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彼女は痴漢をした男を捕まえ、裁判に発展した。そして、今も苦しみ続ける。

連載記事の2本目。彼女が痛感した現代社会だからこその苦悩。そして、この件が刑事裁判になるまでの大変さや判決結果を伝える。

通勤中の電車内。20代の会社員女性は、男の服の上から左腕を掴み、「痴漢しましたよね」と言った。彼女は、男がこれで味をしめ、他の女性にも危害を加える恐れがあると思い、声をあげた。

ただ、「そこからがとても大変で」と話す。

1人でも多くの被害者を減らせるかもしれない。そう思って、語ってくれた体験。連載の2回目は、刑事裁判の判決が出るまでの心境を綴る。

彼女の身に起きたのは、約10分間にわたる被害だったという。

痴漢だと確実に判断するため、そして、声をあげるタイミングは駅員がホームにいる駅に停車中でないと不利になると思い、長い間、苦痛を味わった。

事実、声をあげられず、我慢をする被害者は多い。その中で、なぜ勇気を振り絞ったのか。

彼女は、男がこれで味をしめ、他の女性にも危害を加える恐れがあると思ったからだとする。

そう思い、声をあげた一方で、警察官による調べで男に痴漢の前科があることがわかった。そして、彼女は、警察官との話し合いの末、提出する決意をその場で固めたという。

彼女を苦しませたもの

夫との共働き世帯で、彼女は1児の母でもある。仕事と子育ての傍、この件に労力を注ぐのはとても大変だったという。

体力面の負担に加え、仕事も休まなくてはいけなかった。さらに、精神的な負担も追い討ちをかけた。

男が彼女の顔を見たのはもちろん、手続きの関係上、彼女の氏名を男に告げられていたからだ。

電車で被害に遭って以降、電車に乗ることが怖くなった。それに加え、男が一時釈放になった時には、電車に乗るたびに「会ってしまったらどうしよう」と恐怖心がさらに募った。

そして、現代のネット社会ならではの苦悩も味わった。

「今は、ネットで個人情報を簡単に調べられる世の中だから怖くて。SNSを非公開にしたり、アカウント名やプロフィールを変えたりしました」

「インスタは特に目的を持ってオープンにしていたのに、やりたいことが制限されてしまった。気にしなければ良いのかもしれないけれど、無理でした」

検察官には「本当に痴漢をしていたら、相手も少なからず良心があるので、ほとんど逆恨みはしない」と言われた。

しかし、もしかしたら刺されるかもしれない。家族にも危害を加えられるかもしれない、といった恐怖は消えなかったという。

さらに彼女を苦しませたのが、周囲の言葉だったという。

男性からは「捕まえたのすごいね!」「さすがだね!」と褒められ、気持ちが楽になったが、同じ女性からの言葉に傷ついたというのだ。 

母親からは「子どもが小さいんだから、相手に恨まれるようなことはやめたら?」「痴漢なんて珍しいことじゃないんだし、本当にやる必要あるの?」と言われ、女性の友人には「これ以上関わるのは辛いと思うから、いつでもやめても良いんだからね」と投げかけられた。

「確かにそうかもしれないし、気遣ってくれているからこその言葉です」と思う一方で、彼女は「でも」と続ける。

「私は正しいことをしているわけじゃないですか。捕まえたことも、悪い人を罰することに協力することも」

「当時の私は、痴漢を捕まえたことが正しいって材料がほしかったんです。『正しいよ、頑張って』って応援してほしいのに、心配してくれるのが逆に辛くて」

変化した供述、変わった考え方

男は当初、痴漢を否認していたが、次第に供述が変わっていった。

「同意のもとだ。俺に好意があると思った」「自白すれば許してあげると言われた」と話し始め、最終的には自身の行為を認めたという。

さまざまなことに悩みながらも、彼女は手続きを進めていった。

警察官からの「これで1人でも被害者を減らせるかもしれない。それはあなたのおかげだ」と言葉も、励みになった。

彼女が痴漢被害に遭ったのは、これが最初ではない。ただ、今回、初めて男を捕まえ、声をあげたことで考えが変わった。

「痴漢はちっぽけで軽い犯罪だから、その時だけ我慢すれば良い、声をあげなくても良いと考えてしまう女性って多いんですよね。私も昔は『痴漢くらいで』って言っていましたし」

「でも、やっぱりそれっておかしいです。声をあげたくても、怖くて声をあげられない女性もいる。そういう人も被害に遭う可能性があると思った時に、1人でも犯罪をする人を減らす方向にしないと、と思ったんです」

被害者が泣き寝入りしない社会になれば良いと思う。それでも、被害に遭った人が声をあげたり加害者を捕まえたりすることには「難しさも感じる」と声を落とす。

「必ずしも声をあげるのが正解としてしまうと、それで生きづらくなってしまう人もきっといます。その場で『痴漢です』って言うこと自体がものすごく大変で、その後のことも考えると難しいですよね」

「だから、世の中の痴漢に対する見方が、せめて変わってほしいなと思います」

「痴漢被害は決して軽いものではない。だから、私は、痴漢に遭った子がいたら『捕まえて良いよ。大変だけど頑張ろう』って言いたい」

「みんなも被害を見かけたら、声あげられない人もいるから、まずは『大丈夫ですか?』と声をかけてあげてほしいです」

実刑判決が下ったが...

電車内での痴漢は、各都道府県の迷惑防止条例違反の痴漢事犯、または強制わいせつ事犯として、認知・検挙されている。

この事件はその後、刑事裁判に発展した。被告は、迷惑防止条例違反の罪に問われ、懲役1年6カ月の実刑判決が下った。

民事訴訟を起こすことはしなかった。慰謝料として金銭を得ようとは考えなかったからだ。

被告は実刑判決を受け、控訴したという。

「大変残念ですが、まだずるずると続いていきそうです。控訴しているので、どこかで会うのではと不安があります。早く終わってほしいです」

現在は、鉄道事業者が女性専用車を積極的に導入し、JR山手線や埼京線などでは車内に防犯カメラが設置されるなど、痴漢被害を未然に防ぐための対策が講じられている。

特に防犯カメラについては、証拠を残す点で優れ、冤罪を防ぐこともできる。

警察庁によると、2018年の迷惑防止条例違反のうち、電車内以外を含む痴漢行為の検挙件数は、男女合わせて2777件。電車内における強制わいせつの認知件数は266件だった。

前者は14年以降、減少しているものの、後者はほぼ横ばいだ。

この数字は、声をあげなかった人を含んでいないことを留意しなくてはいけない。

彼女が取材中に繰り返し話したのは、「(男と)またどこかで会ってしまったらどうしよう」との言葉だった。

たとえ、会うことはなくとも、会ったとして危害を加えられなかったとしても、1度の被害が、これからも彼女を精神的に苦しませる。

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昨日も、きょうも、これからも。ずっと付き合う「からだ」のことだから、みんなで悩みを分け合えたら、毎日がもっと楽しくなるかもしれない。

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10月1日から10月11日の国際ガールズ・デー(International Day of the Girl Child)まで、こちらのページで特集を実施します。