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「国防費より男女平等に多くの税金」は本当か? 拡散した「男女共同参画費8兆円」の情報はミスリード

そもそも、「男女共同参画」の予算は、全省庁が計上した関連予算をあわせたものであり、単体で計上されているわけではない。教育や介護、雇用などの社会保障費も含まれているため、防衛費との単純比較ができる性質のものではない。

ネット上で「防衛費が5兆円に対し、男女共同参画に関する予算に8兆円以上が使われている」という指摘が拡散している。

この指摘は、ミスリードだ。そもそも、「男女共同参画」の予算は、全省庁が計上した関連予算をあわせたものであり、単体で計上されているわけではない。

教育や介護、雇用などの社会保障費も含まれており、防衛費との単純比較ができる性質のものではないのだ。BuzzFeed Newsは、ファクトチェックを実施した。

Twitterで拡散しているのは、8月16日の以下のようなツイートだ。

「核ミサイルの波状攻撃をされたら日本人2000万人以上が一瞬で蒸発してしまう危機の中、防衛費が5兆円超に対して男女共同参画費が8兆円を超えています」

8000以上リツイートされ、いいねも2万6000を超えている。しかし、これに限らず同様の言説は、Twitterでほかにも多く広がっている。

「日本の国防費は年5.3兆円。男女共同参画センターに年8.3兆円。男女平等に国防費より多い税金を使う日本」(7月31日、2000RT)

「ミサイル攻撃の標的になっているのに男女共同参画予算に8.3兆円も使うのは呑気過ぎないか?」(8月14日、3500RT)

また、東京都知事選に立候補した元在特会会長で「日本第一党」の桜井誠氏も、都知事選挙に立候補した際のVR演説(6月23日、下記写真)で男女共同参画センターに言及しながらこう語っている。

「センターだけではないんですが、1年間に8兆3千億円もの予算を使っています。日本の国防費より高い値段も使って一体何やってるのか。男と女は平等です。これだけです」

この演説はYouTubeでは4万以上再生されており、動画のこの部分を引用したツイート(同日)も2.5万回再生されている。

こうして最近相次いで広がる「男女共同参画に8兆円」の反応はどれも否定的だ。防衛費と比較されるものが多いほか、「利権」や「異常」「狂気」であると指摘する声、さらには使途が不明であると指摘する声が少なくない。

その内訳を調べてみると…

こうした指摘は、いずれもミスリードであるといえる。なお、「男女共同参画センターに8兆円」というような指摘は明確に誤りだ。

そもそも政府がまとめている「男女共同参画推進関係予算」とは、各省庁の予算のうち、「男女共同参画」に関係する予算を内閣府がまとめたもの。

内閣府の男女共同参画局が、8兆円を超える独立した予算を計上しているというわけではない。たとえば令和元年度の「男女共同参画推進関係予算」は8兆9923億円だが、その内訳(ネット上に公開されている)は幅広い。

教育関連の費用や子どもたちへの児童手当、介護やシルバー人材センター、障害福祉、奨学金、雇用関係費用など、さまざまなものが含まれているのだ。

どれも結果として各省庁によって「男女共同参画に資するもの」とされていることになる。金額の大きいものは、以下の通りだ。

  • 介護給付費国庫負担金等(2兆8841億円)
  • 児童手当制度(1兆3480億円)
  • 子どものための教育・保育給付など(1兆1851億円)
  • 良質な障害福祉サービスの確保(1兆1731億)


これだけで6兆5903億円と、全体の73.2%を占めていることがわかる。内閣府男女共同参画局の担当者は、BuzzFeed Newsの取材にこう語る。

「8兆円を単体で男女局として計上しているわけではありません。男女共同参画関連の施策だけではなく、たとえば社会保障の関係経費も入っています。予算をどの切り口としてみるかということで、男女共同参画に関係する費用をまとめたもの。防衛関連予算とは性質がまったく違うものになります」

つまり、「男女共同参画推進関係予算」とは、各省庁が自らの予算のなかで男女共同参画に関係する(と思われるもの)をピックアップし、それを内閣府まとめたもの。単体で計上されている防衛費とは比較することができない性質のものである、ということだ。

ちなみに、この「男女共同参画推進関係予算」のなかには防衛省のものも含まれている。「女性専用施設(更衣室、仮眠室等)の整備」に19億円、「自衛官の制服における妊婦服等の整備」に3億7千万円など、だ。

こうした施策を担当する防衛省人事計画補任課によると、これらは防衛関連予算に計上されているものだという。このことからも、防衛費と男女共同参画推進関係予算を比較することがミスリードであることは、明らかだ。

なお、参考までに、令和元年度の防衛関連予算は5兆2574億円。社会保障関係費は34兆593億円だった。

15年前から拡散?

こうした言説は過去から、たびたび拡散している。

たとえば10〜15年ほど前には「男女共同参画に10兆円」という言説が大きく広がったことがあった。2005年には、そうしたタイトルの書籍も発売されている。

2005年度の「男女共同参画推進関係予算」が10兆円を超えていたためだとみられる。この時の予算には上記表のように、介護給付費の国庫負担に加え、厚生年金や国民年金の国庫負担(6兆円以上)が含まれていた。

「8兆円」のパターンは2019年の頭ごろからじわじわと広がりを見せていた。一部で拡散していた「8.3兆円」も、18年度の予算額から引かれたものとみられる。

いずれにせよ、息の長いミスリード言説であるため、注意が必要だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。