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在日女性に「祖国に帰れ」ヘイト投稿した40代「お許しいただけないか」と謝罪も裁判では争う姿勢

訴えを起こしたのは、川崎に暮らす在日コリアン3世の崔江以子(チェ・カンイジャ)さん。ブログやTwitterで崔さんに対する差別的な書き込みや誹謗中傷を続けていた40代の男性に対し、損害賠償を求めている。

「愛する日本を取り戻す」とうたう匿名ブログやTwitterアカウントから繰り返しヘイトスピーチなどの被害を受けたとして、川崎市内の在日コリアンの女性が、投稿者の男性に対して損害賠償など計約300万円を起こした裁判の第一回口頭弁論が4月21日、横浜地裁川崎支部であった。

40代の男性は裁判前に、自らの行為と非を認め、「お許しいただけないでしょうか」などとする謝罪文を原告側に送っていた。しかし一転して全面的に争う姿勢を示した。差別的な目的も、排除する意図もないとしている。

(*この記事にはヘイトスピーチの文言が直接含まれます。閲覧にご注意ください)

訴えを起こしたのは、川崎に暮らす在日コリアン3世の崔江以子(チェ・カンイジャ)さん(48)。

一方の男性は北関東の40代。アーカイブサイトによると、ブログ上で「日本国が大好き」「反日マスコミ、反日外国人、売国奴と闘う」などと記載していた。

訴状によると、男性は崔さんについて、2016年に「日本国に仇なす敵国人め。さっさと祖国へ帰れ」と名指し。崔さん側はヘイトスピーチ解消法が定める「地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動」にあたると指摘している。

崔さんが法務局に人権侵犯被害を申し立てたことで記事は削除されたが、男性は「個人的に恨みがあります」と、その後もブログやTwitterで崔さんに対する書き込みを数年にわたり、計70件続けた。

なかには「差別の当たり屋」「被害者ビジネス」などの投稿もあり、これらについて、崔さん側は事実ではなく、社会的評価を低下させる名誉毀損に当たると主張している。

男性は提訴前、崔さんに対し、謝罪と許しを請う手紙を送っていた。BuzzFeed Newsが裁判記録を閲覧し、確認した内容は以下のようなもの(要旨)だ。

「このたびはブログやツイッターにおきまして、誹謗中傷を行い、崔様の人格権を傷つけ、名誉を侵害したことを、心よりお詫び申し上げます。ネット上で誹謗中傷をした事実も認めます」

「本当に申し訳ございませんでした。心から反省しております。20年前から精神疾患を患い、近年仕事もできず、無職で弁護士をつけるお金もなく、工面も難しいという現状をお汲み取りいただければ幸いでございます」

手紙には「賠償金として貯金を崩し知人から借金し50万円をかき集める」「2度としない」「直接お詫びしたい」「これでお許しいただけないでしょうか」という言葉もあった。

男性の態度は一転

しかし、実際に裁判が始まるとその態度は一転。4月21日の第一回口頭弁論では、答弁書で一貫して争う姿勢を示した。

「祖国へ帰れ」という投稿については「自らの心情を表現したに過ぎず、原告に対して述べられたものではない」と主張。差別的意識を助長する目的もなく、誘発、排除の扇動をするものではないとしている。

ほかの2つの投稿についても「原告に対して憤りを感じていたのは事実であるが、逆恨みや腹いせではなく、批判」とし、誹謗中傷や社会的評価を低下させるものではないなどと指摘。

さらに、崔さんが削除申請などのために「本来であれば自ら認知することはなかったと考えられる書き込みまで調べ出すことで精神的苦痛を増大させてしまっている」などとも述べ、名誉毀損も否定している。

自らの手紙については崔さん側の言うような「身勝手な言い訳」ではないと強調。「裁判は双方に負担になることから、不快な思いをしたのであれば謝罪する意思を示した」「賠償の求めについて困窮している状況を酌んでほしいと求めた」などと記している。

崔さん側は準備書面で、被告がTwitterで「彼らにとって居心地が悪い日本にして、愛する祖国へ返してあげましょうw」と崔さんに触れていたことに言及。「日本から排除しようと扇動する差別的言動と裏付けている」などと反論した。

また、そのほかの男性側の答弁についても、「見なければよいというのは、被害者が差別され続けているままでいるべきとの主張」「自らと子どもを守るため、書き込みをチェックせざるを得なかった」としている。

「すべてを否定された」

この日の裁判で、崔さんは「ヘイトスピーチに追い詰められ、すべてを否定されたように感じた」などと意見陳述。涙ながらに、こう語った。

「誰でも見れるウェブ上に『祖国へ帰れ』と書かれたことで、多くの人に日本にいてはいけない人間だ、こいつを攻撃しろと的のように示されました」

「被告のその後の『覚えておけ』『絶対に許さない』『チェお前だよ』という脅迫が実際に起こるかもしれない、書き込みに扇動された人が行為に及ぶのではという恐怖にさらされ続けました」

「ネットの差別投稿が、人の命にかかわることを見つめ、差別を決して許さない司法判断がされることを心から望みます」

崔さんはこれまでネット上の差別的攻撃や、さらに直接的なヘイトクライムの被害を受け続けてきた。民事裁判を起こすのは初めてで、被告側の反論に向き合うことが辛くなり、仕事を休まざるを得なくなってしまったこともあった。

それでも訴訟を続けている理由について、会見では「子どもたちのためにも、祖国へ帰れという言葉がいつでもどこでも、そして司法の場でも絶対に許されないという社会になってほしい」と述べた。

代理人の師岡康子弁護士は「祖国へ帰れという言葉は、この場に生き続けてきた存在そのもの、そして未来までもを否定する、大きな被害をもたらす言葉。差別であるということとともに、損害もきちんと認めてもらいたい」と指摘。

そのうえで、崔さんが脅迫被害などを受けてきたことや、「ヤフコメ」の書き込みを背景に京都・ウトロ地区で放火事件が起きていることに触れ、ネット上のヘイトスピーチや差別的言動を放置することが、「ヘイトクライム」に繋がる危険性と、対策の必要性を強調した。

UPDATE

文中の誤記を一部修正いたしました。