トリエンナーレ「表現の不自由展」60人の枠に1358人が行列、金属探知機も。厳重態勢で再開

    「表現の不自由展〜その後」が厳戒態勢のもと再開され、鑑賞希望者が殺到する一方、周囲では抗議活動も繰り広げられた。

    あいちトリエンナーレで展示内容に関するテロ予告や脅迫、抗議などを受け、中止となっていた企画「表現の不自由展〜その後」が10月8日午後に再開した。

    抗議の意を示すためにボイコットしていたそのほかのアーティストの展示も合わせて再開。トリエンナーレは1週間を残してフルスケールで再オープンしたことになる。

    不自由展をめぐっては、トリエンナーレに出展するアーティストたちが展示の再開を求め、「ReFreedom_Aichi」プロジェクトを始めていた。

    アーティスト自身が苦情電話に対応する「Jアートコールセンター」が、8日から始動している。

    初日は限定60人

    ボイコットしていたアーティストらの展示は「NOW OPEN AGAIN」というステッカーが貼られており、そのまま再開された。

    一方で、「不自由展」の再開は、条件付きだった。

    入場は入れ替え制で、各回の定員は30人。再開初日の8日には、鑑賞時間は午後の計2回が設定され、計60人に絞られた。

    安全確保のため、会場では手荷物検査が行われるほか、金属探知機も設けられる厳戒態勢での開催となった。

    スタッフによる事前の教育プログラムやガイドツアーも必須となった。入場前のスペースには「検閲をめぐる新しい動き」「表現の自由をめぐる論点」などというパネルも新たに展示されていた。

    1回目には709人が、2回目は649人が集まり、会場内には行列ができた。コンピューターによるランダムの抽選で、倍率は平均すると約23倍だった。

    市長の”座り込み”や抗議も

    この日、会場のある愛知芸術文化センターと愛知県庁前では、共催している名古屋市の河村たかし市長が抗議を示すために”座り込み”を実施。

    不自由展の開催は「表現の自由という名を借りたテロ的な、暴力による国民世論のハイジャックですよ」などと持論を展開した。

    河村市長はそれぞれの場所で抗議をし、支持者とともに「大村やめろ!」「知事は名古屋市民の声を聞け!」などとシュプレヒコールをあげると、公務のため、市役所へと向かった。

    一方、会場前では市民数人も日の丸を掲げながら、抗議活動を実施していた。

    「公金支出の芸術祭が反日プロパガンダ集団に乗っ取られた!」「昭和天皇の御真影を焼いたり踏みつけたりするのは芸術ではない!」などと書かれたビラを配布。

    「大村!なんでそんなもの集めるんだ!やめろ!」とメガホンで叫ぶ人の姿もあった。

    改めて、経緯を振り返る

    そもそも、展示はなぜこの日まで再開されなかったのだろうか。

    8月1日に開幕したあいちトリエンナーレの企画展「表現の不自由 展・その後」は、全国各地で展示が中止になったり、展示に圧力を受けたりした 作品を集め、日本における表現の自由について問題提起するために企画されたもの。

    なかでも第二次世界大戦中の慰安婦被害者を再現した「平和の少女像」や、昭和天皇の写真をコラージュした作品を燃やす場面がある映像作品に、抗議が殺到した。

    展示内容については、大阪府知事の吉村洋文氏や大阪市長の松井一郎氏をはじめとする複数の政治家も、不快感を表明。

    また、菅義偉官房長官が会見で文化庁の補助金について「精査したい」と言及し、河村・名古屋市長が、愛知県の大村秀章知事に中止を要望した。

    その後も抗議は拡大。8月2日朝には愛知県知事宛てに、「ガソリン携行缶をもってお邪魔します」というテロ予告のFAXが届いた。さらに電話による大量の抗議、いわゆる「電凸」も殺到し、「円滑・安全な運営の担保ができない」などの理由で、3日目で同展の中止が決定された。

    アーティストが立ち上がった

    その後、展示を中止に追いやった「テロ予告と脅迫」「政治家の介入」、そして中止の判断そのものに対し、参加する83のアーティストたちが抗議声明を発表。

    海外アーティストらが中心となり、自らの作品の公開を一部中止したり、内容を改変したりする(たとえば、作品を不自由展をめぐる新聞記事で包み込むなど)という「展示ボイコット」の動きが広がった。

    こうした流れを受け、日本人アーティストが中心となり始めたのがReFreedom_Aichiだ。

    閉鎖された展示室の扉に、来場者がこれまでに感じた不自由なこと(「あなたの不自由」)を書いた付箋を貼っていく「#YOurFreedom」プロジェクトなどを始めていた。

    アーティストが苦情に対応する「Jアートコールセンター」プロジェクトもその一環だ。資金はクラウドファウンディングで募っている。

    また、こうした動きと同時に、県が設けた有識者委員会も、「安全対策などの条件が整い次第速やかに再開すべき」などする中間報告を9月25日に発表。

    再開に向け、トリエンナーレの実行委員会や愛知県、「不自由展」の実行委員会による協議が進んでいた。

    文化庁は「補助金不交付」を決定

    文化庁は9月26日、愛知県で開催されている国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」に交付される予定だった7800万円の補助金全額を交付しない方針を明らかにした。

    そもそも補助金の不交付は、事前の申請内容が不十分であったことや、申請内容通りの展示が困難になったことがその理由としてあげられているという。

    萩生田光一・文部科学大臣は会見で、批判や抗議の殺到で展示継続が難しくなる可能性を文化庁に報告していなかったことも問題視。「展示の内容について全く関与していない」ことなどから検閲には当たらない、との見方を示した。

    一方で、アーティストや識者たちからは文化庁の決定は「検閲と言われても仕方ない」などという指摘が相次いで上がった。自民党の山田太郎参議院議員も「このようなことはあってはならない」と指摘している。

    大村知事は文化庁の決定に抗議を表明。国の第三者機関「国地方係争処理委員会」に審査を申し出るほか、国と裁判で争う意向を示した。

    アーティストたちの「ReFreedom_Aichi」プロジェクトも、撤回を求めるWeb署名を開始。10日ほどで約10万人近い賛同が集まっている。

    再開に至った理由は

    10月7日夜の会見で、大村知事は「安全面、セキュリティ対策に万全を期して再開したい」と発表。こう言及していた。

    「実際に足を運んでいない人から(話が)作り込まれ、ある意味フェイクのように、ネットで悪意を持って加工された。それがソフトテロのようなかたちになった。それをどう対策できるかを、真摯に協議してきた」

    一方、芸術監督でジャーナリストの津田大介さんは、「ゴールはみんな、共有できていた。知事も再開をめざすべきと思っていたし、検証・検討委員会も再開が妥当としていた。芸術監督である私も、再開を何よりも望んでいたひとり」と会見で語った。

    そのうえで、「全作家さんが戻ってきてくれたことが一番嬉しい」と話していた。