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「男女共同参画予算9兆円、防衛費に回せば増税しなくてOK」拡散した情報はミスリード。10兆円の年も、実際の使い道は?

防衛費増額の議論をめぐり「削減」できる予算として拡散されているのは、内閣府男女共同参画局が公表している「男女共同参画推進関係予算」の総額だ。総額はここ数年は8〜9兆円で推移しており、10兆円を超える年もある。

防衛費をめぐる増税議論に関連し、ネット上で「男女共同参画に関する予算に9兆円」などという情報が拡散している。

「8兆円」「10兆円」のパターンもあり、削減をすれば増税の必要がないというものだが、これはミスリードだ。

「男女共同参画」に関する予算は、全省庁の関連予算をひとつの指標として集計されたものであり、単体で計上されているわけではない。

実際は、介護や育児、教育、障害者福祉、年金支援などさまざまな社会保障の予算が組み込まれているために数兆円規模になっており、防衛費全体との単純比較ができる性質のものと異なる。

数年前からたびたび拡散しているタイプの言説で、注意が必要だ。BuzzFeed Newsは、ファクトチェックを実施した。

Twitterで拡散しているのは、以下のような言説だ。

多くは「男女共同参画」の予算に膨大な金額がつぎ込まれており、削減すれば防衛費をめぐる増税の必要はない、という趣旨のもの。「左翼活動家」「謎の団体」に使われてるとするものもみられる。

《一部左翼活動家に流れているのでは?と疑問視される男女共同参画予算9兆円(中略)の一部を国防費に回せば、増税などしなくて済むでしょうと言ってるだけ》(12月14日、5000リツイート、1.9万いいね)

《男女共同参画予算が9兆円もあるけど左翼活動家が群がってまともに使われてないよね?この予算の一部を防衛費に回せば増税しなくてもOKなんだよ?》(12月8日、3500リツイート、1万いいね)

《今や9兆円もの税金が「男女協働参画」男女平等の美名の元に謎の団体活動に垂れ流されてる》(12月9日、2000リツイート、4000いいね)

《毎年8~9兆円かけて、日本経済にブレーキをかけてきた政策》(12月8日、2000リツイート、4500いいね)

《男女共同参画ナンチャラに使われる9兆円をそのまま防衛費に当ててもいい》(12月9日、1200リツイート、4400いいね)

しかし、こうした言説はいずれも「ミスリード」だ。そもそも、これらの数字のソースになっているのは、内閣府男女共同参画局が公表している「男女共同参画推進関係予算」の総額だ。

前述の通り、これは内閣府の男女共同参画局が、この単位の独立した予算を計上しているというわけではない。

各省庁の予算のうち、「男女共同参画」に関係する予算をひとつの指標としてまとめたもので、社会保障などを含むさまざまな種類のものが含まれている。

その総額はここ数年は8〜9兆円で推移しており、10兆円を超える年もあることから、ネット上で「男女共同参画予算」が一人歩きをし、5兆円台で推移している防衛費と単純比較されるようになった。

「10兆円」の内訳は…?

拡散している情報について、同局の担当者は、BuzzFeed Newsの取材に「誤解、勘違いされている部分があるかもしれない」と指摘した上で、こう説明した。

「8兆円、9兆円と言われている数字は男女共同参画局単体の予算ということではなく、全省庁のいろいろな施策をピックアップして集計しているものになります。児童手当や介護など、社会保障のために使われている予算も大きく、防衛予算のようなものとは違う性質です」

では、実際に内訳はどうなっているのか見てみよう。内容が細かく公表されている令和2年度の「男女共同参画推進関係予算」(10兆4637億円)の内訳を見ると、さまざまな予算が含まれていることがわかる。

金額が大きいものは以下の通りだ。この総額は約9兆7100億円と全体の92%を占めている。

  • 介護給付費国庫負担金等(3兆342億円)
  • 子どものための教育・保育給付など(1兆4743億円)
  • 児童手当制度(1兆3261億円)
  • 良質な障害福祉サービスの確保(約1兆2422億円)
  • 日本学生支援機構の大学等奨学金事業の充実(7525億円*)
  • 年金生活者支援給付金(4908億円)
  • 高等教育の修学支援新制度(4881億円)
  • 企業主導型保育事業(2269億円)
  • 地域支援事業(1972億円)
  • 母子家庭等対策費( 1755億円)
  • 児童入所施設措置費等(1354億円)
  • 中小企業最低賃金引上げ支援対策費(1377億円)
  • 非正規雇用の労働者のキャリアアップ事業( 1231億円)


金額が1兆円を超えるものは、介護給付の国庫負担金、児童手当、子どもの教育・保育支援、障害福祉サービスなどの関連予算だった。

一方、1000億円を超えるものは、大学等奨学金(*一般会計、特別会計分の合計)、年金生活者支援、高校無償化、企業型保育、高齢者の地域支援、母子家庭支援、児童養護施設、中小企業の最低賃金対策、非正規雇用支援などの関連予算。

どれも多くの人の暮らしに関係するものだが、結果として各省庁によって「男女共同参画に資するもの」とされていることになる。

なお、防衛省の予算もある。令和2年度予算においては、女性専用の更衣室や仮眠室などの整備に19億円。庁内託児施設整備に3億5600万円、自衛艦の妊婦服など整備に3億5230万円だった。

こうした内訳は令和3年度以降、基本計画が新しくなり「大まかな項目に紹介の仕方が変わった」(担当者)ためまとめての公表となったが、各省の施策は継続されており、内容に大きな変化はないという。

なお、内閣府男女共同参画局の単体の予算は、令和3年度は約10億円、令和4年度は約15億円。主に性暴力のワンストップ支援センターや民間シェルターのほか、「生理の貧困」などの支援策に充てられるという。

15年以上前から拡散

今回拡散したような言説は過去から、たびたび広がっている。

10年以上前には「男女共同参画に10兆円」という言説が大きく広がったことがあった。2005年には、そうしたタイトルの書籍も発売されている。

これは、2005年度の「男女共同参画推進関係予算」が10兆円を超えていたためだとみられる。この時の予算には上記表のように、介護給付費の国庫負担に加え、厚生年金や国民年金の国庫負担(6兆円以上)が含まれていた。

「8兆円」のパターンは2019年ごろから広がりを見せている。2020年には、東京都知事選に立候補した元在特会会長で「日本第一党」の桜井誠氏が「1年間に8兆3千億円もの予算を使っています。日本の国防費より高い値段も使って一体何やってるのか」などと訴えたこともある。

当時もネット上に「異常」「使途不明」などという否定的な言説が多数拡散しており、BuzzFeed Newsはファクトチェック記事を配信している。ミスリーディングな情報には注意が必要だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。