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「まだ辞めてなかったのか」と上司に言われた。育休を取ったお父さんの現実

日本の男性の育休取得率は、2018年度で6.16%と依然として低いままだ。政府は5月末、男性の育児休業の取得率を5年間で30%に引き上げることを目指すと少子化社会対策大綱に明記したが、現場はどのような実態なのか。

「まだ辞めてなかったのか」「なぜ男性が取るのか」「キャリアに影響がある」…

これらはいずれも、育児休業を取得しようとした男性たちに、上司から投げかけられたという言葉だ。

日本の男性の育休取得率は、2018年度で6.16%と依然として低いままだ。政府は5月末、男性の育児休業の取得率を5年間で30%に引き上げることを目指すと少子化社会対策大綱に明記したが、現場の実態はどうなっているのか。

BuzzFeed Newsが男性向けに実施したアンケート調査によると、「会社」や「社会」の空気が依然として足かせになっている現状が明らかになった。6月21日は父の日。調査結果を詳報する。

アンケート調査は「Google フォーム」を用い、無記名で今年1月末から2月にかけて実施。回答者は213人だった。回答者の75.1%(160人)が子育て中で、育休を「取得した」と答えた人は78人(子育て中の人の48.8%)だった。

一方で「取得していない」と答えた人は52人、有給などの「別の制度を利用した」と答えた人は12人、そして「対象になっていない」と答えた人は18人(役員や個人事業主ら)いた。

これらの人数と合計すると82人で、子育て中の人のうち51.3%にのぼり、取得した人の割合を上回った。

育休取得率が低い背景については、会社の雰囲気と答えた人が32.9%と一番多かった。

次に多かったのは「社会の雰囲気」(19.7%)で、「仕事の量、人員不足」(17.8%)「上司の価値観、無理解」(10.3%)「家計の状況」(3.8%)と続いた。

子育て中で、育休を「取得していない」と答えた52人に絞ってみても、会社に関連した問題が78.8%と大半を占めている。

「会社の雰囲気」と答えた人は30.8%で最も多く、「社会の雰囲気」(21.2%)のあとは「仕事の量、人員不足」(19.2%)「上司の価値観、無理解」「家計の状況」(ともに9.6%)と続いている。

育休を取得できない「空気」の実態

子育て中で、実際に「取得していない」と答えた51人の自由記述からは、育休取得を難しくしている「空気」の実態が伝わってくる。

「社内に男は仕事、女性は家庭という暗黙の雰囲気があり、子育てを理由に仕事を休める状況にない」(会社員・団体職員、40代)

「育休を取得した場合、昇進に不利になる傾向が社内にあったため、取得しない方法での育児参加を選択した」(会社員・団体職員、30代)

「取得したい旨を上司に相談。しかし、却下された」(会社員・団体職員、30代)

「業務に穴が空く感覚があり、妻が専業主婦の男性社員も多く職場が言い出しにくい雰囲気だった」(会社員・団体職員、30代)

また、「前例がない」「理解がない」という声も多く聞かれた。

「男性が育休を取得した前例がないため、育休を取得することについて話がでない。また、有給休暇取得も厳しい状況なので無理だと思う」(会社員・団体職員、30代)

そのほか、会社の規模や職種、人員の問題を挙げる人もいた。

「小規模の会社(社長1人、社員2名)という体制で、とても育休を取りたいと言い出せるような状況ではなかった」(会社員・団体職員、30代)

「担っている業務が国の定める基準を満たした人にしか与えられない資格のため、後任が見つかりにくい」(会社員・団体職員、30代)

「代わりがいない。人員補充がない」(会社員・団体職員、30代)

取得後に上司から「パワハラ」も

一方で、実際に「取得した」という人(78人)からも、会社や周囲の「空気」に関する声が寄せられた。

「男性で育児休業の取得者が今までにいなかった」(陸上自衛官、30代、毎日2時間の育児時間を取得)

「自分が会社で男性初の育休取得者だったので上司には言いにくかった。抱えている業務量も多く周りに迷惑をかけてしまうという意識は大きかった」(会社員・団体職員、20代、1ヶ月取得)

「私が抜けることによるチームメンバーへの業務負荷増が想定された為、取得しづらいと思いました。またキャリアのことも考えましたが、自分の中ではキャリアよりも子ども・家庭の優先順位が高い。との結論となり、取得することにしました」(会社員・団体職員、30代、1ヶ月取得)

また、取得前や取得後に、上司らから嫌がらせ、いわゆる「パタニティハラスメント」などを受けたという人も少なくない。

「女性は産休から育休への流れがあるので波風が立たないが、男性の育休取得には、なぜ取るのか、そもそも必要なのかとの質問・意見を受けることになった。最後は制度上拒否できないとのことで、なんとか取得できた」(公務員、40代、6ヶ月取得)

「社内の同僚たちの理解はありましたが、顧客や取引先に、その考えがなかったです。育休を取ると伝えたときの反応からは、仕事への責任感が薄いようなイメージを持たれたと感じました」(会社員・団体職員、40代、6週間取得)

「休んで遊んでるとかとサボってるとか思われる。まだ辞めてなかったのかとか言われた」(公務員、40代、6ヶ月取得)

「既婚ディンクスの上司からのパワハラ」(会社員・団体職員、20代、1ヶ月取得)

「公務員なので職場は取得を歓迎したが、上司からはキャリアに影響する可能性に言及があった」(公務員、30代、3ヶ月取得)

「義務化」を求める声も

どのようなところを変えれば、男性が育休取得しやすい空気が広がるのだろうか? その点を尋ねた質問には、以下のような回答が寄せられた。

「会社のトップ、部署のトップ、エースなど、影響力のある人こそ取得すること」(会社員・団体職員、30代、2週間取得)

「『女性は育児家事、男性は仕事』といった社会的な偏見や性差別をなくしていくことが必要」(非正規教員、30代、1年間取得)

「仕事の属人性を解消する。いなくなる前提で人員に余剰を持つべき。残業前提の人員配置が主な原因であると感じる」(会社員・団体職員、30代、取得した)

育休取得の「義務化」を求める声も21人と多くあがっていた。2019年には自民党有志が育休義務化に関する議員連盟を設立。議論が活発化したが、一方で「強制」ではなく現行制度の改善を求める声も少なくはない。

「男性女性関係なく、少なくとも1年は義務化する」(会社員・団体職員、20代、1人目は6ヶ月・2人目は1年間取得)

また、育児「休業」ではなく、フレックスやワークシェアリング、テレワークなど、より柔軟な働き方などの選択肢を増やすべきではないかという指摘も複数あった。

「完全に育”休”せずともリモートワークや育フレックスのような選択肢が増える=すそ野が広がることが重要と思う」(会社員・団体職員、30代、取得していない)

「リモートワークや時短勤務などが、業務量や業務内容の調整でできるのであれば、それがベストでは」(会社員・団体職員、30代、取得していない)

「給与の減額が…」

職場の空気以外にも声があがっていたのは、金銭的な問題だ。

「給与の減額が思いのほか大きいので諦めた」(会社員・団体職員、40代、取得していない)

「育休により給与が下がる事で生活が難しくなる」(会社員・団体職員、30代、別の制度を利用)

現在、育児休業を取得した場合、半年間は給与の67%(それ以降は50%)が雇用保険の「育児休業給付金」から支給される。

これは非課税で、さらに社会保険の支払いも免除されるため、実際の手取りは8割ほどになる。とはいえ、子育て世帯の給料2割減の影響は少なくない。

一方で、政府は今後給付金の引き上げを検討している。毎日新聞によると、一定期間の支給率を給与の80%として、実質100%の月収を受け取れるようにする案も検討されるという。

なお、記事では「上司に却下された」という声を紹介しているが、育児休業の取得は法律に明記された労働者の権利だ。会社は申し出を断ることはできないと、6条に明記されている。

「事業主は、労働者からの育児休業の申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない」

また、「嫌がらせ」や「キャリアへの影響」に関しても、同法第10条で「不利益取扱いの禁止」が明示されている。

つまり、いずれも違法行為となる。場合によっては、会社側にきちんとした説明をしたり、コンプラ窓口や行政機関などに相談をしたりすることも必要だ。


BuzzFeed Newsでは、育休取得に悩む男性たちを取材した記事【「ウチみたいな会社は無理」育休を取得できなかった父親たちの思いとは】も公開しています。

アンケート調査にご協力いただいたみなさま、ありがとうございました。コロナ禍の影響もあり、公開が遅れたことをこの場を借りてお詫びいたします。