記録的な豪雨で大きな被害が出ている福岡・大分両県。土砂災害や河川の氾濫が相次ぎ、集落や避難場所の孤立も続いている。その被害の全容は、7月6日夜になってもわかっていない。
BuzzFeed Newsはこの日、国内外問わず災害や紛争の被災地支援などをする認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」に同行し、被災した福岡県朝倉市を取材した。
「食事には困っていません。今は、とにかくお風呂に入りたい。昨日から入れていないんです」
朝倉市杷木地区。地元の中学校に家族5人で体育館に避難をしている女性(44)は、授業で使われるマットに座りながら、涙をこぼした。
この地区は、市中を蛇行しながら横断する筑後川沿い、大分県境の山あいにある。
5日夜、濁流に襲われた市内でも被害の大きい場所だ。記者が6日夕方に現地に入ると、なんの変哲もないように見えた市内中心部とは、まったく異なった風景が広がっていた。
被害はほとんどなく、商店も営業していた市の中心部から20キロほどの場所。車で30分ほどの距離だが、「全面通行止」の看板を境に風景は一変する。
道沿いに積もるのは、泥や流木、瓦礫だ。道だった場所のアスファルトはめくれ、濁った水が激しく流れていた。倒壊した家屋では、行方不明の夫婦の捜索が続いていた。
いつ、家に戻れるのか
5日の晩から降り続いた雨は、1日経った夜になってもまだ止む気配はない。高台にある中学校の体育館には171人(午後8時現在)が避難しており、不安げな表情で二度めの夜を迎えようとしていた。
先ほどの女性は言う。
「自宅の様子が気がかりでなりません」
自宅は、中学校から約3キロ離れている。5日夕方ごろから、普段は坂道だったはずの自宅前には川のように濁流となった水や木々が押し寄せてきた。
床上浸水はなかったが、朝になって、地区の区長の「避難しよう」という呼びかけに応じ、持てるだけの荷物を持って避難した。
「5歳の息子に『いつ家に戻れるの?』と聞かれました。『今は戻れない』と伝えました」
うつむく女性の手元には、財布やバスタオル、体を拭くウェットティッシュくらいしかない。衛生面を考えても十分ではないのが、現状だ。
全てが泥で汚れていた
体育館の入り口に被災者の靴が雑然と並ぶ。スニーカー、長靴、そして上履き……。全てが泥で汚れていた。
ぎゅうぎゅう詰めではなく、余裕があるように見えた。朝倉市役所の職員によれば、今朝に避難所から出た人が多かったという。
入り口近くには、ペットボトルや乾パンなどの物資が積み上がる。避難所の管理をしている市総務財政課の丸林知範さんは言う。
「おにぎりや唐揚げを差し入れてくださった地域の方もいて、とてもありがたい。それに加え、今求められているのはウエットティッシュや歯ブラシです」
「人によっては温泉に行けますが、お年寄りや小さいお子さんがいる方は行けません。拭くだけで気分が変わってくると思います」
体育館を包む、「じめり」とした空気
初夏の夜だ。体育館は「じめり」とした空気で包まれており、避難した人たちの肌には汗がにじんでいた。
いったい、家にはいつ帰れるのか。そもそも家や家財道具は無事なのか。今後の生活をどうすれば良いのかーー。
雨は大降りではなくなったが、それぞれの重たい気持ちが晴れるわけでもない。被災者にとって、暗く、そして長い夜が始まった。