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日本でも大量拡散したバイデン氏の「不正」めぐる情報。まとめサイトや、新興宗教系メディアが影響力か

BuzzFeed Newsが分析したところ、まとめサイトが既存メディアを上回る拡散力を持っている現状や、新興宗教系のメディアの存在感が浮かび上がった。いったい、何が起きているのだろうか。

アメリカ大統領選をめぐって、ネット上に大量の誤情報や、根拠のない情報、さらにはミスリードな情報が拡散している。

多くはバイデン氏の不正などを訴える内容で、アメリカのみならず日本でも多く広がっている。その起点となっているのが「まとめサイト」などの媒体だ。

BuzzFeed Newsが分析したところ、まとめサイトが既存メディアを上回る拡散力を持っている現状や、新興宗教系のメディアの存在感が浮かび上がった。いったい、何が起きているのだろうか。

ネット上に拡散している情報の多くはトランプ氏の陣営側、ないしは支持者から出されているもので、「選挙の不正」を訴えている内容であることにも特徴がある。

票が捨てられている、燃やされているというものから、開票所で不正が行われている、郵便投票で不正が行われている、選挙人の登録そのものに不正がある、という情報。また、これ以外にもバイデン氏本人の資質や、中国との関係性などに関するものもある。

トランプ氏やその息子、側近らが拡散に関与しているものもあり、誤情報の多くには、Twitterからの警告表示が出されている。

こうした言説は、様々な報道機関によってファクトチェックの対象となっている。米BuzzFeedが11月3〜6日にチェックした情報だけでも、その数は34個にのぼる。

情報はアメリカのみならず世界中で広がっており、日本も例外ではない。「ファクトチェック・イニシアチブ」が運営する判定前の「疑義言説」を探知するシステムには81個が登録されている。うち60個は、11月に入ってから拡散された言説だ。ファクトチェックメディア「InFact」が注意喚起している情報も20にのぼる。

バイデン氏の「不正」を訴える言説はSNS上の世論形成にも一定の影響力を及ぼしている。ツイート件数の推移などを調べることのできるYahoo!リアルタイムを使って「バイデン 不正」というキーワードで検索すると、投開票がはじまった11月4日ごろから急増。5日には1万8896件もツイートされていることがわかる。

既存メディアより拡散された「まとめサイト」

日本において、こうした情報の起点になっているのが「まとめサイト」だ。

前提として、多くのまとめサイトには、記者による関係者への取材ではなく、ネット上の情報やコメント、伝聞などをまとめて記事を作成するという共通点がある。広告収入を目的として運営されているものも多いとみられている。

メディアとして「事実関係」を提示するよりも、「意見」を紹介し、同調した人に広めてもらうことに焦点が当てられているのも特徴だ。

日本学術会議をめぐる問題でも、誤情報の拡散に大きく寄与しており、学術会議に対して批判的な世論形成をするきっかけになっていた。

大統領選に関して、BuzzFeed Newsは「バイデン」という単語が見出しに含まれる過去1年間にアップされたネット上の日本語記事を計測ツール「BuzzSumo」で分析。

その結果、SNS上でのシェアが多かったトップ100記事のうち、35個はまとめサイトの記事であることがわかった。国内外の既存メディアを合わせた34個よりも多い。

  • まとめサイト:35
  • 国内メディア:22
  • 海外メディア:12
  • YouTube:11
  • ポータルサイト(Yahoo!ニュースなど):7
  • 運営元不明のニュースサイト:7
  • 宗教系メディアなど(詳細は後述):3
  • ブログなど:3


また、媒体別のトップはまとめサイト「アノニマスポスト」の12個で、既存メディアを含むどのサイトよりも多かった。

次に多かったのはYouTubeの11個。ほとんどがバイデン氏に関する疑義言説を紹介する動画で、うち7個は日本国内の新興宗教関係者や、関連メディアによるものだった。

中には50万回再生されているようなものもあり、YouTubeがこうした情報の拡散の場になっているという現状が明らかになった。

その後には、まとめサイト「Share News Japan」と、既存メディアで一番多かった「産経新聞」の7個が続いた。

目立つ新興宗教系メディア

この1年間、「バイデン」を含む記事で最もシェアされていたのは、まとめサイト「アノニマスポスト」が誤情報を掲載した記事だった。

これは「バイデン氏の不正疑惑で州兵投入」「ウィスコンシン州で投票率200%」というもので、アメリカのTwitterでの情報を端に日本で拡散したもの。

特に後者の情報は日本だけで広がっており、一時「投票率200%」がTwitterトレンド入りするまでに発展。拡散は翌日、BuzzFeed Newsがファクトチェックするまで続いた。

この「アノニマスポスト」の記事は、TwitterとFacebookで約2万3000シェアされており、バイデン氏の当選確実を伝えるNHKの記事よりも多く拡散されている。

2番目のNHK、3番目の共同通信に続き、4番目に拡散しているものはバイデン氏と中国政府との関係を疑う根拠不明の記事。これは、韓国の新興宗教系サイトのものだ。

そのほかの新興宗教系では、先述の日本国内の団体関係者などのYouTube動画もあげられる。また、中国共産党政権を激しく批判する中国系団体のサイトもランクインしている。いずれも「反共産主義」という共通項があると言えるだろう。

5番目はBuzzFeed Newsのファクトチェック記事。6番目に拡散されているのは、運営元がはっきりしない「日本のオールドメディアが伝えない海外のニュース」を伝える、とするサイトの記事。このサイトの記事は、トップ100の中に5個がランクインしている。

なお、トップ100のうち半数以上の55個が11月に入ってから公開されたもので、短期間に一気に記事が広がっていることがわかる。

フジテレビも誤情報を拡散

既存メディアも拡散と無関係ではない。「世論調査サイトがペンシルベニア州でバイデン氏の当選確実を外した」という情報については、アメリカで拡散後、日本のまとめサイトに掲載。

その後、フジテレビの平井文夫上席解説委員がサイト上にアップした記事で拡散したという事態も起きた。記事は後に訂正、削除されている。フジテレビ側はBuzzFeed Newsの取材に対し、「誤った情報を配信し訂正・削除にいたったことは遺憾」などとコメントした。

さて、改めてこうして広がる疑義言説の経路をまとめると、以下のような流れになる。

  1. アメリカのネット上で疑義言説がシェアされる
  2. トランプ陣営関係者や保守系インフルエンサーが拡散する
  3. 日本のまとめサイト、新興宗教系メディア、運営元が不明の「ニュースサイト」などが日本語で掲載する(まとめサイトに関しては、ネット掲示板「5ちゃんねる」が起点になることもある)
  4. 日本の保守系インフルエンサーが拡散する(ジャーナリストや作家、政治家らが関与するケースも)
  5. 別のまとめサイトが3、4の情報を掲載し、さらに拡散する
  6. 一部の報道機関でも紹介される(フジテレビなど)


3と4は同時であったり、前後したりすることもある。日米の拡散には時差があり、すでにアメリカでは訂正されたり、ファクトチェックが済んでいる情報が日本で広まっているケースも多い。

日本のネット上でもトランプ氏を応援する人たちは多く存在する。共通するのは「バイデン氏がトランプ氏に比べ親中派である」という主張だ。

こうした人たちは、バイデン氏側による選挙不正があったというトランプ氏の主張を支持しており、「当選確実」を認めていない。情報の拡散に積極的に関与している状況も確認できる。

大量の情報拡散により、「投票率200%」のケースのようにトレンド入りすると、積極的にトランプ氏の主張を支持していない人たちにも、「バイデン氏の不正」がイメージとして共有されていくことになる。

トランプ陣営は「選挙に不正があった」として多数の州で法廷闘争にも乗り出しているが、一部ではすでに裁判所から訴えを棄却されている。選挙管理委員会の幹部らも「証拠は一切ない」とAFP通信の取材に述べている。

組織的な不正が行われており、結果が覆るという事態が起きるとは考えづらく、日本を含む各国首脳もバイデン氏と電話会談を進めている状況だ。

バイデン氏の「不正」を訴える情報は、どれもセンセーショナルで耳目を引くものが多い。安易にシェア、拡散をしないよう、注意が必要だ。

UPDATE

一部表記を加筆しました。