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「見殺しにしないで」被害者が大臣に直接、伝えたこと。相次ぐヘイトクライム、法相の返答は…?

京都・ウトロ地区での放火事件や、川崎の桜本への脅迫事件など、在日コリアンをねらったヘイトクライムが相次いで発生している。ロシアによるウクライナ侵攻でも同様の問題は起きており、専門家や被害者らが法務大臣に直接、緊急対策を求めた。

在日コリアンが集住する京都府宇治市のウトロ地区で放火事件が起きるなど、憎悪感情を根底にした「ヘイトクライム」が相次いで発生している。

こうした状況を受け、弁護士ら専門家でつくる「外国人人権法連合会」や被害者らが4月28日、古川禎久法相と面会し、意見交換。緊急対策として現地訪問やヘイトクライム対策に関する制度設計などを求める要望書と提言を提出した。

古川法相は「不当な差別や偏見は、断じてあってはなりません」と発言したほか、ヘイトクライムは犯罪であり、厳正に対処するという強い姿勢を示したという。

ウトロ地区で2021年8月に起きた放火事件では、奈良県桜井市の無職有本匠吾被告(22)が、非現住建造物等放火の罪などで起訴されている。被告は愛知や奈良の在日大韓民国民団(韓国民団)施設でも不審火事件を起こしていた。

BuzzFeed Newsの接見取材に対して被告は、在日コリアンらに嫌悪感情を覚えていたとし、恐怖を感じさせたかったと述べており、さらに事件の動機のひとつとして、「ヤフコメ民をヒートアップさせたかった」とも明かした。

逮捕後には大阪府の民団支部にハンマーが投げ込まれた事件も起き、模倣犯や類似事件を憂慮する声、そして当事者からは「命への不安」の声が寄せられた。

国内の「ヘイトクライム」をめぐっては、同様に在日コリアンが多く暮らす川崎・桜本地区の多文化共生施設「ふれあい館」をねらった爆破予告や虐殺宣言、脅迫事件などが繰り返し起きている

また、ロシアのウクライナ侵略に関連し、ロシア料理店に対するインターネット上の中傷、脅迫被害も発生。差別的動機に基づき、特定の国籍、民族の人たちを狙った犯罪が相次いで発生する事態となってしまっている。

こうした危機的な状況を受け、「外国人人権法連絡会」が古川法相に要望書の提出を検討。公明党の「ヘイトスピーチ対策部会」の議員らの仲介により、面会に至った。

古川法相の発言は

要望書では「社会に差別と暴力が蔓延」し、当事者が「恐怖、孤立感、絶望の下に置かれ(中略)深刻な被害を受けています」と日本社会のヘイトスピーチ、ヘイトクライムをめぐる現状に言及。

ヘイトスピーチ対策法の施行後も具体的な対策がされてこなかったとして、包括的な差別禁止法のの整備、首相や法相による現地の訪問、差別的動機が量刑に考慮されるガイドラインの策定、被害者救済の仕組みづくりなどの緊急対策を求め、要望書と提言を提出した。

国会・参議院法務委員会でヘイトクライムについて「あるまじきこと」と強調していた古川法相からは、報道陣が取材した面会の冒頭、以下のような発言があった。

「人種や民族や国籍を理由にした不当な差別や偏見は、断じてあってはなりません。やはり我々が目指すべき社会はお互いが違いを認め合って、そして助け合って生きるという共生社会が、我々の目指すべき社会だと思っております。今日はしっかりと意見交換をさせていただいて、受けとめさせていただきます」

その後の意見交換はクローズで行われた。出席者によると、古川法相からは「ヘイトクライムは犯罪であり、厳正に対処する」と繰り返し発言があった。

また、「ヘイトスピーチ問題は表現の自由があるからと躊躇されることもあるが、一歩進んで議論を始めるとき」という趣旨の説明もあったという。

「助けてください」と伝えた理由

面会には川崎・桜本「ふれあい館」館長で、脅迫などの事件の被害を受けてきた在日コリアン3世の崔江以子さんも同席。

「助けてください、見殺しにしないでください、そう約束してくださいとお願いをしました」と会見で語った。

「次のターゲット、被害者は自分だったんじゃないかと、日本に暮らす在日コリアンがみんな感じています。朝鮮人とわかったら殺されるかもしれないから、ルーツを隠して過ごした方がいいよ、と子どもたちに言わないといけない社会ではないと、示してほしい」

「大きなことは望んでいません。ただ、私たちの被害に対して国が、政府が、こんなことは許されないと宣言し、被害から守るだけではなく、いますでに生じている被害について対策をしてもらいたいと感じています」

そのほか、出席者からは「政府、法務大臣として、明確にヘイトクライムは許さないと発言してもらいたい。それが被害者にとっても希望になる」と求める声があがったという。

参加した同連絡会の師岡康子弁護士は「国が動かないと変わらない。今日の要望を国際的な基準などに基づいた具体策を議論するきっかけ、スタートにしたい」と話した。