7月5日から記録的な豪雨で土砂災害や河川の氾濫が相次ぎ、大きな被害が出ている福岡・大分両県。7日になっても、いまなお孤立状態にある人、行方がわかっていない人たちがいる。被害の全容は、いまだはっきりとしていない。
福岡県朝倉市では、この日も行方不明者の捜索が続いた。
BuzzFeed Newsは、国内外問わず災害や紛争の被災地支援などをする認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」に同行し、5日から6日朝まで孤立していた朝倉市立松末小学校(杷木地区)を取材した。
自宅に近づけない
山あいにある松末小学校は、2つの川の分岐点近くにある。5日の豪雨の影響で、川が氾濫し、土砂崩れも重なって道路が寸断されて孤立。校舎1階が浸水して土砂や倒木も流れ込んできた。
小学生18人を含む54人が、不安な夜を過ごした。翌朝、陸上自衛隊が到着し、54人はヘリコプターや徒歩で再避難した。
小学校までの道は、7日現在も通行止めにより途中までしか車で進めない。徒歩で向かい、その理由がわかった。途中、道路が崩落した地点が数カ所あり、車が通れる幅はなかった。
「ネットで拡散してほしい。どうか、助けて」
松末小学校の2階の廊下。40歳の男性はそう話すと、むせび泣いた。
小学校近くに住む義母の藤本千代香さん(64)は、いまも行方不明のままだ。川が氾濫したため、自宅にこれ以上近づくことはできない。
藤本さんの長女である妻(40)と家族5人で、1キロほど離れた集落の方を見つめた。
母を待って避難せず
デイサービスに通う母と2人暮らしの藤本さん。あの夜、誰もが予期しなかった事態が起きた。
朝倉市では5日、1時間雨量が129.5ミリ、24時間雨量も516ミリと過去最高を記録している。24時間雨量に至っては、平年の7月の月間雨量を超えるほどの豪雨だ。
5日午後2時40分、天気予報を確認した男性は、義母である藤本さんに「松末小学校に逃げるように」と電話した。しかし、「デイサービスに出かけている母の帰りを待つ」と、避難しなかったという。
幸いにも、藤本さんの母は無事だった。雨の影響で施設から帰れなかったからだ。しかし、一方の藤本さんとは5日夜に、連絡が途絶えたという。
捜索が打ち切られる
6日まで藤本さんの次女(39)は消防局に救助を数回依頼、できる限りの情報を伝えるしかなかったという。
そして、家族が待ちわびていた捜索が、7日にようやく始まった。ところが、豪雨による川の氾濫や土砂崩れ、橋の倒壊などの影響で、この日の捜索は難航。昼頃に打ち切りになってしまった。
「人命が関わっているんですよ」。男性は消防隊員らにそう伝えたが、続行不可能という判断は、覆らなかった。
「行けるならば、いますぐ現場に行きたいよ」
眼下に広がる光景を見ながら、男性は声を詰まらせた。しかし、数十メートルの幅となった溝が、その願いを無情にも阻む。
「72時間の壁」
藤本さんの次女も、目に涙を滲ませながら嘆く。
「まさか、こんなことになるなんて。救助を何度も要請し、位置などの情報も伝えたのにどうして……」
藤本さんが住む地区では、他に2人の行方が分かっていないという。
早く見つかって、どうか生きていてーー。
家族の焦りは募る。被災地では、生死をわけるとされる「72時間の壁」が刻一刻と近づいている。