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アフターピルがあれば「避妊ができる」と思わないほうが良い。産婦人科医に聞いた

「緊急避妊薬(アフターピル、緊急避妊ピル)」が、薬局での処方箋なしの販売も認められたとしても、「これで避妊ができる」と思わないほうが良い理由は。

「緊急避妊薬(アフターピル、緊急避妊ピル)」。望まない妊娠を事後的に防ぐための薬だ。

より早く、確実に入手できるよう、薬局での処方箋なしの販売も認められるべきではないか。そうした声が、多くの産婦人科医や女性からあがっている。

そもそも避妊は、女性だけが責任と負担を背負うべきものではない。それに、コンドームをきちんと使用しても、妊娠する可能性はある。だから、セックスをするのであれば、妊娠するかもしれない、と常に考えなくてはいけない。

アフターピルをどう考えるか。女性だけでは妊娠しないからこそ、これは男性の問題でもあるのだ。

そこで、男性記者が産婦人科医を訪ね、アフターピルについて話を聞いた。

「緊急避妊ピルが薬局で販売されるようになったとして、『コンドームなしで良いじゃん』とか『生でやらせてくれ』とか言い出す男性が出てくるかもしれません。そう言われたら、『そんなことを言う人は、あなたを大切に思っていないから、すぐに別れたほうが良い』と言いますね。『妊娠しても構わない』って言っているのと同じです」

産婦人科専門医の太田寛さんは、そう厳しく指摘する。

太田さんは、薬局での処方箋なしでの販売を多くの産婦人科医が求めているとの調査結果を発表した、産婦人科有志グループの1人だ。

あくまで「高い確率」。ゼロリスクはない

どうしてアフターピルを入手しやすくなったとしても、コンドームをつけるべきなのか。

アフターピルは、性交から72時間以内に服用すると、高い確率で妊娠を避けることができる。つまり、避妊率は「100%」というわけではないからだ。

そして、「年間」の妊娠率で示される他の避妊方法とは異なり、アフターピルについてはあくまで「1回あたりの確率」で示されている。

そのため、「年間」で考えると、緊急避妊ピルだけで「避妊」をしていれば、2割以上の確率で妊娠してしまうという。

「緊急避妊ピルは、決して避妊の効果が高いとは言えず、安心して普段から使える確実な避妊法ではありません」

「だから、緊急避妊ピルが市販化されたからといって、コンドームを使わなくても良くなるという話には絶対になりません。常用するのはリスクが高いですし、繰り返せばそのうち妊娠することもあり得ます。これは、避妊失敗という事故が起こったときの緊急用のものなのです」

アフターピルの副作用は、ほとんどないのにもかかわらず、日本で服用するには医師の診療を受けたうえで、処方箋が必要な状況にあるという。

「72時間以内」に飲む必要があり、かつ、早く飲めば飲むほど避妊の確率が高まる。

そのように「時間との勝負」なのに、通常の診察と同じように扱われるため、数時間も待たされるケースもある。

さらに、地域によっては産婦人科の医療機関へのアクセスが悪く、夜間や休日に必要になっても、病院が開いていないために手に入れられない場合も少なくないという現実がある。休日明けに、仕事を休んで病院に行くのが難しい人もいる。

病院でのやりとり、大切なのは

「大事なのは、何よりも燃えている火を消すこと。望まない妊娠を避けたい人にとっては、今、必要なんです。複数の病院に行き、ようやく処方してもらえたと話した知人もいます。そのうちの1つは、しばらく待たされた後で診察室に呼ばれて、そのときになってから『緊急避妊ピルはうちにはありません』と医師に言われたそうです。置いてないなら最初から受付で言いなさいよ、と思います。そのうえ、診察料は請求されたというのがおかしすぎます」

「また、薬局でも買えると知っていれば、夜中に避妊に失敗したとしても、バタバタせずに朝を迎えられるでしょう。朝になっても、実際に手に入るかわからない状況で待つのは嫌じゃないですか。そして、転売の懸念をされる人もいますが、どの薬局でも買えるようになれば、その心配はいらなくなると思っています。マスクと一緒です」

「さらに、緊急避妊ピルのために産婦人科を受診すれば、処方以外のこともやってくれて、役に立つアドバイスも聞けると言う人もいますが、そんな医者ばかりじゃない。診察中にほとんど何も話さない医師だっていますよ。多くの医師は処方して、注意点を話すだけです。『避妊の確率は100%ではありませんからね』『生理が遅れたら、ちゃんと妊娠検査薬を使ってね』と言って、薬を渡してその場で飲んでもらう。あとは基本的に何もやっていないことが多いんですよ。とはいえ、大事なのは、まず薬を飲んでもらうことなので、それでも良いんです」

コンドームで避妊はできる?

一方で、「腟外射精」は、避妊した気分になるだけで、妊娠する可能性は十分にある。

そして、「コンドームさえあれば確実に避妊できる」と考えるのは、間違いだ。

太田さんは「100%なんてない」とゼロリスクはありえないと指摘し、コンドームをきちんと使用しても、妊娠する可能性は、年間で2%程度あるのが事実だ、と説明する。

その理由として、コンドームが破れたり、はずれたりすることをあげる。

また、女性の腟内でペニスからコンドームが外れる場合もあれば、コンドームが残ってしまうケースもある。勢いに身を任せてしまい、せっかく準備したコンドームを使わない可能性だってある。

パートナーが「最初から最後まできちんとつけていた」のに妊娠した人を診察したこともあるという。

望まない妊娠とはつまり

「望まない妊娠というと、予定外のセックスによるもの、との見方をする人もいます。でも、この病院に緊急避妊ピルをもらいにくる大半が夫婦やカップルです」

「みんな表立ってセックスをしているなんて言わないけれど、セックスは通常の行動で、毎日の生活の中にあるものです。それで、コンドームだけで大丈夫だろうと思っていたら、たまたま失敗するって可能性は当然あるわけです」

もちろん、そうした同意に基づいた行動で起きた避妊の失敗だけではなく、一方的な性暴力により、望まぬ妊娠をする恐れもある。

望まない妊娠によって心身に大きな負担を背負うのは、女性だ。だから、女性にとっての避妊の選択肢は、より身近で多い方がいい。

アフターピルを薬局で処方箋なしで販売してほしいという声があがるのは、そのためだ。

病院でのアフターピルの処方と並行して、薬局での処方なしの販売が認められるように、と太田さんをはじめとする産婦人科医や、多くの女性は望んでいる。

薬局の薬剤師が、アフターピルの正しい使用方法や避妊の知識を伝え、薬を販売する。

その時に、今の日本では最も確実な避妊法である「ミレーナ」という方法の説明や、毎日服用すれば2番目に確実な避妊法である「低用量ピル」という選択肢もあることを、パンフレットなどを使って提示してもらうのが良い。

そのうえで、もし性暴力などが原因で性感染症が心配ならば、薬局でアフターピルを手に入れて服用した後に、病院に行けば良い、と太田さんは考えている。

月経の量が減り、生理痛を軽くするだけでなく、月経前のイライラや気分の落ち込み、頭痛や腹痛などの症状が出る月経前症候群(PMS)の改善効果がある。月経の時期をコントールすることで、仕事やスポーツ大会、受験など月経にあたりたくないときに月経がこないようにできる。

ただ、確実な避妊法となる低用量ピルを服用しても、性感染症の予防のためにセックスの際にはコンドームの使用が大切だという。

「うまくすり抜けてきただけ」

「セックスに近いことをすれば、誰にだって望まない妊娠が起こる可能性があります。過去にそうならなかったのは、たまたまうまくすり抜けてきただけと考えた方が良い」

「自分の人生の中で、絶対に妊娠したら困る時と、まあ良いかなって時があると思います。だから、どの程度、避妊したいかのレベルは、そのときの年齢や互いの状況、考え方によって違うはずで、選択肢はいろいろあって良いんですよ。緊急避妊ピルはその選択肢の1つであるべきなのです。薬局での処方箋なしの販売を認めたとすれば、不幸になる人は確実に減ると思います」

欧米をはじめとした世界90カ国以上で、アフターピルは処方箋なしで薬局で買える。WHOは2018年、「望まない妊娠のリスクに置かれたすべての女性や少女には、緊急避妊にアクセスする権利がある」と勧告している。

【太田寛(おおた・ひろし)】 産婦人科専門医

1989年京都大学工学部卒業後、日本航空に勤務。2000年東京医科歯科大学卒業。茅ヶ崎徳洲会総合病院、日本赤十字社医療センター、北里大学公衆衛生学、瀬戸病院を経て、2018年よりアルテミス ウイメンズ ホスピタル。日本医師会認定産業医、日本産科婦人科学会専門医、インフェクションコントロールドクター、医学博士。

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