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「学術会議で6年働けば、学士院で死ぬまで年金250万円」は誤り。フジテレビで放送、ネットで拡散

そもそも双方は独立した組織。学士院の会員にはなるためには推薦、選考が必要であり、学術会議の所属がその資格になるわけではない。フジテレビの解説委員や国会議員が拡散した情報は、ネット上で大きく広がりを見せている。

日本学術会議の任命問題をきっかけに、「学術会議で6年働くと、日本学士院で年金250万円を死ぬまでもらえる」という情報がネット上に拡散している。

フジテレビの情報番組「バイキングMORE」におけるフジテレビ上席解説委員の平井文夫氏の発言がきっかけだが、これは「誤り」だ。

そもそも双方は独立した組織。学士院の会員にはなるためには推薦、選考が必要であり、学術会議の所属がその資格になるわけではない。本人も翌日に発言を「誤解を与えた」としている。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

拡散しているのは、フジテレビ上席解説委員の平井文夫氏が10月5日の同局系列の情報番組「バイキングMORE」で発言した以下のような内容だ。

「だって、この人たち6年ここで働いたら、そのあと学士院というところに行って、年間250万円年金もらえるんですよ。死ぬまで。みなさんの税金で。だいたい。そういうルールになっている」

ネット上では、番組のこの部分を切り取った動画が多数拡散。中には40万近く再生されているものもあり、いくつかのまとめサイトがこの言説をまとめている。

たとえば、まとめサイト「アノニマスポスト」は以下のような見出しで記事を配信した。

平井文夫氏「学者は6年学術会議で働けば学士院に行き年間250万円年金が死ぬまでもらえる。皆さんの税金から」⇒スタジオ「えっーーー!!」~ネットの反応「やっぱり『学問の自由』じゃなくて『税金にたかる自由』を侵害されたからパヨ学者共が怒ってたわけね」

また、同じくまとめサイトの「Share News Japan」や「ツイッター速報」も同様にこう伝えている。

【日本学術会議】平井文夫氏「民営化すればいい。だってこの人達6年間ここで働いたら、学士院ってところに行って、年間250万円の年金が死ぬまでもらえる。皆さんの税金から」

動画】平井文夫氏「この人達(日本学術会議会員)は6年ここで働けば学士院に行き年間250万円年金が死ぬまでもらえる。皆さんの税金から。民営化すればいい」#バイキング

国会議員も拡散したが…

しかしこれは冒頭に記した通り、誤った言説だ。平井氏本人も10月6日放送の「とくダネ!」内で「学術会議の全員が学士院会員になれると誤解を一部に与えてしまった」と述べた。

そのうえで「事実を確認させてください」とその推薦過程に触れているが、ここにも誤りが含まれていたため、この点については後述する。

また、同様の発言をしたのは平井氏だけではない。自民党の長島昭久衆院議員も「(学術会議の)OBが所属する日本学士院へ年間6億円も支出されその2/3を財源に終身年金が給付されている」などとツイート。

細野豪志議員もそれを引用する形で、「日本学術会議OBの年金のことは知らなかった」などとツイートしていた。なお、長島議員はリプライで「ミスリーディングでした」と述べており、細野議員はツイートを削除のうえ、「確認せずに発信致しましたこと、お詫び致します」と訂正している。

そもそも前提として、日本学術会議と日本学士院はそれぞれ独立した異なる組織だ。前者が「学者の国会」として政策提言などをする組織で内閣府の管轄にある一方、後者は学術上大きな功績を残した学者の顕彰を目的とした組織で、文部科学省の管轄になる。

前身は東京学士会院という組織で、初代会長は福沢諭吉。その伝統から学者の「殿堂」とも言われ、会員が選考する「学士院賞」は最も権威のある賞とも言われている。

なお、その目的は、日本学士院法には以下のように定められている。

日本学士院は、学術上功績顕著な科学者を優遇するための機関とし、この法律の定めるところにより、学術の発達に寄与するため必要な事業を行うことを目的とする。

その会員の定員は法律で150名(分野ごとに上限がある)と決められており、任期は終身。特別職の国家公務員となる。1年に1度募集をしているが、現状の会員は130人となっている。

その選考過程は?

日本学士院の事務局はBuzzFeed Newsの取材に対し、「学士院では学術会議に所属されていた先生もいますが、そうでもない先生もいます」とし、「6年働けば」などと拡散している言説を否定した。

学術会議に所属していたからといって、学士院の会員になれるわけではない。実際、その選考過程も、法律によって以下のように定められている。

学術上功績顕著な科学者のうちから、日本学士院の定めるところにより、日本学士院において選定する。

事務局によると、学士院では年に1度、推薦を官報で公示する。推薦をできる権利がある人は、以下の通りだという。

  • 学士院の現会員
  • 学術機関および学会の長
  • 学術会議の会員


こうした人たちからの推薦を受け、学士院の会員でつくられた「選考委員会」が選考をする。ノーベル賞など、国内外での受賞も判断基準にはなるというが、定められている基準はないという。

また、学術会議会員も推薦者にはなれるが、事務局の担当者は「委員の選考過程では、どこかしらに所属していたことにより優遇されることはありません」と明言した。

この推薦過程について、平井氏は10月6日の「とくダネ!」で自らの発言が「誤解を与えた」とした際、「事実を確認させてください」として「学術会議の会員は学士院の会員に推薦されますが、ならない人もいますし、学術会議以外の人も学士院会員になる道はあります」とも述べている。

しかし、上記の通り学術会議の会員であれば「推薦」できるが、それによって無条件に「推薦される」わけではない。これも「誤り」であると言えるだろう。

最年少会員はあの人

学士院に関してはこれまでもノーベル賞受賞者など大きな功績を残した学者が会員になっており、最近では2012年にノーベル医学・生理学賞を受賞した京都大の山中伸弥教授が最年少の会員になったことで注目を集めていた。

また、現在も学術会議の会員で、かつ学士院の会員である人物は、2015年にノーベル物理学賞を受賞した東京大卓越教授の梶田隆章氏(学術会議会長)だけだという。

なお、学士院の会員に250万円の年金が出るのは事実だが、役職にある場合は異なる。

院長は280万円、幹事は270万円、2名いる部長は260万円。年齢によって制限があるわけではなく、会員になって以降、この年金を受け取ることができる。

これは「顕彰」を目的とした年金であり、担当者は「文化功労者の方への年金と近いもの」と指摘した。ただし、会員には、月1回の会合や式典への出席などへの参加が求められており、その点が文化功労者との違いという。

2020年度予算では、日本学士院予算6億1920万円のうち、約6割にあたる3億7570万円が会員の年金に計上されている。

番組中で謝罪と訂正

10月6日の「バイキングMORE」の最後で、平井氏の発言についての「補足と訂正」があった。

平井氏は出演していなかったが、伊藤利尋アナウンサーがその発言について、「誤った印象を与えるものになりました」と指摘。

そのうえで、正確には「学術会議の会員は推薦される方もいますが、全員が学士院のなるわけではありません。学術会議以外の方が学士院の方になることもあります」として、「大変失礼いたしました」と謝罪した。

なお、フジテレビ広報は番組終了後、BuzzFeed Newsに対し「本日のバイキングMOREでお伝えした通りです」と、FAXで回答した。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知し、そのレポートを参考にしました。

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  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
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  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
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