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「カリスマ」と呼ばれたダイエット”講師”の1ヶ月

「資格はないが、役に立ちたかった」

「一緒にがんばって!」「お菓子我慢したよ、褒めて!」「0.2キロ痩せてた!」ーー。

Twitterには、ダイエットに励む人たちのツイートが溢れている。

身長や現在の体重や目標体重を紹介し、「○○ちゃんが理想です」「オシャレな服を着たい」などと宣言。日々の食事や体重の写真をアップして、他のユーザーと励まし合う。ただ、行き詰まってしまう子もいる。

彼女たちが頼りにするのが「ダイエット講師」などと名乗り、ダイエット法を伝授したり、商品を紹介したりするアカウントだ。

免許や資格を一切持っていないが、自身のダイエット経験などをもとにボランティアでダイエット指導をしていたという男性がいる。BuzzFeed Newsは彼に話を聞いた。

「人の役に立ちたい」

20代のヒロキさん(仮名)は、かつて「講師」を名乗った一人だ。無職だった今春、人の役に立ちたいという強い衝動に駆られていた。自分だからこそできることはないか。そう考えた末、ダイエット法を伝えようと思い立ったのだという。

ヒロキさんは2ヶ月で約15キロ減量するダイエットの体験と、海外の論文を読み漁るなどして得た知識や情報を持っていた。助けを求めている人を一人でも多く救えるのではないか。そう信じた。

当初は、アドバイスをすることで小銭稼ぎになるのでは、と考えた。しかし、ダイエットに励むTwitterのアカウントを見ると、お金に余裕があるような人は少ないように思えた。そこで、ボランティアでやることにした。

「お金があれば、パーソナルトレーニングを利用できます。でも、何十万円もダイエットに使う余裕のある子は少ないじゃないですか。だから、ダイエットがうまくいかずお金にも困っている人のために、少しでも役に立てればと思ったんです」

そして、アカウントを開設した。

インターネットで検索してプロフィール画像を適当に選ぶと、アカウント名に「ダイエット」と書いてあるアカウントをすべてフォローした。さらに、ダイエットに興味がありそうなアカウントを調べ、片っ端からリツイートや「いいね」を押した。

自分の存在を知らせ、ツイートを読んでもらおうと努めたのだ。活動した1ヶ月間で約4000フォロワーになった。

依頼は、初日から続々と押し寄せた。1ヶ月間でダイレクトメッセージがきたのは28人で、全員が女性。予想外だった。

そして、その約8割が10代で、ほとんどが中高生だった。金に余裕がなく、他に頼れる人がいなくて連絡をしてきたのだろう、と実感した。

「結局、みんな自分が頑張ってるのを見てもらいたい、支えてくれる人がほしいんですよ。頑張った時は、リツイートやいいねで褒めてもらいたい。とはいえ、結果が出ないし、ダイエットのためのサービスを利用できないし、どうしたらいいのか悩んでいる子ばかり。だから、わらにもすがる気持ちで頼ってくれたんだと思います」

驚愕した依頼者たちの実態

ダイエットは危険を伴う。そこで、必ずアンケートに答えてもらった。現在の身長や体重、体脂肪率をはじめ、普段の食事メニュー、運動量、痩せたい理由などーー。

その中で、最も重視していたのは、心理的な原因で拒食や過食という食行動に異常をきたす「摂食障害」の可能性がないかだった。

1991年に開発された「摂食障害症状評価尺度(SRSED)」を活用。チェックリストに回答してもらい、それぞれ点数を聞くとその結果に驚いたという。

相談があった女性たちの約8割が摂食障害の傾向があるかもしれないという結果になった。問題がないと言えるような点数を示してきたのは1人としていなかったという。

理想と現実の差に愕然とした

さらに、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出する肥満度を測る国際的な指標「BMI」の数値を見ると、衝撃だった。低体重の依頼者が多かったのだ。

ヒロキさんは、自分が理想としていた"講師像”と現実との差に愕然とした。肥満の人のダイエットをサポートしたかっただけなのだ。既に痩せている人の「もっと痩せたい」という願望を叶えてあげよう、と思って始めた活動ではない。

「こんな現状とは知らず、狂った世の中だと思いました。特に10代の子がこのままダイエットを続けていたら危険すぎます。だから、もうダイエットをやめよう、と必死に説得したんです」

納得してくれたかはわからない

「女の子の友だちにかわいいって言われたい」「夏になったら、ビキニを着たい」「元彼を見返したい」「成人式できれいな振袖を着たい」ーー。ダイエットを頑張る子たちにはそれぞれ目的があった。

しかし、心も体も壊す恐れが目の前に近づいている子ならば、目的達成のためにとる手段としてダイエットを選ばせてはいけない。

とりわけ成長期における過度なダイエットは、成長が止まったり、生理不順を招いたりするなど将来にも影響を与える。摂食障害になれば、苦しみから抜け出すことは簡単ではない。通院や入院が必要になることだってある。

だから、肥満である子以外にはアドバイスを断り、ダイエットをやめるように説いた。

すると「やっぱりそうなんですね。お母さんにも言われるんです」「食べるようにします」などと返答があった。しかし、本当に納得し、生活を改めたかはわからない。信じるしかなかったという。

「私を救ってくれた人」と話す女子高生

気づけば、女性たちから支持を得ていた。「ありがとうございます」「救われました」という感謝の言葉は、日常茶飯事だった。

その一人が、無理なダイエットの結果、生理不順や頭痛、だるさなどに悩んだ女子高生のユキさん(仮名、17歳)だ。一日中、何も食べない絶食をしたり、一回の食事を低カロリーのスムージーに置き換えたりして、心も体もボロボロだったユキさんは、ヒロキさんのアカウントを見つけ、連絡した。

ユキさんはBuzzFeed Newsの取材に、ヒロキさんのことを「私を救ってくれた人」「駆け込み寺でした」と話す。

低体重のユキさんに、ヒロキさんは、過度なダイエットの危険性や食事をする喜びを交えながら「ダイエットをやめて、食べろ」と説得した。生理不順を治すために病院に行くようにも勧めた。

ユキさんは言う。

「何かを口にするのが本当に嫌な時期でした。でも、なぜ食べなければいけないのかの説明がわかりやすく、受け入れられたんです。それで、ちゃんと食べてみたら『ご飯ってやっぱりおいしいな』って思って」

両親の話には聞く耳を持たなかったユキさんだったが、見ず知らずのヒロキさんの指示は不思議と受け入れられた。今はダイエットをやめ、10ヶ月ぶりに生理もきた。

みんなが頑張り屋さんだった

相談に乗っていた女性たちには共通の特徴があった、とヒロキさんは言う。

女性たちは「食べろ」と言えば嫌がり、「食べなくてもいいよ」と言えば嬉しそうになった。みんなが心と体がボロボロになろうとも、ダイエットをやめるのを拒む「頑張り屋さん」だった。

目標に向かって猪突猛進するタイプが多かったとも思う。「とにかく痩せたい」が先行し、人の話を信じやすい子が多いと感じた。「フォロワーの多いアカウントが発信する情報は正しい」と考える子もいた。

女性たちのそんな姿勢は、ヒロキさんに対しても同じだった。

ダイエットに関して独学で学んだヒロキさんは、もちろん専門家でもないし、医師や栄養士などの資格や免許があるわけでもない。科学的根拠に基づく情報のみを伝えていたというが、100%正しかったはわからない。

「石」を売る一部のアカウント

「Twitterには〇〇を飲んだら痩せる、△△を食べれば痩せる、としか教えないアカウントばかりでした。確かにそれで痩せるかもしれない。でも、なぜ痩せるのかがすっぽり抜けた情報があまりにも多かったんです」

ダイエット情報を発信する一部のアカウントは、科学的根拠を示さない、もしくは科学的に効果が証明されていない方法をあたかも効果があるように伝えていた。買えば内面も美しくなれるという「石」を売るアカウントもあった。

そのためどんな情報であっても鵜呑みにしてしまい、スピリチュアルなビジネスにもお金を充ててしまう人は少なくないのではないかと感じたという。

突然の”講師”活動停止

ヒロキさんの活動停止は突然だった。

当時、交際していた女性に、依頼者たちから続々と届くメッセージを知られ、不審に思われたからだった。

頃合いを見て再開しようと思っていたが、その後に企業に就職。会社員として多忙になり、Twitterでの活動は諦めた。そして、依頼者たちと連絡を取ることはなくなった。

ヒロキさんは視線を落とすと、「肥満の子が10キロや20キロ痩せて、人生が変わって喜ぶ姿が見たかったんです」とつぶやいた。

自分との孤独な戦いをする人たちが、「辛い」「どうしよう」と助けを求めて小さな叫び声を上げている。それを受け止めるのはネット上の見ず知らずの人で、そこに頼るしかないという人もいる。

当然ながらダイエットをするなら安全が第一だ。専門家はどう考えているのか。

最終回の記事「『ダイエットにマジックはない』 頑張る女の子たちへ、医師からのメッセージ」は日本摂食障害学会・副理事長で内科医の鈴木眞理さんにインタビューした内容だ。

また、女子高生のインタビュー記事「無理なダイエットに走った女子高生 頼ったのはTwitterだった」を配信している。


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