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安倍首相の記者会見、なぜメディアは「岐路」に立たされているのか?

安倍首相の会見をめぐっては、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐって開かれた2月29日の会見が批判を集めていた。

「官邸の権限が増大する一方で、説明の場が失われたままという現状は、民主主義の健全な発展を阻害しています」

安倍晋三首相に「より十分な時間を確保したオープンな会見」を求め、メディア関係労組でつくる「日本マスコミ文化情報労組会議」(MIC)と「国会パブリックビューイング」が3月18日、日本記者クラブで会見を開いた。

MICが3月5日に始めた同様の署名にはすでに3万を超える賛同が集まっている。この日は政府と報道機関に対する声明も、あわせて発表された。

安倍首相の会見をめぐっては、新型コロナウイルスの感染拡大をめぐって開かれた2月29日の会見が批判を集めていた。

このときは、35分のうち19分が自らの主張を述べる冒頭発言だった。質問も幹事社の朝日新聞とテレビ朝日を含むわずか5社(NHK、読売新聞、AP通信)だけで質疑が打ち切られている。

この際、「まだ質問があります」とジャーナリストの江川紹子さんが声をあげたが、安倍首相は無視してそのまま立ち去ったため、批判が高まった。

3月14日の会見でも冒頭発言は21分におよんだ。この際は「まだあります」「総理、これを会見と呼べますか」などの声が上がったことで会見が継続された。

結果としてフリーランスを含む12(幹事社の中日新聞・共同通信、毎日新聞、ウォール・ストリート・ジャーナル、フリーランスの安積氏、北海道新聞、日本テレビ、フジテレビ、不明、朝日新聞、ニコニコ動画、IWJ岩上氏)の質問があったが、最終的には会見開始から52分、質疑応答は31分で打ち切られた。

なお、両日ともに首相は会見後、そのまま自宅へと帰っている。

記者会見は「大切な営み」

そもそも、こうした首相会見は「内閣記者会」(官邸記者クラブ)が主催している。

いずれの会見でも官邸側が質疑者を決めており、「予定した時間をすぎている」として質疑も打ち切っている。慣例的に再質問はできないという。

こうした状況を受け、MICは3月12日に「十分な時間を確保したオープンな首相会見を求めます」とする要望書と2万8000筆以上(同日現在)が集まった署名を安倍首相や、内閣記者会に所属する報道期間に提出。

要望書ではネットメディアやフリーランスも含めた質問権の保障や、再質問も行える十分な質疑時間を確保することを求め、さらに同様のことを日本記者クラブにも申し入れしたという。

また、3月18日には「市民の疑問を解消する質問機会を取り戻そう」とする声明を発表した。声明では、以下のような危機感を表明している。

記者が様々な角度から質問をぶつけ、見解を問いただすことは、為政者のプロパガンダや一方的な発信を防ぎ、市民の「知る権利」を保障するための大切な営みです。

それにもかかわらず、2011年3月の東日本大震災以降、日常的に首相が記者の質問に応じる機会がなくなりました。特に例年3月末に新年度予算が成立した後は、首相が国会で説明する機会も急減します。

官邸の権限が増大する一方で、説明の場が失われたままという現状は、民主主義の健全な発展を阻害しています。

新型コロナウイルス対策に限らず、「桜を見る会」や森友学園問題をめぐる疑惑など、安倍首相に問いただすべき課題は山積しています。

視察先での地元記者の質問権の保障を含め、日常的に首相へ質問する 機会を復活するよう、政府と報道機関に求めます。

メディア側も声をあげるべき

「国会の異常な状態を可視化しよう」として「国会パブリックビューイング」の取り組みを進めている法政大学教授の上西充子さんは会見でこう語った。

「いまの記者会見のあり方に、一般の人々は不満を持っている。批判が報道機関に向き、記者クラブがいらないという話になってしまうこともある。記者の声で延長された2回目の会見を『茶番』と冷めた目で見るのではなく、一歩前進として、さらに良い方向に向けていく必要がある」

そのうえで市民にできることとして、「国会と同じで、記者会見を見ることでプレッシャーになるはず。見られているという意識を持ってもらうことが大切だ」と話した。

一方、新聞労連委員長の南彰さんはこう言葉に力を込めた。

「為政者の発信が正しいのか、プロパガンダではないとかということを検証する基本的な営みが記者会見だ。記者が質問をすることは大切な責務である。しかし、官邸に権力が集中されるなかで、非常に一方的な発信が続いている状況があり、さらに会見の主導権を握られてしまっている」

そのうえで南さんは東日本大震災時の民主党・菅直人内閣の対応が踏襲され、日常的な首相会見が現在も実施されていないことを批判。

「安倍政権はメディアにとっての一つの試練。ちゃんと権力の歯止めになる、チェックができる報道機関でいられるのかという岐路に立たされている。多くの報道機関、メディア側も早急にこうした声をあげていくことが必要ではないか」と指摘した。

なお、日本記者クラブは3月17日に安倍首相に会見要請をすることを決めたといい、MICは声明で「安倍首相は早期にこの要請に応じてください」「日本記者クラブ側も質疑者を会員に限定せず、オープンな記者会見として実現するよう求めます」としている。