戦場に、敵はいなかった。そこにいたのは、人だった。
第二次世界大戦を兵士として体験した男性が、思わずこぼしたある涙について、描いた漫画があります。
Twitterにアップされたのは、1枚の作品。1700近くリツイートされるなど拡散し、「言葉にならない」などとコメントが寄せられています。
小さい頃、祖父の友人が酔っ払ったときのことだった。
「おったのは、人やったわ…」
この漫画を描いたのは、趣味で日常漫画を描き、Twitterにアップしているというこぐれさん(@kogure38)。このエピソードは小さい頃の記憶ですが、「たまたま祖父の写真を見て、思い出した」ことだったといいます。
祖父の小学校の先輩だったという友人。大正の終わりごろの生まれで、よく家に飲みに来ては、「ずっと噂話をしながら笑っているような人」でした。
そんな人が、思わず流した涙は、小さかったこぐれさんに強烈な印象を残しました。
「大人の男性があんな風に泣くのを当時初めてみたこともあり、鮮烈に残っている記憶です。戦争体験は祖父くらいの年になっても決して風化することがないんだなと思いました」
多くの日本兵が苦しんだ「戦時PTSD」
戦争が終わっても、長年にわたり、祖父の友人のなかに潜んでいた「人を殺してしまった」というトラウマーー。
こうした「戦時PTSD」(心的外傷後ストレス障害)に悩まされていた元兵士たちは少なくありません。
敗戦直後までに入退院した日本陸軍の兵士約2万9200人のうち、その半分にあたる約1万450人が、さまざまな精神疾患に苦しんだという研究結果もあるほどです。
原因には、敵だけではなく民間人、時には子どもを殺してしまったという加害の体験や、悲惨な戦場の記憶があるとみられています(当時のカルテによる)。
1964年に施行された戦傷病者特別援護法に基づく共同通信のまとめによると、最多の1978年度には、1107人の元日本軍関係者が精神疾患の治療をしていました。終戦から30年以上経っていたにも、かかわらず。
「忘れてはいけないこと」
漫画には「祖父は戦争の話を絶対にしなかった」とも記されています。
「祖父自身は戦争の話はしてくれませんでしたが、一度だけ現地で久々にお腹いっぱい食べた食事がとても美味しかった、というような話をしていました。どんな環境でもお腹が空くのが不思議だったというような話でした」
そのうえで、こぐれさんはこう語りました。
「私のように戦争を知らない世代は、実際に体験した人に比べてそれがどんなものなのかを実感することは難しい。でも、実際に涙を流していたあの人の記憶は、忘れてはいけないことのひとつだと思っています」
「あの一瞬以外にもどれだけのものを抱えてるんだろうと……本当に恐ろしいです。わたしはもう戦争を知らない世代ですが、二度とあんな涙を見たくないと思う反面、あんな涙を流した人がいることを忘れてはいけないと思いました」