GoToトラベルキャンペーンをめぐり、事務局に出向している大手旅行会社の社員らに支払われる「日当」が「4〜7万円」などと相次いで報じられている。
しかし、この「日当」という表現はミスリードだ。そもそもこの金額には社会保険などの諸経費が含まれており、実際に出向者らの給与相当額として派遣元に支払われる額は、その40〜50%になる。
この点については、野党議員からも「ミスリード」との指摘があがっている。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。
この問題は週刊文春が10月14日に「大手出向社員に日当4万円」と報じたことから、大きな注目を集めた。その後、テレビ朝日も「日当7万円」と報じ、一時トレンド入りもしている。
観光庁のGoToキャンペーンの担当者によると、この事務局は全都道府県に計56か所設けられている。旅行業者や地域共通クーポンの参加事業者の登録申請受付、給付金を取りまとめ、支払いなどの業務を担っている。
主に大手旅行代理店の社員が出向しており、コンソーシアムに参加している4社(JTB、近畿日本ツーリスト、日本旅行、東武トップツアーズ)が中心だという。
野党側が開いた「合同ヒアリング」(10月19日)で提示された観光庁の概算資料によると、1日あたりの支払い金額は以下の通りだ。
- システムプロジェクトマネージャー5人 69800円
- 事務局長59人 64800円
- 部長級213人 55300円
- 課長級2315人 48700円
- 係長級2522人 40600円
- 係員級1251人 32700円
- 派遣・契約社員572人 27900円
人件費が支払われる対象になったのは、6937人。7〜8月の2カ月の人件費の支払いは、月当たり20〜22日稼働したとして税抜き126億8437万円の計算になる。
この平均をとると約4万円(総額から計算すると約4万5千円)になることから、「日当4万円」といった報道になっているようだ。
しかし、上記の金額には以下の項目が含まれていることに留意が必要だ。
- 基本給相当額
- 諸手当(役職、資格、通勤、住宅、家族、その他)
- 賞与相当額
- 事業主負担額(退職金積立、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、 労災保険、介護保険、児童手当)
このうち「基本給相当額」はいくらになるのか。観光庁の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「40〜50%が基本給に当たる部分」と回答した。
また、合同ヒアリングで提示されていた額はそもそも概算時の単価であり、実際は少ない額になるという。
「参考にした設計業務委託等技術者単価は8時間単価になっています。合同ヒアリングでも同じ額を示していますが、実際は事務局の勤務規定が7時間となるため、ここに8分の7掛けされた金額になります」(担当者)
実際に平均4万円の人件費で20日間稼働したとすれば、「4万円×20日=80万円×40〜50%×7/8=28〜35万円」ほどが、出向者に対する平均の1ヶ月あたりの給与相当額となる計算だ。
さらに、支払われるのは個人ではなく派遣元の会社になる。こうしたことから、この金額そのものを、出向者1人あたりがマージンとして受け取れるような「日当」と表現するのは、ミスリードだと言えるだろう。
野党議員も「ミスリード」と指摘
実際、観光庁側も「いわゆる日当と同じではない」とヒアリングで明言しているほか、ヒアリングに参加していた立憲民主党の原口一博副代表も「確かに日当ではありません」「ニュースの見出しは、ミスリードです」と指摘している。
一方、この問題を真っ先に報じた週刊文春は冒頭の通り「日当」を用いている。立憲民主党も野党合同ヒアリングに関するツイートで「高額な日当」と記しているほか、一部のテレビ番組でのこの表現が使われていた。
たとえば、テレビ朝日が10月19日にネット上にアップした記事でも【GoTo事務局で日当7万円 「国民の理解得られぬ」】と伝えている。
しかし、上記の通り「日当」という表現もミスリードであるうえ、そもそも「7万円」は6937人中64人の最も高い額であることに注意が必要だ。
なお、他メディアでこのヒアリングを報じている共同通信や東京新聞は「日当」の表現は使わず、「人件費」と表現している。
また、報道データベースサービス「G-Search」で確認できる限り、朝日や読売、毎日、産経、日経新聞、時事通信などは、そもそもこの問題を報じていない。
「幹部ばかり」は本当?
そもそもこの人件費の参考になっているのは、国土交通省が公共事業の設計などを業務委託する際の「設計業務委託等技術者単価」を参考にしている。
観光庁の担当者はこの点について、BuzzFeed Newsの取材に対し、「特に根拠があるわけではありませんがが、妥当なものだと判断をして採用しました」と語る。
なお、この金額の妥当性について、合同ヒアリングで野党側は「平均単価は4万円は、高すぎるのでは」と指摘したが、担当者は「それほど高いものではない」とも答え、そのうえで現在も精査を進めているとの見解を示している。
また、野党側からは「課長級など管理職が多すぎるのではないか」「幹部ばかりでは」との指摘もあがるが、BuzzFeed Newsの取材に応じた担当者は「全員がそういう立場であるわけではありません。補佐級なども含まれていますし、実際の業務量に鑑みて、必要な人数を設定しています」としている。
一方、先出の原口氏は、GoToトラベルをめぐり支払いが滞るなどの自体が起きていることから、この規模の予算を投じた事務局機能が「実態に即したものか精査したい」との方針も示している。
週刊文春も「事務局の業務をほぼしていない出向社員も多い」などと報じているため、焦点は一人当たりの人件費の「金額」そのものではなく、事務局の規模、機能の妥当性に移りそうだ。
なお、取材に応じた観光庁は担当者はこの点について「仕事をしていないでお金を払っているという実態は把握していません。報道を受け、管理監督指導には力を入れていきたいと考えています」と回答している。
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