• worklifejp badge

経費のため、カードローンに手を出した。外資系生保営業マンの闇

輝いて見えた職場は、虚像だった。

パリッとしたスーツに身を包み、黒光りした革靴を履いて、高級腕時計をしている。

外資系保険会社の営業員、と聞けば、そんなイメージを思い浮かべる人は少なくはないのではないだろうか。

しかし、それは限られた一部の人たちだけだ。その陰には身を粉にして働き、疲弊し、潰されていく人たちがいる。ある元営業マンは、こうつぶやく。

「成功してキラキラできているのは、2割くらいの社員だけ。残りはみんな、もがき苦しんでいるんです」

「精神的にも、肉体的にも限界でした」

そう、BuzzFeed Newsの取材に語るのは、ある外資系保険会社で営業を担当していたことがある、20代の男性だ。

中途採用で「憧れ」だった営業員になったという男性。個人や法人営業を担い、激務であること、完全歩合制(フルコミッション)で、すべてが自分次第であることは知っていた。

「いままでとは違う、厳しい生活が待っていることは知っていました。活躍できている先輩たちも多く、すごいなと、この会社に入れば自分の挑戦になるなという憧れもあったんです」

しかし、現実は予想以上に過酷だった。

最初の2年間はOJTと決められていた。その間は固定給が20万円ほどあり、あとは「インセンティブ」という仕組みだったという。

稼ぐためには、がむしゃらに働かないといけない。使える人脈は全て使おうとした。大学時代の友人にもひたすら声をかけた。

しかし、保険という大きな買い物だ。必ずしも契約が取れるわけではなかった。

休みという概念は、存在しなかった

「最初の1〜2ヶ月は毎日午前2〜3時まで働いていました。それが終わっても、夜の11時なんて当たり前でしたね」

日中は営業回りに使い、帰社後に上司と打ち合わせ。さらにクライアントの要望に応えるための準備をする。息をつく暇もなかった。

休みだって取れなかった。そもそも、休日の概念なんて存在しない。

土日のアポが入っていなければ、「今週どうするの」「なんでアポが入っていないのか」と詰められるからだ。

40代の女性上司は新人であった男性を支えてくれないばかりか、「パワハラ」に近い叱責を繰り返した。

学生時代の親友から契約が取れなかった時には、こんなことを言われたという。

「彼女がなんで契約をしなかったのか、わかってる? あなたを友達だとは思っていないからだよ。そう思っているのは、あなただけだから」

「バカ」や「死ね」などの言葉も当たり前。お前にはできない、お前には問題がある——。人格否定ばかりが続く毎日だったという。

打ち合わせをお願いしても、朝まで飲んだ上司が寝坊をして会えないことがあった。「なんで起こさないんだ」と怒鳴られることもあった。

経費で貯金は底を付き、カードローンに手を…

男性は肉体的にも、精神的にも追い込まれていたという。そして、金銭的にも。

なぜか。商談のお茶代、飲み代などの交際費、イベントの参加費、携帯電話料金、交通費まで、仕事にかかる経費がすべて自腹だったからだ。

「経費は、月に10万円じゃききませんから」

できるだけ契約を取りたいと営業を続けているうち、毎月の持ち出しはどんどん増えた。給料分を超える月だってあった。

前職時代の貯金は底付き、やむをえずカードローンに手を伸ばすことになった。

「私だけじゃないですよ。借金をして経費の足しにしている人はかなりいます。飲み屋で接待するだけではなく、キャバクラ店に連れていくパターンもあるでしょうし、麻雀を打つ人もいる。ゴルフだって、お金がかかりますから」

だからこそ、もっともっと、稼がなければいけない。もう、休むことはできなかった。

「こんな働き方ではとても生活できない、と思いましたよ。でも、うまくいけば青天井なんです。いくらでも儲けられるようになる。だから、辞められなかった」

そう語ると、男性はため息をついた。

「本来ならば、保険は『お客様の人生を充実させるもの』であるはず。でも、こうした働き方を強いられていれば、そんな理念は忘れてしまいますよね。売るために売る、という形になっている。本当にそれって、正しいことなんでしょうか」

人を使い倒して儲ける会社だった

自分がやっていることが正しいのかもわからなくなり、体と心に限界を感じた男性。入社から1年ほどして、辞職を決意した。

「人材を使い倒して儲けている会社だったんですよね。言い方は悪いけれど、大量に人を雇って、できないやつは捨てるという戦略をとっているのだと思います。僕たちは結局、駒だったんですよ」

辞める少し前、営業員に自殺者が出た、と噂で聞いた。

「こんな環境だから、当然でしょうね。休職者、退職者も、ものすごく多い。いなくなることが当たり前で、そうした人たちをケアすることはありません」

それでも、「売れている人たちはすごい」とも、男性はいう。

「売れている人たちは、高級車に乗ることもできるし、月単位で数百万稼ぐ人だっている。ハワイや沖縄で表彰を受けていて、そういう写真をSNSにたくさんアップしている」

「でも、それって限られたごく一部だけ。虚像に近いですよね。残りの8割くらいの営業員たちは、いまも、僕みたいにもがき苦しんでいるんです」


過労死、長時間労働、ハラスメント、仕事と生活の両立や男女格差……。

これまで「働き方」の問題を積極的に発信してきたBuzzFeed Japanは、「働き方を考える」企画を始めます。

いまを生きる私たちが直面する、仕事にまつわるさまざまな課題を少しでもポジティブに変えていくために、世の中の「生きづらさ」をなくすため。読者のみなさんと、ともに考えます。

ご意見やご感想、ご自身の体験談はTwitter「#本当にあったブラック企業の話」やメール(japan-worklife@buzzfeed.com)、または担当記者までお寄せいただけますと幸いです。

過去・新規記事の一覧はこちら