【九州豪雨】命の希望を嗅ぎつけた災害救助犬 NPOが奮闘する支援現場のいま

    BuzzFeed Newsは現地入りし、認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」の活動を追った。

    7月5日から福岡・大分両県に記録的な豪雨が襲い、土砂災害や河川の氾濫が相次ぎ、大きな被害をもたらした。災害の発生直後、支援の現場はどうなっているのか。

    BuzzFeed Newsは、国内外問わず災害や紛争の被災地支援などをする認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」の活動を追った。

    ピースウィンズ・ジャパンは、6日朝、隊員ら8人からなるレスキューチームを、本部がある広島県から現場へ陸路から派遣した。被災地では、最大計15人が物資配布と捜索の2本柱で活動を始めた。

    被災者のニーズの聞き取り、自治体との連携

    避難所となっている杷木中学校。ピースウィンズ・ジャパンのメンバーは、市役所の職員や被災者から必要な物資の聞き取りをしていた。

    「何が今必要だと思いますか?生理用品は大丈夫ですか?」

    相手の声に耳を傾けるだけではなく、これまでの被災地支援の経験から提案もする。聞き取りをした人が男性ならば、その場で思いつかないニーズがあるからだ。

    翌日以降もメンバーたちは、各避難所を回って情報収集を進めた。避難所ごとに状況も異なり、何が必要かは情報収集をしなければわからない。

    下着、靴、生理用品、キッチンペーパー…。聞き取るたびに、さまざまなものが必要であるとわかる。しかし、聞き取ったものすべてをピースウィンズ・ジャパンが届けるわけではない。

    ピースウィンズ・ジャパンの田邊圭さんは、現場での聞き取り後、自治体や他団体に支援物資の配布予定を確認する必要があるとして、こう語る。

    「同じところに同じものを届けても仕方ありません。市役所や他の団体などにも話を聞いて、支援物資の内容が被らないようにするのが大切です。ピースウィンズ・ジャパンでは、自治体などが拾い上げきれないニーズに応えるようにしています」

    届けられた物資、感謝の声

    7日には早速、トラックいっぱいに積まれた新品の肌着や下着、ブルーシートが2カ所の避難所に届けられた。

    地元の消防団員らが率先して、避難所となっている施設の倉庫に運びこんだ。

    「ありがとうございます。よかった。よかった。助かります」

    物資を見た被災者から感謝する声が聞こえる。じめっとした湿気に包まれる被災地では、風呂に入れない人や、着替えを持って来られなかった人も多い。

    避難所に身を寄せている樋口好澄さん(71歳)は、物資を受け取ると「人生で初めて被災者になった。こんなに支援をいただけるんですね」と笑顔を見せた。

    「必要なものは、何も持ってこられなかった。洗濯はできないし、じめじめして嫌な気持ちにもなります。避難所で共同生活をしているのだから、衛生面に気をつけることも必要だと思うんです」

    着の身着のままの避難者たち

    樋口さんは1カ月以上、自宅には戻れないと覚悟しているという。笑みを浮かべていた顔が一気に暗くなる。

    「早く帰りたいよ。でも、川が氾濫して橋は壊れ、とんでもない量の土砂が家の近くにある。いつまで避難を続けるかわからない。こんな状況だから、衣類などの支援が本当にありがたいんです」

    ピースウィンズ・ジャパンは、8日も聞き取り調査や必要物資の買い出しを続けている。田邊さんは言う。

    「水害に遭った被災地では、建物が浸水してものがすべて使えなくなる場合が多いです。着の身着のままで避難している方も多く、何が必要であるか状況を掴みきれていないのが現状です。今後も聞き取りを重ねて、できるだけの支援をしたいと思っています」


    レスキューチームに加わる2頭の災害救助犬

    ピースウィンズ・ジャパンのレスキューチームには、災害救助犬の2頭も加わっている。ともに6歳のゴールデンレトリバーのハルクと、雑種犬の夢之丞だ。

    行方不明者の本格的な捜索活動が開始した8日午前9時、ハルクは、現場で指示をする「ハンドラー」の大西純子さんとヘリコプターに乗り込んだ。行方不明者の情報がある朝倉市杷木松末に入るためだ。

    付近では、川が氾濫、土砂崩れが起き、道路が寸断されているような状況だったが、前日にヘリコプターで上空から偵察しており、着陸可能な地点を確認していた。

    大西さんは「上流の方は、何もないくらいすべてが流されていた」と振り返る。

    現地に到着すると、トタン屋根や流木などが折り重なった瓦礫の山にハルクを放ち、捜索を開始。ハルクは、木がいくつも重なりあった場所に、自ら入っていった。

    生存者がいる可能性を伝える合図

    すると、ハルクは「クンクンクン」と鼻を鳴らした。大西さんがすぐ「ハルク、誰かいるの?」と声をかけると、「ワンワンワンワン」と吠えたという。

    確認のため、さらに2度捜索をさせても同じ反応を示した。生存者がいる可能性があることを伝える合図だった。

    「ハルクは、間違ったアラートを出すことが、全くないといっていいです。生存者がいるかもしれない、と思いました」

    ところが、救出しようとすぐ動くには難しかった。流木が折り重なり、人力で動かすのは困難だったためだ。

    レスキューチームは、現場に来た自衛隊の小隊に生存者がいる可能性があると引き継ぐと、天候が悪化するとの予報があったことから、迎えに来たヘリコプターに乗り込み、現場を後にした。

    広島土砂災害でも捜索経験

    ハルクの災害現場への初出動は、2014年の広島土砂災害だった。夢之丞とともに行方不明者を捜索し、不幸にも亡くなっていたが2人を見つけるなどして活躍した。

    2頭ともに現場経験は豊富で、これまで国内外で訓練を重ねており、捜索する力には定評がある。

    「まだ生存者であるか確認できていません。ご存命であると信じて、見届けたかったです」

    日本の被災地で生存者を見つけた災害救助犬は、これまでおらず、もしハルクが反応を示した場所に生存者がいれば、初めてになるという。

    2頭は活動を終え、広島へ

    活動を終えた2頭は、大西さんら数人の隊員らとともに広島県へと帰っていった。現場に戻らないという。

    「ハルクと夢之丞は、生存者を見つける練習を重ねています。天候悪化の予報や発生後72時間を考えて、タイムリミットは午前までと決めていました」

    ハルクとともに多くの現場を踏んできた大西さんは、今回の災害をこう見ている。

    「広島土砂災害の現場とは違い、今回の豪雨では、広範囲にわたって被災しています。道路がめくれ、そのまま家ごと遠くまで流されていった場所もあり、自衛隊や消防による捜索はかなり難航するはずです」

    「死者や行方不明者は、状況がまだわかっていないだけで、今後、さらに増える可能性が高いと思います」

    福岡県と大分県では、新たに1人の死者が確認され、亡くなったのは計16人になった。行方不明者も依然としており、道路の寸断や橋の崩落などにより現場に近づけない場所も多い。

    被害の全容は、いまだ明らかになっていない。

    ピースウィンズ・ジャパンは、被災者支援活動のため寄付を募っている。寄付の受付はこちら


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