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自民・甘利氏「消費増税に関する報道はミスリード」と公開のやりとり→存在せず。少子化対策めぐる発言で“根拠不明“の批判

問題となっているのは、甘利氏が出演したBSテレビ東京の「日経ニュースプラス9」における発言。岸田文雄首相が年頭に述べた「異次元の少子化対策」の財源論をめぐり、消費税の「引き上げ」に関する議論の必要性に言及した点だ。

自民党の甘利明・前幹事長(党税制調査会幹部)が、少子化対策について「消費税の引き上げ」の議論の必要性に言及したと報じられたことをめぐり、甘利氏が「ミスリード」と批判している。

出演したBS番組における発言の「真意を伝えず断片的事実を繋ぎ合わせ」られたとしており、自ら司会者とのやりとりの「要旨」を掲載。地元紙・神奈川新聞のインタビューでも同様に反論した。

しかし、実際に放送された番組の内容を確認しても、甘利氏が示したようなやりとりは見つからない。

テレビ局側はBuzzFeed Newsの取材に「放送した内容が全て」としており、甘利氏の反論ツイートは根拠不明だ。BuzzFeed Newsは、ファクトチェックを実施した。

問題となっているのは、2023年1月5日夜に甘利氏が出演したBSテレビ東京の「日経ニュースプラス9」における発言。

岸田文雄首相が年頭に述べた「異次元の少子化対策」の財源論をめぐり、消費税の増税に関する議論の必要性に言及した点だ。

自民党内部や政府からも否定されるなど大きな反響を呼んだ。メディア各社は以下のように報じている。


  • 「少子化対策の財源 自民 甘利氏 消費税増税も検討対象」(テレビ東京)
  • 「自民 甘利氏“少子化対策の財源 消費税率引き上げも検討対象”」(NHK)
  • 「甘利氏、少子化対策で消費増税も 自民税調幹部」(共同通信)
  • 「少子化対策 甘利氏、財源に消費増税言及」(産経新聞)
  • 「甘利・前自民幹事長:少子化対策で消費増税も 甘利氏、将来の議論に含み」(毎日新聞)

いずれも、甘利氏が「子育ては全国民に関わり、幅広く支えていく体制を取らなければならず、将来の消費税も含めて少し地に足をつけた議論をしなければならない」(NHKより)と語ったとする報道がほとんどだ。

こうした一連の報道に対し、甘利氏は1月7日に以下のように「ミスリード」であるとツイート。番組内容を一部抜粋した公式YouTube動画とともに、自ら司会者とのやりとりの「要旨」をツイートした。

テレビ出演の際の消費税に関する件ですが、要旨は以下の通りであり、真意を伝えず断片的事実を繋ぎ合わせる報道はミスリードです。

司会「総理が異次元の少子化対策を明言しましたが財源は消費税でやるんですか?」

甘利「いや総理は消費税をひき上げる積もりはないと思います」

司会「ならどうするんですか」

甘利「色々やりくりをして行くんでしょう」

司会「将来に渡って消費税は上げないんですか」

甘利「将来消費税を引き上げる必要が生じた時には増税分は優先的に少子化対策に向けるべきとは思います」

なお、甘利氏は地元紙の神奈川新聞(1月17日付)のインタビューでも、以下(一部抜粋)のように、ツイートと同様のことを語っている。

「消費税を上げて少子化対策に回すとは一言も言っていない。総理は消費税を上げるつもりはないと思う、と私は(番組で)答えている」

「どうしても上げなければならないという事態が生じたときには、という前提条件で発言した。財源についてはしっかり地に足を着けて議論をすべきで、むしろ、安易に増税を語るなと言ったつもりだ」

「要旨」のやりとりは確認できず

この「ミスリード」という批判と「要旨」は、一部メディアでも取り上げられた。しかし、甘利氏が貼り付けたYouTube内ではそもそも確認することができない。

では、実際の発言はどうだったのか。BuzzFeed Newsは改めて番組のアーカイブ配信全編を確認。

甘利氏の示した「要旨」には、甘利氏や司会者が発言していない内容が記されていたことがわかった。

Twitter上では同様に「番組動画の中には見当たりません」(元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士)との指摘もあがっている。

該当部分の文字起こしは以下の通り(消費税への言及は下線


甘利氏:児童手当をですね。増やしていくっていう議論は、昨年の暮れもありました。いろんな対策がですね。ワンショットでやる時にはどうでもできるんですけども、恒常的にやるためにはですね、やっぱり財源をちゃんと手当てしなきゃいけないんですね。

去年の暮れの防衛費の論議の時にですね、いわゆるその、子育てに関係してる議員さんから電話があってですね。ついでにこれもやってよみたいな電話がいっぱいかかってきましたけどね、そんな増税ってそんな簡単に決められないもんですから。

しっかり議論をしてですね、総理が異次元の対応するんだということが例えば児童手当であるならばですね、これはしっかり議論してですね、財源論まで繋げていかなきゃいけないと。

本当はその、消費税ってのは世界で1番日本は低いですけども、将来ですよ、上げていく機会があるとしたら、社会保障4経費の4番目(*編注:子育て)により重点を置いていくっていうことを考えていかなきゃいけないんじゃないかな、というふうには思います。

司会者:という財源の話に差し掛かったところで(中略、ほかのゲスト2人に言及)財源なんですが、甘利さん、防衛費はある意味長期的に倍増がほぼ決まったということですよね。 年末の税調で決まったことっていうのは、とりあえず、当面の5年間の帳尻を合わせるところまでだけだったという印象があります。もうひとつ、やはり子育て予算ですね。昨年から倍増倍増と言っています。支出のほうですね。これについての財源についてもまだ先送り状態です。 今後、10年先ぐらいまでをにらんだ財源の手当てってのどういう方向で議論進んでいくんですか。

甘利氏:防衛費についてはですね、財源は確定をしています。要するに、あとはいつから始めるかはいだけなんですね。もちろん法人税の税額に上乗せをする数字が4か4.5かっていう議論はありますけども。それ以外はいつから実施するかっていうことなんですね。

今年の税調はですね、年末の季節労働税調みたいんじゃなくて、通年税調で早くから根本的な議論をしようということになっていますから。そこで防衛費の税の議論は終結をすると思います。

ただ、子育てに関するものはですね、もっとその長期的にですね、どういう財源を求めていくか。すぐ法人税に上乗せしろっていうのは、言うのは簡単ですけど、なんでもかんでも法人税あげればいいっていうことじゃないですから。

これは、子育てってのは全国民が関わることですからですね。幅広く支えていく体制を取らなきゃなんない。消費税も、将来の消費税も含めてですね、これは少し地に足をつけた議論をしていかなきゃなんないと思ってます。


確認できなかったポイントは…

まず、甘利氏が示した「要旨」の末尾にある「将来消費税を引き上げる必要が生じた時には増税分は優先的に少子化対策に向けるべきとは思います」については、以下のように述べている。

「消費税は世界で1番、日本は低いですけども、将来ですよ、上げていく機会があるとしたら、社会保障4経費の4番目(*編注:子育て)により重点を置いていくっていうことを考えていかなきゃいけない」

一方で、「総理が異次元の少子化対策を明言しましたが財源は消費税でやるんですか?」という司会者の発言は確認できず、甘利氏が自ら消費税の話を切り出していることがわかる。

同じく「要旨」にある「ならどうするんですか」「将来に渡って消費税は上げないんですか」という司会者の質問や、甘利氏の「色々やりくりして行くんでしょう」というような発言もなかった。

また、「要旨」や神奈川新聞のインタビューでも言及している「総理は消費税をひき上げる積もりはない」という発言は、番組を通じて確認できなかった。

さらに、多く報道されている「子育ては全国民に関わり、幅広く支える体制を取らなければならない。将来の消費税も含め、地に足をつけた議論をしなければならない」の部分については、自ら明言していた。

BSテレ東側は「放送した内容がすべて」

それでは、配信されている内容以外に、司会者と甘利氏の間にやりとりがあったのか。

BuzzFeed NewsはBSテレ東に取材した。番組担当者に

(1)司会者と甘利氏の間で、実際にこのようなやりとりはあったのか

(2)カットされていたり、放送されていない部分だったりする可能性もあるのか

などを尋ねると、以下のような回答があった。

「放送した内容がすべてとなります。放送内容はすべて配信していますので、そちらをご確認ください。なお、制作過程についてはお答えしていません」

こうしたことから、甘利氏が「少子化対策のために消費増税の議論に言及した」とする報道をめぐり、

(1)「断片的事実を繋ぎ合わせ」たミスリーディングなものだと報道を批判する根拠として自らツイートした司会者とのやりとり

(2)ツイートと神奈川新聞のインタビューで言及した「総理は消費税をひき上げる積もりはない」という発言

は少なくとも放送された番組上では、その存在を確認できない「根拠不明」なものであると言えるだろう。

BuzzFeed Newsは甘利氏の事務所にも1月16日午前に質問状を送付した。20日午前11時現在、回答はない。コメントがあり次第、追記する。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

訂正

当初の記事に郷原信郎弁護士のお名前の誤りがありました。お詫びして訂正いたします。