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ワクチンめぐり広がる「陰謀論」専門家が「これからが正念場」と警鐘を鳴らす理由

新型コロナワクチンを「大量破壊兵器」と否定したり、コロナそのものが「詐欺」であると訴えたりする「陰謀論」。その危険性や、問題点はどこにあるのか。専門家に話を聞いた。

新型コロナウイルスやワクチンを否定するような「陰謀論」が、世界的に大きな問題となっている。

誤情報や陰謀論を含む大量の情報が広がる「インフォデミック」という言葉も、感染爆発を意味する「パンデミック」とともに注目されるようになった。

医療現場からは、ワクチン接種への影響を懸念する声もあがっている。上下連載の後編では、専門家の見方を紹介する。

5月下旬、アメリカの公共宗教研究所(PRRI)は、全国世論調査に基づき、ある衝撃的な推定データを公表した。

「アメリカ政府、メディア、金融界は、児童の性的人身売買を世界的に実行する悪魔崇拝の小児性愛者のグループによって制御されている」という主張を、アメリカ人の15%が信じているというものだ。

アメリカの人口は約3億3000万人であるため、単純計算で約5000万人近くということになる。

これは、アメリカの極右勢力が支持する陰謀論者「Qアノン」の主張の一つだ。こうした闇のグループ「ディープステート」からトランプ氏が世界を救うという言説は、昨年の大統領選をめぐり大きく広がった。

また、「コロナワクチンに監視のためのマイクロチップが含まれている」と信じている人は9%にのぼるという。これも、人口換算すると約3000万人になる。

なお、このマイクロチップに関する言説を信じる人の割合は、「Qアノン」の主張をすべて信じている人の場合は、39%に跳ね上がる。

つまり、ある陰謀論を信じやすい人は、別の陰謀論も信じやすいという相関性があることが示唆されている。

求められる「情報疫学者」による対策

医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に5月に掲載された論文は、コロナやワクチンに関する陰謀論を信じてしまった人たちは「予防行動をとる可能性が低く、接種の意欲が低下する」と警鐘を鳴らした。

「嘘は正確な情報よりも速く拡散する傾向がある」「ソーシャルメディア上では圧倒的な量の誤情報や偽情報が流通している」と危険性を訴え、「リアルタイムの監視」「正確な診断」「迅速な対応」という3つの要素が重要であるとしている。

論文によると、アメリカでは「Infodemiologist」(インフォデミオロジスト=情報疫学者)という専門職による対策が取られており、情報に関する「予防接種」を実施している。

たとえば、著名人がワクチン接種後に死亡したようなケースを考えてみよう。

ワクチンに反対する人たちは、この「偶然の死」をワクチン接種によるものとして発信するかもしれない――。「インフォデミオロジスト」は事前にそう予測を立て、防衛策を講じる。

そして、情報が拡散されそうなコミュニティに向けて、実際に接種した医師による体験談などを発信。読者に安心感を与えることで、あらかじめ誤情報の芽をつみとるのだ。

さらに効果的な対策のためには、「ソーシャルメディアのアルゴリズムの透明性の強化、コミュニティレベルの規範の強化など、社会のあらゆるレベルで相互に補強する介入が必要」とも指摘している。

もし「空気」が広がれば…

「誤った情報は、命を奪うことにもつながるんです」

そうBuzzFeed Newsの取材に語るのは、がん治療の専門家で日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之医師。SNS上で「インフォデミック」について、たびたび警鐘を鳴らしてきた。

「日本では、がん医療をめぐりインフォデミックが起きたことがありました。患者さんたちが抗がん剤に関する陰謀論を信じてしまい、いまだに拒否する方もいます。救えるはずの命が救えなくなってしまった」

「それと同じことが、新型コロナワクチンをめぐって起きるのではないかと危惧しています。日本はほとんどそれに対して、手を打っていない。医療の情報発信については非常に遅れている」

勝俣医師は「アメリカのインフォデミオロジストのような人材が、公的機関やメディアにも必要なのではないでしょうか」と語る。

前述の論文によれば、「情報疫学者」がコミュニケーションをとる主な相手は、陰謀論を強固に信じている人ではなく、「誤った情報に影響されやすく、ワクチン接種を躊躇している人たち」だ。

前者の人たちのように、「固定的な信念を持つ人々は簡単に説得できない」ことが理由だという。勝俣医師はいう。

「陰謀論を信じ、デモを主宰しているようなコアな人たちはどうしようもありません。大切なのは、その周りにいる人たちが影響を受け、ワクチンに否定的な『空気』が広がって、最終的に政策に影響が及んでしまうような事態を防ぐことです」

専門家が懸念する「ブレーキ」

現状はどうなのか。読売新聞の6月4〜6日の世論調査では「すぐ受けたい」「急がないが受けたい」があわせて77%だった一方で、「受けたくない」は8%だった。

毎日新聞と社会調査研究センターが5月22日に実施した世論調査では、「すぐに接種する」と答えた人が6割以上いたものの、「急がずに様子を見る」も28%(前月は33%)と3割近くに達した。「接種は受けない」と答えた人は6%で、1ヶ月の間に2ポイント増えている。

朝日新聞の5月15〜16日の世論調査では「すぐに受けたい」が47%と低めで、「しばらく様子を見たい」が40%、「受けたくない」が6%だった。

決して、楽観視できる状況ではない。勝俣医師の指摘するような「周りにいる人たち」への対策が重要であることは明らかだ。

「日本ではHPVワクチンに反対する報道が続いた結果、厚労省も積極的勧奨を中止し、救える命が奪われるということが起きています。この二の舞いにならないようにしないといけない」

新型コロナワクチンによって得られる予防効果などの「利益」は、副反応などの「リスク」を上回るとされている。接種は強制ではないが、HPVワクチンの時のように、誤情報やセンセーショナルな報道に依拠した「拒否」の拡大が、全体のブレーキになる事態は避けなければいけない。

河野太郎担当相はBuzzFeed Newsの単独インタビューに、「デマへの対応は非常に大事」「若い世代の人々の接種を後押しするためにはネットでの発信が重要」と指摘した。勝俣医師も、同様の問題意識を持っている。

「メディアには少数例をセンセーショナルに報じるのではなく、エビデンスに基づいた報道をしてほしいですし、公的機関の正確な情報発信にも力を入れてもらいたい。日本のインフォデミックは、ワクチン接種が増えていくこれからが正念場です」


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