必要だ。

UPDATE

元写真の撮影時期に関する表現を一部改めました。

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