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中曽根元首相の合同葬に税金9600万円。歴代首相は?自民党はいくら出す?批判もあがったが…

内閣と自民党との合同開催に、ネット上では税金を使うことに対する批判の声も広がった。しかし、総理大臣経験者の「国葬」「国民葬」「合同葬」が営まれるケースはこれまでもあった。戦前の「国葬令」が廃止されているいま、その基準はどこにあるのか?

中曽根康弘元首相の内閣と自民党による「合同葬」に、今年度予算の予備費から9643万円が拠出されることが報じられ、注目を集めている。

ネット上では税金を使うべきではないとする批判もあがった。ただ、こうして元首相の葬儀に税金を使うケースは、今回が初めてのことではない。

過去にあった元首相の葬儀では、どれほどの額が使われてきたのか。その条件とは何なのか。改めて振り返った。

中曽根元首相の葬儀は、10月17日に東京都のグランドプリンスホテル新高輪で営まれる予定だ。9600万円は会場の借り上げ、設営などに使われる予定だという。

ネット上では税金を使うことに対する批判の声も、一部で広がった。加藤勝信官房長官は9月28日の会見でこの点を問われ、「元総理のご功績、これまでの合同葬儀の過去の先例などを総合的に勘案して執り行う」ことにしたと回答。

そのうえで、「葬儀は簡素なものとしつつ、コロナ対策に万全を期すために積み上げられた必要最低限の経費」とも語っている。

また、政府と自民党の支払いは「基本的には折半」(内閣府合同葬準備室の担当者)だという。これは先例に従ったものだ。なお、自民党広報も同様に回答し、内閣府側と同額を支出する予定としている。

過去の「合同葬」などは10例

戦後、首相経験者の葬儀に国費が投じられたケースは、BuzzFeed Newsの調べでは全部で10例ある。実施年、主催者、場所、そして政府予算の概要は以下の通りだ(敬称略)。

  • 宮沢喜一(2007年、内閣・自民党合同葬、日本武道館、7696万円)
  • 橋本龍太郎(2006年、内閣・自民党合同葬、日本武道館、7700万円)
  • 鈴木善幸(2005年、内閣・自民党合同葬、新高輪プリンスホテル、5549万円)
  • 小渕恵三(2000年、内閣・自民党合同葬、日本武道館、7555万円)
  • 福田赳夫(1995年、内閣・自民党合同葬、日本武道館、不明)
  • 三木武夫(1988年、内閣・衆議院合同葬、日本武道館、1億1873万円)
  • 岸信介(1987年、内閣・自民党合同葬、日本武道館、不明)
  • 大平正芳(1980年、内閣・自民党合同葬、日本武道館、不明)
  • 佐藤栄作(1975年、内閣・自民党・国民有志の国民葬、日本武道館、不明)
  • 吉田茂(1962年、国葬、日本武道館、不明)


中曽根元首相の合同葬の経費が、過去に比べ比較的高額である理由は何だろうか。

内閣府合同葬準備室の担当者はBuzzFeed Newsの取材に、担当者は「式の構成をこれまでと変えることはありません」して、消費税や人件費や物件費の上昇、新型コロナウイルス対策の経費などの影響と説明した。

また、今回の会場がプリンスホテルとなったのは「今年五輪の予定があり、1月10日に合同葬を閣議決定した時点では、武道館のスケジュールがすでに埋まっていたため」という。

武道館での合同葬で実施していた自衛隊による弔砲は、ホテルという場所を鑑み、近隣住民への影響から見送る方針だという。また、コロナ対策で例年より座席の間隔を開けるため、参列者も絞っていくとしている。

元首相「合同葬」の基準は?

上記の通り、首相経験者の葬儀に政府として経費を出すのは、今回が11例目となる。しかし、実施に関する明確な基準は「ない」という。

内閣府合同葬準備室の担当者は「総理大臣経験者の葬儀について、内閣が関与するかどうかの基準はありません」と答えた。

「一定の年数的な基準もありません。長期の在任による国内外での功績や先例を踏まえて総合的に判断をするということになります。ご逝去が在職中で、国政遂行上の殉職ないし、それに相当するようなケースであるとされるときも実施されています」

三木元首相は議員在職50年の表彰を受けたことや、遺族の意向を鑑み、内閣と衆議院の合同葬になったという。なお、この際は昭和天皇のご病気に配慮し、自衛隊による弔砲などは取り止められている。

このほか、田中角栄元首相の場合は「合同葬」が一時検討されたが、ロッキード事件の刑事被告人のまま、最高裁審理中に死去したことから国民感情に配慮し、「自民党・田中家合同葬」という形をとった。

また、宇野宗佑、鳩山一郎、石橋湛山、池田勇人の4氏はいずれも自民党葬だった。竹下登元首相の場合は「合同葬」が検討されたが、故人が「地元での簡素な式」を望んでいたという意向などから、実施されなかった。

合同葬をめぐっては過去にも議論が巻き起こったことがあった。岸元首相の合同葬があった1987年から2006年の橋本元首相の合同葬では、学校現場に対し、弔意表明を求める通知が出され、たびたび反発が広がっていた。

国葬は過去に1度だけ

戦前には、岩倉具視を初めとし、東郷平八郎、山本五十六、さらに伊藤博文や山県有朋ら首相経験者も国葬が営まれてきた。

1926年には、国葬について明文化した「国葬令」が制定。その対象は皇室関係者のほか、「国家に偉勲ある者」とされている。

しかし、「国葬令」は日本国憲法が施行された1947年に廃止。その後、国費が使われてきた元首相の葬儀はいずれも閣議決定に基づいて実施されてきた。

「国葬」とされたのは吉田元首相だけ。このケースは戦後初、かつ最後、唯一の「国葬」となっている。これは閣議決定を根拠に実施され、故人の信仰に沿ったカトリックの葬儀ののち、宗教色を排除して営まれた。

ただし、政府としては吉田元首相の葬儀は「国葬」ではないとの立場をとっているようだ。中日新聞(1997年9月7日)には、当時の総理府官房総務課内閣係の「あれは国葬儀といいまして、閣議決定に基づく内閣主催の葬儀でした。国が主催した国葬ではありません」とするコメントが紹介されている。

なお、佐藤栄作元首相の葬儀でも「国葬」は検討されたが、野党の反発により「国民葬」となったという。

このほか、衆参両議院の元議長の「議院葬」が営まれたケースも戦後4例ある。直近では、2011年に西岡武夫参議院議長(当時現職)の「議員葬」が開かれた。参議院によると、経費は1411万円。

これは参議院議員運営委員会の理事会で「全会一致」で決定されているもの。参議院も国家機関であるため、結果として国費による出費ではあるものの、「政府」としての決定や支出ではないことに留意が必要だ。

参考記事 中国新聞(2006年10月31日、2006年8月1日) / 産経新聞(2011年12月26日、2000年7月4日、2000年5月15日) / 読売新聞(2004年8月24日、2000年6月8日、1988年11月15日) / 毎日新聞(2000年6月6日)/ 朝日新聞(2000年5月16日、1989年1月10日、1988年12月2日、1987年8月17日)/ NHKニュース(2011年11月7日)

UPDATE

国葬令に関する記述を更新しました。

UPDATE

過去例の紹介で「費用」としていましたが、政府と自民党の総額との誤解を招きかねないため「政府予算」と改めました。