• factcheckjp badge
  • electionjp badge
2019年7月19日

安倍首相の答弁動画「富裕層の税金を上げるなんて馬鹿げた政策」→誤り 編集され拡散、740万再生に

安倍首相が「富裕層の税金を上げるなんてばかげた政策」と答弁した、という動画が参院選を前にして拡散している。共産党の小池晃書記局長と安倍晋三首相のやりとりを切り取った動画だ。

安倍首相が「富裕層の税金を上げるなんて馬鹿げた政策」と答弁した、という内容のタイトルと字幕がついた動画が、参院選を前に拡散している。再生回数は740万回を超えている。

結論から言うと、この動画は大きく編集されており、内容としては誤りといえる。

動画のもととなったのは、6月10日の国会論戦だ。BuzzFeed Newsでは、この日の議事録と動画を比較して検証し、この動画のファクトチェックを実施した。

【年金破綻の正体】 GPIFが株で儲けた金は何処へ行ったのか❓ 共産党 小池晃議員 「庶民が払う消費税を上げるのではなく内部留保金400兆円もある大企業の法人税を上げて財源を作るべきだ」 自民党 安倍首相 「富裕層の税金を上げるなんて馬鹿げた政策だ」 2019年6月10日 参議院決算委員会 #kokkai #NHK

動画には「安倍首相『富裕層の税金を上げるなんて馬鹿げた政策』」というタイトルがつけられている。

動画のやりとりを見ると、共産党の小池晃書記局長が、年金財源として大企業に中小企業なみの法人税負担を求め、所得税の最高税率をあげるべきだと提案する。次の瞬間、安倍首相が「それはまったく馬鹿げた政策」と一蹴している。

しかし、この日の参議院決算委員会の議事録(この記事の末尾に関係部分を全文掲載)をみると、この2人の発言の間には省略されている部分があり、動画が編集されていることが分かる。

議事録では、安倍首相はまず、年金財源として大企業や富裕層への増税を行うという小池書記局長の提案に対し、「信憑性がない」「日本の経済自体が相当のダメージを受ける」「マイナス成長になるかもしれない」と否定的な発言をしている。

そのうえで、年金の増減幅を物価や賃金上昇率などで変えるマクロ経済スライドを「やめるべき」という提案への回答に移り、以下のように述べている。

「それをやめてしまうというのは極めて無責任であり、また、将来世代の皆さんにとってこれは不安をかき立てるものになるわけでありまして、それは全く馬鹿げたこれは政策なんだろうと、こう言わざるを得ない。間違った政策だと思いますよ、それは」

党首討論でも言及が

時事通信

安倍晋三首相(中央右)との党首討論に臨む共産党の志位和夫委員長

また、6月19日の党首討論で、共産党の志位和夫委員長は、こう発言した。

「先日の参院決算委員会で、我が党の小池晃議員がマクロ経済スライドはやめるべきだと求めたのに対し、総理は、年金は給付と負担のバランスで成り立っている、やめてしまうというのは無責任で馬鹿げた政策と言いました」

「しかし、今でさえ老後の生活を支えられない貧しい年金を、マクロ経済スライドを続けて更に貧しい年金にしてしまうことこそ、私は無責任で馬鹿げた政策と言わなければなりません」

一方、安倍首相はこう述べた。

「共産党の主張は、マクロ経済スライドを廃止して、その上で、なおかつ将来の受給者の給付が減らないようにする上においては、これは7兆円の財源が必要でございます。皆さんはその財源がある、こうおっしゃっています。7兆円というのは巨大な財源であります。巨大な財源があるというのは、これはかつて聞いたことがあるような話でございますが、それはそう簡単には出てこないわけでございます」

「マクロ経済スライドをやめてしまうという考え方は、もう一度申し上げますが、これは馬鹿げた案だと思います」

こうしたやりとりから、動画にある「馬鹿げた政策」という首相の言葉は、「マクロ経済スライドをやめるべき」という提案に対して掛かっていると読み取るのが自然だ。

動画が与える印象は、これとは異なるうえ、「富裕層の税金を上げるなんて馬鹿げた政策」というタイトルが付けられているため、「誤り」と判断した。

選挙前に広がり、演説でも

時事通信

この動画は6月10日にTwitterにアップされ、拡散した。

さらに共産党の機関紙「しんぶん赤旗」、東京新聞(ウェブ掲載なし)や日刊ゲンダイなども、動画のことを取り上げた。

選挙が近づいた7月には、まとめサイト「情報速報ドットコム」や共産党の公式アカウントなどが改めて動画を複数回にわたって紹介したことで、再び広がりを見せた。

7月だけでも250万ほど再生回数が伸びており、累計再生回数は740万回(7月19日現在)を超えるほどの勢いだ。

Twitterには、この動画の検証動画もアップされているが、再生回数は10万回(同日現在)で、その勢いは元の動画に及んでいない。

また、「安倍首相が富裕層への増税は馬鹿げた政策だと言っている」という言説も同時に広がり、拡散している。

BuzzFeed Newsは動画をアップしたアカウントに取材を申し込んでいるが、7月19日現在、返答はない。

共産党は「首相の言葉は両方にかかっている」

時事通信

「しんぶん赤旗」は7月14日、参院比例区に立候補した小池書記局長の演説内容として、以下のように報じた

富裕層・大企業の応分の負担による財源確保を提案した小池氏に対し、安倍晋三首相が“ばかげた政策”と述べた国会質問のインターネット動画再生が700万回を超えたことを紹介し、「みんな怒っている。こんな景気が悪いときに消費税増税することこそ最も『ばかげている』」と批判しました。

共産党中央委員会広報部はBuzzFeed Newsの取材に対し、安倍首相の「馬鹿げた政策」という答弁は「大企業・富裕層への増税」「マクロ経済スライドを廃止する」の「両方にかかっているもの」だという認識を示し、以下のように回答した。

「減らない年金にするために、マクロ経済スライドを廃止し、その財源のために大企業や富裕層への税金をあげることで財源をつくるという小池書記局長の提案に対し、安倍首相が『馬鹿げた政策』と言っていると認識しています」

6月10日の国会議事録は以下の通り。

時事通信

安倍首相と小池書記局長(写真は2018年)

※太字が動画で使われた部分。下線部は安倍首相が「大企業・富裕層の増税」に言及した部分。斜体字は小池書記局長が「マクロ経済スライド」に言及した部分。動画はこちら


小池晃書記局長:総理の考えている百年安心というのは、年金制度さえもてば国民の暮らしはどうなってもいいということですよ、結局ね。これだけ年金の暮らしで赤字が出ているけれども、それに対して何の手も打とうとしない。

共産党はどうするんだと言われました。私たちは、低過ぎる年金、政府のように低い年金には低い底上げしかしない、こんなやり方ではなくて、低年金には全てこれは底上げをしようではないか、そして、今やろうとしているこのマクロ経済スライドは直ちに止めろというふうに言っております。大企業やあるいは富裕層に対する行き過ぎた減税を見直すということで財源を示すということもやっておりますから、ちゃんとホームページ見てください。

もう時間ないからできないけれども、総理、そういう形で言うのはけしからぬですよ。私たちは、今度のこの年金の問題についていえば、やはりこのマクロ経済スライドを止めるべきだと思います。

こんな形でやったら、将来世代の安定のためだと言うけれども、私、今言いましたように、こんなことをやっていったらどうなるか。結局、今、結局これは赤字が出る、2000万円、2000万円赤字が出るというふうに言ってきた。これが、今の40歳以下の方でいえば、更に1600万円増えていくわけですよ、この差額が。それがマクロ経済スライドなんですよ。

何かマクロ経済スライドをやるとあたかも今後年金が増えるかのようにおっしゃるけれども、全く違いますよ。年金水準下がっていくわけですよ、今よりも。そうすれば、ますます年金生活者の暮らしは大変になるじゃないですか。

それと同時に、今実際に年金暮らしをしている方たちの、これだけの、月5万5000円、この差額が、これどうするんですか。何にも手だて打っていないじゃないですか。これだけのことを明らかにしておきながら、こういう低年金の人たちの暮らしに対して何の手も打っていない。これでいいんですか。だから、私たちはこれをしっかり底上げしようではないかと言っている。

財源も、法人税について、大企業にせめて中小企業並みの基準で法人税の負担を求めれば、これ4兆円出てまいります。それから、株で大変なもうけを上げている富裕層の皆さんに平等に所得税を払ってもらう、そして所得税の最高税率を上げていく。これで3兆円の財源出てまいります。

こういった財源を私ども示して、年金の底上げをやろうじゃないかということを提案していますから、そんないいかげんなことを言わないでいただきたい。

安倍晋三首相:ただいまの財源については、それは全く私は信憑性がはっきり言ってないと思いますね、全然、それは。

日本の経済自体が相当のダメージを私ははっきり言って受けると思います。言わば、経済は成長どころかマイナス成長になるかもしれないし、それによって税収はこれは逆に減っていくだろうし、これ、収入が減れば保険料収入は減っていくことにつながっていくんだろうと思います。

我々、低所得の高齢者の方への対策については、既に年金受給資格期間の25年から10年への短縮や医療、介護の保険料負担軽減を実施したほか、今年の消費税率の引上げに合わせて、低年金への年金生活者支援給付金の創設を行い、また、介護保険料の更なる負担軽減も行っているところでございます。

将来世代の年金受給者の給付が増えるなんということを私は一回も言ったことはありませんよ。年金の給付が増えるということは言ったことがありません。だって、そのマクロ経済スライドの説明をさせているとおりでありまして、それによって増えると言ったことはもちろんないわけであります。

マクロ経済スライドにおいては、それは1%、もし賃金あるいはインフレ率が上がったとしても、そこから言わばマクロ経済スライド分も差し引くということでありますから、それによって何が可能かといえば、今まさに、今の受給者と同時に将来の受給者においても年金の受給を確かなものにするということでありまして、それをやめてしまうというのは極めて無責任であり、また、将来世代の皆さんにとってこれは不安をかき立てるものになるわけでありまして、それは全く馬鹿げたこれは政策なんだろうと、こう言わざるを得ない。間違った政策だと思いますよ、それは、だと言わざるを得ないと思います。

年金というのは、これ給付と負担があって初めて成り立つものであって、それを真摯に受け止めながら真面目に政策を実行していくことが大切であろうと。我々は、経済を成長することによって、0.1%でありますが、これはもう久々にプラスの成長を可能としたと、こういうことでありまして、ちなみに、民主党政権下の3年間は1回もプラスにはなっていないということであります。

小池晃書記局長:民主党じゃないですから、私ね。そういう無意味な反論しないでくださいよ。実際、安倍政権になってから6%年金削っているんですよ。

マクロ経済スライドなど発動して、キャリーオーバーもやって、6%年金削っているんですよ、安倍政権は。

何を胸張って言っているんですか。さらに、これからだって、今、はっきり増えないと言ったけど、減るわけでしょう、マクロ経済スライドで。明らかに減るんですよ。それをこの報告書では正直に言ったのに、慌ててまた隠している。私はこういう姿勢こそが年金不安をあおっていくんだと思いますよ。

やっぱり正直に認めるべきですよ。これから年金はどんどんどんどん目減りしていきますと、今の生活水準は保障できなくなりますと、今5万5000円、年金生活者違いますけど、更にこれが広がりますと、生涯30年間年金生活を送ったら更に1600万円これは欠損が出てきますということを正直に言って、それでもいいですかと。私は、そういったことを正面から問うて、じゃ、F35に1兆円使うとか、そういったことが許されるのか。笑っている場合じゃないでしょう、菅さん。

やっぱり税金の使い方見直さなきゃいけないでしょう。こんな貧しい年金で、まともな暮らしも保障できない年金で、娯楽も交際費も厚生年金では出せませんと、5万5000円毎月赤字が出ますと、こんなことを言っておきながら、何を平然とこれが将来世代のためだなんて言えるんですか。私は、それこそ無責任極まるというふうに思います。

こんな年金の問題をそのままにしておいたら、それこそ将来不安をあおり、内需を冷え込ませ、消費を抑えていく。で、消費税を更に増税する。こんなことをやったら、日本の経済、大破綻になりますよ。

私は、今必要なのは、税金の使い方、集め方を根本から切り替えて、大企業にもちゃんと物を言って、内部留保400兆円もあるんだから、しっかり負担をしてもらうべきじゃないですか。そして、株で大もうけをしている人たちには、所得1億円を超えるとどんどんどんどん所得税の負担が下がっていく、こんな逆転現象やめようじゃないですか。そうしてきちんと財源をつくっていく。

本格的にこれからの日本の年金制度をどうするのかということを、今回の金融庁のこの報告を機に私は真剣に考えるべきだと思いますよ。それなしに日本の未来はないということを申し上げて、私の質問を終わります。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、今回の参院選からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。ガイドラインはこちらからご覧ください。


  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。


Contact Kota Hatachi at kota.hatachi@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here