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オーストラリア火災「環境活動家が放火」「200人が逮捕」世界で拡散する情報に注意

前代未聞とされる規模の森林火災が発生しているオーストラリア。被害の実情を訴える投稿が相次いだ。「逮捕された98人が環境活動家」という情報が拡散している。

オーストラリアで続く大規模な火災をめぐり、日本を含む世界のSNSで「環境活動家が放火した」という根拠のない情報が拡散している。

また、逮捕された環境活動家が「大人31人、子供67人」ともされているが、これも根拠のない情報だ。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

オーストラリアでは2019年9月ごろから各地で森林火災が発生している。BBCなどによると「高温と乾燥した気候」により200件以上の火災が起きる、「前代未聞の事態」が続いているという。

これまでに1200軒以上の家屋が被害を受けたほか、数百万ヘクタールが焼け野原になったとされている。

また、オーストラリアの環境保護団体「The North East Forest Alliance」によると、この火災の影響で、2000匹以上のコアラが死に、北部海岸エリアにおけるコアラの生息地の約30%が焼失したという。

オーストラリアの山火事が気候変動によって深刻化しているとの認識は、同国の気象局も示している見解だ。

同局は「気候変動は、オーストラリアや世界の他の地域における山火事の頻度と深刻度に影響を与えています」と指摘している。

オーストラリアでは毎年山火事が起きているが、今年は観測史上最高の平均気温や記録的な干ばつの影響で、深刻さを増しているという。

日本とアメリカで拡散した情報

日本のツイッターで1月8日から広がっているのは、以下のような書き込みだ。

「オーストラリアの山火事をおこした大人31人、子供67人が逮捕されました。逮捕された人達は、気候変動活動をしているメンバーでした」

ツイートは1万近く「いいね」され、「最低」「ドン引き」などの言葉などに加え、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんを揶揄するリプライなども集まっているいる。

これは、アメリカ人男性の以下ツイートを引用したもの。元の文章は何かの記事を引用したかのような体になっているが、根拠は一切示されていない。

"Australian authorities have reportedly arrested 98 people – 31 adults and 67 juveniles – for deliberately setting over 100 fires. These people are affiliated with a local Climate Change activist group"

「オーストラリア当局は大人31人と少年67人の計98人を、100カ所以上の放火容疑で逮捕した。これらの人々は、地元の気候変動活動団体に加入していた」

いったい、どういうことなのか。

放火が起きているのは事実

オーストラリアで、火を起こしたことによる法的措置を受けた人がいるのは事実だ。

前提として、オーストラリアでは森林火災を防ぐため、気象条件等によって、地域ごとに屋外での全面火気禁止令が発令されることがある。発令中は、たき火や、固形燃料や木炭などによる屋外でのバーベキューもすべて禁止される。

特に火災の被害が激しいニューサウスウエールズ州の場合、違反すれば、その場で警告を受けた場合は2200ドルの罰金。起訴された場合は最高5500ドルの罰金か、最長12カ月の禁固刑となる。

ニューサウスウェールズ州の警察当局の1月6日の発表では、2019年11月8日以降、205件の山火事関連の罪で、40人の少年を含む183人に対して法的措置(警告から起訴まで)が行われたという。内訳は以下の通りだ。

・24人:故意に火を点けたとされる

・53人:火気禁止の遵守を怠ったとされる

・47人:火のついたタバコまたはマッチを廃棄したとされる

また、BuzzFeed Newsの取材(1月6日)に応じた各当局の集計は以下の通りだ。

・クイーンズランド州警察(2019年9月10日〜):109人(火気禁止令違反など、意図的な放火以外のものも含まれる。内訳は不明)を起訴。なお、12月20日のAAP通信による報道では、9月以降大人31人と少年67人の98人に対し、警察が対応した、とされている。

・ビクトリア州の犯罪統計局(2018年10月〜19年9月 *山火事のシーズンではないことに留意が必要):12人が逮捕または出頭命令

・南オーストラリア警察(2019年9月1日〜):10人を起訴

・タスマニア警察(2019年7月1日〜):「不法に植生に火をつけた」2人と「放火した」5人を起訴

「逮捕された98人が環境活動家」は本当か

先出のツイートにある「98人(大人31人、子供67人)」という数字は、12月20日にAAP通信が報じたクイーンズランド州警察の数値と重なる。

ただし、AAP通信の報道では、103の火災について98人が対処されたとされており、「逮捕」とは明言されていない。BuzzFeed Newsの取材を総合しても、「98人が逮捕」とする根拠はない。

では、この98人が「環境活動家」(local Climate Change activist group)だという情報はどうか。なお、「local Climate Change activist group」という言葉は、この男性のツイート以前には見つからない。ニュースソースも同様だ。

AAP通信の報道では、プロフィルに関しては起訴された14〜15歳の少年2人や少年法で対処された16歳の少年の関与が明かされているのみで、それ以上の情報は書かれていない。

また、ほかの州における放火に関しても、法的措置を受けた人のプロファイルは明らかになっていない。

ニューサウスウェールズ州の報道によると、19歳のボランティア消防士が逮捕されたほか、33歳の男が車などを破壊したり、火をつけたりして逮捕されている。

また、お茶を飲むためだったり、バーベキューをしていたり、子ども同士でトーチに火をつけたりといった、前述の屋外での火気禁止令違反とみられるケースも、そうした法的措置の中に含まれていることがわかる。

いずれにせよ、「環境活動家」という言葉は一切見当たらない。これも、根拠がないと言えるだろう。

なお、アメリカでは「環境活動家による放火」というものに加え、「イスラム教徒がISISの命令に従って放火をしている」「高速鉄道の線路を確保するために放火された」などという無根拠な情報が飛び交っているという。

世界で拡散する「逮捕者200人」

なお、逮捕者をめぐっては「200人近くが放火によって逮捕された」という情報も同様に世界中に拡散している。

これは先出のニューサウスウェールズ州の発表「183人」が曲解されて拡散されたものとみられている。

アメリカのファクトチェックサイト「Snopes」によると、「気候変動否定論」を広める陰謀サイトなどが、こうした情報を拡散しているという。

The Guardian」によると、ビクトリア州警察はこうした情報の広がりに反論。「州の壊滅的な山火事のどれもが放火によって引き起こされたという証拠はない」と述べている。

この火災をめぐっては日本国内でも同様の情報のほか、過去の写真や誤った情報がSNSで多々広がっている。注意が必要だ。


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