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自民党は大敗するのか 党幹部の発言から垣間見える危機感

BuzzFeed Newsは、自民党の下村博文都連会長に単独インタビューした。

東京都の小池百合子知事が率いる地域政党「都民ファーストの会」と自民党都連が、対立を強めている。

初の都議選で最大会派・自民党の牙城を崩す勢いの都民ファースト。「負けない結果を出したい」と話すのは、自民党の下村博文都連会長。BuzzFeed Newsの単独インタビューに「小池知事の驕りというのはどうかな、と都民も思ったんじゃないですかね」と語る。

築地市場の移転問題の判断の遅れなどを「決められない知事」と批判してきたが、都議選前に知事は豊洲移転を発表した。自民党はどう都民ファーストと戦うのか。

現在、定数127の都議会で57議席を占める自民党は、全42選挙区に60人を擁立して今回の都議選に臨む。対する都民ファーストも、公認候補49人を立てた。

2016年7月の都知事選出馬にあたり、自民党に「進退伺い」を提出していた小池知事。自民党に判断を委ねる状態が続いていたが、今年6月1日に「なかなか決めてくれないのでこちらから離党届を出した」と述べ、離党届を提出するとともに都民ファーストの代表に就任した。

下村氏はこう語る。

「二重国籍じゃないけど二重党籍だから、離党届を出すのは当たり前の話でしょう。自民党が決めるべきだということ自体が無責任なわけで、ずっと離党を決断しないできたということが、自分のことさえ自分で決められない象徴だと思いますね」

「都民ファーストは『烏合の衆』」

続けて、自民党から都民ファーストに移り、公認候補になる都議や市区議ら11人も批判する。

「都民ファーストは、自分が選挙に当選したいがために移ってきた人が多く、半分以上が政治について素人の『烏合の衆』です。都民ファーストの掲げる『東京大改革』が、具体的に何なのかわからないのがその象徴です」

都民ファーストの音喜多駿・都議団幹事長は「東京大改革」についてBuzzFeed Newsの取材に、「小池知事のやっている情報公開を進め、無駄遣いを改めること」と説明している。

自民党に対する批判は手厳しい。

「都議会自民党がやってきた政治は、予算を一部の方々に差配するもの。税金の使い道が都民のほうを向いていなかった」と既得権層のための政治だったと都民ファーストは主張する。

小池知事も安倍政権への批判のキーワードになっている「忖度」を用いてこう断言する。

「忖度しなければ、議会を怒らせれば、条例案も通らない。忖度に次ぐ忖度をやったのは自民党都連そのもの」

これに対し、都民ファーストの政治について下村氏は「素人が集まるならば、小池知事の言いなりになる」と反論する。

「都議会のドン」が引退、後継は27歳の女性

既得権や不透明な意思決定の象徴として批判の槍玉に上がったのが、「都議会のドン」内田茂都議(78)だ。「都議会のドンと言われる一部の人たちの顔色を見て、議員や行政が動いていた」(音喜多氏)。

批判を浴びる重鎮の内田都議は引退。自民党の出馬予定者の中で最年少の中村彩候補(27)を内田議員の後継として擁立する。その狙いを、下村氏はこう語る。

「小池さんは、内田さんをターゲットに置いて、『ボス政治』『ブラックボックス』『利権の匂いがする』などとマイナスメッセージを常に発していましたよね。もしボス政治が本当ならば、内田さんの息がかかった人を出すのがありうる話でしょ」

「公募でなおかつ27歳の、内田さんとは対局的な女性が出馬するのは、小池さんの指摘がまったく外れているということです」

イメージの刷新を図ったことで小池知事の指摘を暗に認めた、との見方もできるのでは。

「ボス政治や利権の存在を認めていないから、中村候補を出しているんじゃない。内田さんの義理の息子も国会議員なんだから、利権があるとしたら、そういう人が選ばれているんじゃないですか」

豊洲の「無害化」のきっかけ

自民が都民ファーストを批判してきた個別の争点を見てみる。

昨年11月に豊洲市場で開場予定だった築地市場の移転延期をめぐり、小池知事は「都民の安心・安全が確保できない」として移転延期を決めた。小池知事は6月20日、豊洲への移転を最終的に表明したが、この間、自民党は「決められない知事」と批判して、攻勢を強めてきた。

下村氏は「決めるにしても遅すぎる」と決断まで長期間を要したことを批判する。

ただ、元々、豊洲市場にある有害物質を環境基準以下にする「無害化した安全な状態」にすると、2010年の都議会で付帯決議されていた。賛成したのは自民党や公明党、当時の民主党などで、小池知事でも都民ファーストでもなかった。

小池知事は無害化できなかったことを謝罪した上で、都議選直前のこのタイミングで豊洲移転を表明した。都議選で小池都政を批判する自民の決め台詞「決められない知事」が決めてしまった。

判断を先送りしたゆえの問題とは

下村氏は、決断までに時間を要したこと自体を「先送りをした意味がなかった」と責め立てる。

「開場を先送りしたことで新たな問題が出てきたかといえば、出てきたわけじゃない。その分、時間が浪費されるだけではなく、無駄な税金がかかってしまった」

莫大な維持費がかかっているのは確かだ。

「6000億円かけた豊洲の建物で、使っていないにもかかわらず毎日500万円の維持費がかかっている。すでに補償を含め100億円はかかった。今後の損害賠償をあわせれば300億は下らないだろう」

「福祉政策、教育政策、直下型地震対策で有効活用できたのに、ドブに捨てたような状態になった。小池知事が判断を先送りにしたゆえの問題です」

さらに、将来的に築地も市場として再活用するという小池知事の方針にも、移転表明の知事会見の前に疑問を投げかけている。

「結果的に両方使うことで、反対する人をなくすという都議選絡みの考え方かもしれないが、コストが余分にかかる。税金はどうするのか」

「コストパフォーマンス的により有効に使えるというビジョンのもとであれば議論するだけの意義があると思いますが、それがなく、さらに都民の無駄な税金を投入しかねないのであれば反対します」

他にも、注目を集めている政策論争がある。「受動喫煙防止条例」だ。

都民ファーストは、受動喫煙防止に消極的な自民党との差を際立たせるため、新たなルール化を争点にしようと動いた。

ところが、自民党都連はその発表翌日に、党本部が国政で示した規制案より厳しい内容の条例制定を公約にした。下村氏は語る。

「自民党内でまとまらなかったから、今国会では通せなかったわけです。東京はオリンピック・パラリンピックの開催都市であり、待っているわけにはいかないので、東京の自民党としては独自に受動喫煙にきちんと対処したい」

そんな姿勢に、都民ファーストは「争点隠し」と声を荒げる。自民党都連は受動喫煙対策に消極的だったからだ。

自民党都連は、屋内禁煙に反対を続け、2014年の舛添要一知事時代に要望書を出して条例制定の流れを止めている。国政では、2017年5月に出された飲食店内を原則禁煙とする厚生労働省の法案に自民党が待ったをかけ、一定規模以下の店舗を規制しないように要望した。議論はまとまらず、先送りになった。

「争点隠し」との批判をどう見るのか。下村氏は反論する。

「争点隠しではなく、我々ももともと必要だと思っていたんです。都議会自民党も対策したいから出しているわけで、別に都民ファーストに対抗するわけでは全然ないです」

都議会自民党が動いたのは時代の変化か

自民党都連が掲げる原則屋内禁煙の「原則」という文言によって、いくらでも例外を作れるのではないか。下村氏の主張はこうだ。

「小さい飲食店で分煙室を作ったら商売にならないわけで、配慮規定がないと商売が成り立たないんじゃないか、と飲食関係の人たちから強い要請がある。一人一人の生活を成り立たせるために配慮すべきです。その業界の人たちの反対があれば、聞く耳を持つ必要がある」

頑なに屋内禁煙に反対を続けた都議選自民党が動いた。喫煙者は思うがままに吸ってよかった時代ではなくなった、と考えているのか、と尋ねた。

「うん、もうオリンピック・パラリンピック待ったなしですからね。国際規約のルールに則ってやるのは当たり前なので、クリアできないのであれば開催都市としての責任が問われる。だから、都議会自民党としても条例をつくるべきだと判断した。私の方から無理やり変えさせたわけではないです」

説明を終えると、すぐさま都民ファーストの条例案の指摘に移った。子どもがいる場合、自宅や自家用車内での喫煙に努力義務規定を設けるか検討するとしているのが「やりすぎだ」というのだ。

「家庭内に罰則規定を設けるということは、いかがなものかと思いますけどね」

都議選の争点は「脱・小池劇場だ」

対決姿勢を強める自民党都連だが、小池知事による都政を全体としてどう評価しているのか。

「小池劇場」と表現されるように、小池知事は「劇場型政治」を貫いている。「都政はブラックボックス」や「食の安全・安心」「都民ファーストで」などと都民にわかりやすいキャッチフレーズを掲げ、石原慎太郎・元知事や先述の内田都議らを槍玉にあげる。そして、マスコミを活用しながら都民の興味を惹き、関心を高めた。

そんな政治スタイルに「生産性があるとは思えない」と下村氏は苦言を呈した。都議選の争点を問うと「脱・小池劇場」だと述べた。

「小池知事の発信力はすごくあると思います。でも、敵を作るような劇場型の完全掌握的なやり方は正しいとは思わない」

「我々は小池知事を敵だと思っておらず、協力すると言っているわけだから。実際、自民党は小池知事が就任してから予算案や条例案に全て賛成してきた。つまり、小池知事がやろうとしたことを都議会で実現できない構図ではないのだから」

世論調査から見える都民ファーストの勢い

対決し、批判しつつも協力姿勢もちらつかせる。その背景には小池知事と都民ファーストの勢いがあるだろう。報道各社の世論調査を見てみる。

  • 読売5/22】自民25%、都民ファースト22%
  • 産経5/28】自民17%、都民ファースト11%
  • 毎日5/29】自民17%、都民ファースト11%
  • 朝日6/5】自民27%、都民ファースト27%で同率
  • 東京6/13】都民ファースト22・6%、自民17・1%

6月に入り、都民ファーストが自民党を上回る結果も出ている。下村氏も「小池知事が都民ファーストの代表になってから、向こうの支持率は上がってきているでしょうね」と話す。

都民ファースト側が過半数を獲得し、自民党が最大会派の座を譲るとどうなるのか。下村氏は、知事と議員を有権者が別々に選挙で選ぶ「二元代表制の意味がなくなる」として、こう指摘した。

「都議会は知事と適度な緊張関係を持ちながら、チェック機能を果たし、よりよい都政を目指すもの。都民ファースト等を含めた勢力は、小池知事のやることにすべて賛成する『イエスマン』の集まりだから、過半数をとれば都議会の機能が発揮できなくなってしまう」

「都民ファースト等を含めた勢力」には、本来であれば自民党の仲間であるはずの公明党がいる。議員報酬削減をめぐる対立をきっかけに都議会では自民党と決裂し、都議選で小池知事側につく。

「公明党が決めたことですから、やむをえないでしょう」と下村氏は言葉少なだ。

最大の懸念は都議選での大敗

自民党は現在57ある議席をどれほど維持できるのかが注目される。下村氏は「都民ファーストが勝ってしまうとは思っていませんけどね」と淡々と語るも、危機感が垣間見える。

「地方選挙とはいえ、都議会議員選挙の結果が、その後の国政選挙に必ず影響するので、国政にプラスになるような戦い方をしていきたい」

2009年の都議選では当時の民主党が勝利し、初の第一党に。自民・公明は過半数割れした。その後、当時の麻生太郎首相は衆院の解散に追い込まれ、総選挙で民主党に歴史的な敗北を喫し、政権を譲る結果となった。

森友学園、加計学園、首相に近いジャーナリストのレイプ疑惑、共謀罪。安倍政権に対し、「説明が不十分だ」との批判が高まり、安定していた支持率は下落傾向にある。

自民党がもっとも懸念するのは、都議選で大敗し、その流れが国政にまで波及することだ。

(インタビューは6月13日)


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