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彼女は、街ゆく人に「コロナ」と言われた。日本人が受けた差別の現実

新型コロナウイルスの感染拡大をめぐり、世界で問題視されているのが、アジア人差別だ。日本でも中国人の排除を訴えるようなネット上の書き込みが散見されるが、ひとたび国を越えれば、そうした差別は他人事ではない。ヨーロッパに暮らし、実際に被害を受けたという日本人女性に話を聞いた。

感染が広がる新型コロナウイルス(正式名称:COVID-19)。世界で問題視されているのが、アジア人差別だ。

フランスではアジア系の人に対する嫌がらせを受け、「私はウイルスじゃない」というハッシュタグが拡散。ニューヨークの地下鉄では、マスク姿のアジア系女性が暴行を受けた動画がネット上にアップされ、警察は「ヘイトクライム」(憎悪犯罪)の可能性があるとして捜査をはじめた。

日本でも中国人の排除を訴えるようなネット上の書き込みが散見されるが、ひとたび国を越えれば、そうした差別は他人事ではない。ヨーロッパに暮らし、実際に被害を受けたという日本人女性に話を聞いた。

「スーパーマーケットに入店すると周囲の視線を一斉に受けます。すれ違いざまに『中国人、コロナウイルス』とだけ言って去った人がいました」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは東欧・ジョージアに暮らす日本人女性だ。「現地でコロナウイルスの報道が急に多くなった」1月末ごろから、差別を実感するようになったという。

「私の場合は入店拒否などをされることはなく、主に指をさされながら『中国人』『コロナウイルス』と周囲を巻き込んで言われます。1日に1回は必ず、そうしたことがあります」

「私は現地に居住しています。人と文化と自然が素敵で大好きになり、自分が信用したいと思った場所だったので、見た目のみの情報という偏見で排除されるような言葉を投げかけられたことが残念で仕方がなかったです」

そうした声をかける人の多くのは30〜50代の男性だという。「女だから弱く見られてるのかもしれません」。現地の言葉がわかる女性は、直接言い返したこともあった。

「すれ違いざまに言われた後、追いかけながら呼び止めて話しました。『失礼、それはどういうつもりで言ってますか?』『自分が外国で国籍を理由に侮辱されたらどう思いますか?』『家族が傷つくとも思わない?』と」

「相手の方はオロオロしながら最初は『なんのこと?』と知らないふりをして逃げようとしていて。歩きながら続けていると『ごめんよ、ごめんよ、お嬢さん』と謝ってくださいましたが、質問には答えてもらえませんでした。軽い気持ちで言ったのでしょうが、それが残念でした。言葉に対する責任がなければ、考えもない」

広がる陰謀論、そして

新型コロナウイルスをめぐるニュースは、ジョージアでも連日報道されているという。

「2人の中国人がジョージア入国当初、発熱はなかったものの発熱し病院に入院しているとも報じられていました。あとは感染者数、死者数、地域、武漢の病院の様子など……」

また、日本のネット上でも広がった「研究所から漏れた人工ウイルス」などの陰謀論もジョージア語のネット記事で紹介されている。

「パニックに陥らず公式な情報源からのみ情報を入手」するよう国立疾病管理センターの所長も呼びかけているが、「命が危険に晒されるのだという恐怖が、広がっているのかもしれません」と、女性はいう。

普段は差別を経験することはないというが、そもそもアジア人が少ない国だ。日常生活で中国人と間違えられることも多い。

「ジョージアは独自の言語を持つ小さな国で、距離の近いイランやロシア、アゼルバイジャンなどを除いては移住する事は考えられないので、まずアジア人と出会った時に現地に居住していると思う人はかなり少ないと思います。旅行者=中国と周辺地域に広まったウイルスを運んできた人、という考えなのかもしれません」

「東洋の人は肌の色も顔貌も似ているし、自分のルーツ、アイデンティティであり、好きなので出身国を間違われることはどうでもいいのですが、もっと国や地域で括らずに個人で見てほしいと思います」

「排除」の境界線の先に

女性は、他の国でもアジア人差別が広がっていることも知っている。日本のネット上にも、中国人に対する心ない書き込みがあることを目にしたこともある。こうした差別は、決してジョージアだけの特殊事情ではない、ということだ。

「いつでも世界を行き来でき、お互いに恩恵を受けることができる時代ですが、リスクに関しては協力どころか排除の方向ばかりに考えが及んでいることが残念です」

だからこそ、女性はそうした差別を受けたとき、自ら言葉を投げかけた人に話しかけるようにしているのだという。

「でも、言葉での差別はコントロールできるようにも思えます。私自身が言い返すようになったのは、その方が次にアジア人と出会った時に同じ言葉を投げかけずに一瞬自分の中で考えてもらえるかもしれないと思ったからです。自分からのコミュニケーションによって、もしかしたら差別を防げるかもしれません」

「誰もが病気になりたくてなったわけではありません。もし病気を不安に感じているのならば、情報をしっかり集めつつ、コロナウイルスで苦しんでいる方々の大変さにも思いを馳せられるはず。『自分が感染しないようにとにかく排除を』という考えの境界線を越え、想像することが大切なのではないでしょうか」