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「痴漢しましたよね」と人生で初めて男の腕をつかんだ。彼女が選んだその後。

連載記事の1本目。人生で初めて「痴漢しましたよね」と声をあげた女性に起きたこととは。

少し混み合う電車の中、男を捕まえたのは今春のことだった。彼女は、人生で初めて「痴漢しましたよね」と声をあげたという。

勇気を振り絞っての決断だったが、駅員以外に手を貸してくれる人はいなかった。そして、被害届を提出してから、これほどまで体力的にも精神的にも負担があるのだと思い知った。

1人でも多くの被害者を減らせるかもしれない。そんな思いで、20代の会社員女性がBuzzFeed Newsに体験を語ってくれた。記事は2回に分けて、伝える。

彼女はその日、少し寝坊して電車に乗り込んだ。1人で職場に向かいながら、スマートフォンでその日のニュースを読んでいた時だった。

体を触られた感触があり、男がすぐ近くにいることに気づいたという。

通勤ラッシュの時間帯から少し外れており、車内は多少混んではいた。だが、乗客と乗客との空間には余裕があった。

最初は偶然だと思い、少し距離を置いた。しかし、男はまた近づいてきたという。

苦しんだ10分間

「この人、わざとついてきている」。そう気づいた。

ただ、すぐに声をあげなかった。「冤罪だったら怖い」と感じ、疑わしいうちは声をあげてはダメだと思った。

通い慣れた路線。どの駅のホームに駅員がいるかがわかっていたのも、その理由だった。

だから、目処をつけた駅に電車が到着するまで、必死に耐えた。

その間、男の顔を直視すると、最初は驚いた様子で目をそらした。その後もその男の顔を見たが、痴漢はどんどんとエスカレートしていったという。

声をあげようと決めた駅に到着したのは、痴漢が始まってから10分ほど後だった。

ただただ苦痛だった。

駅多くの乗客たちがどんどん降りていく。被害を訴えるべきかどうか。最後まで迷ったという。

それでも決意は変わらなかった。男がこれで味をしめ、今後、他の女性にも危害を加える恐れがあると思ったからだ。

相手の服の上から左腕をつかんで言った。

「痴漢しましたよね」

なぜ手を貸すのを躊躇するのか

男は「え、えっ」と動揺した声を出したという。

次第に「いやいや、離してよ、これから会社だからさ」と駅のホームに降りるのを拒び始めた。

それでも、彼女は「とにかく一緒に降りてください」と言って、なんとかホームに一緒に降りたという。

ホーム上は大騒ぎだ。停車中の電車のそばで揉めていたこともあり、駅員が近づいてきて「どうしましたか?」と声をかけてくれ、「この人痴漢です」と告げることができた。

男はそれでも電車内に強引に戻るなど抵抗を見せた。だが、駆けつけた他の駅員によって「もうこの電車を止めたので、手を離して大丈夫ですよ」との言葉でようやく手を離せたという。

駅員以外に彼女に救いの手を差し伸べた人はいなかったそうだ。当時は手を貸してほしかった。でも、今はこう思う。

「冤罪だったら嫌だな、と言いましたけれど、誰もが私の人となりを知らないし、何が起きたのかもわからないから、手伝おうにも手伝えないんだろうな。手伝うのを躊躇しちゃうのかなと思います」

そこからが大変なスタート

その後、男は、駅員に駅の事務室に連れて行かれようとしたが、「ちょっとトイレに行ってきても良い?」「俺と彼女の問題だから、2人で話せばそれで良いでしょ」などと抵抗を続けたという。

そして、警察官がやってくると、衝撃を受けた。

男に痴漢の前科があったのがわかったからだ。

警察官がその場で説教するか。それとも、被害届を提出するのか。2択を提示されたが、警察官との話し合いの末、後者を選んだ。

「事を大きくしたいわけではありませんでした。早く仕事にも行きたかったですし、『もうしない』と思ってもらえれば良いと思っていたので」

「でも、そこからがとても面倒で。大変なスタートでした」

痴漢被害を訴えた駅から、男とは別のパトカーで警察に到着すると、署内で当時の状況を事細かに話した。

そして、着用していた衣服、DNA鑑定するために唾液も提供。自らが監督役、警察官が役者となって当時の状況を再現さえした。

作業量は膨大だった。記入する書類も多く、その日の仕事は休まざるを得なくなった。

「当時のことを思い出して話すのも嫌で、精神的にも体力的にもこんなに大変なんだと。そりゃ声をあげない被害者も多いわけだよ、と思いました」

被害当日から数回に渡って、警察署、そして検察庁に通うことになった。彼女は夫との共働き世帯であり、一児の母でもある。だから、こう思う。

「仕事も子育てもしながら時間を割くのも、同じ話を繰り返すのも本当に辛かったです。警察署と検察庁に行くたびに、被害届を出すのをやめておけば良かったとも思いました」

「これほど面倒臭いってわかっていれば、被害届を出さなかったかもしれません。それでも、いつでもやめられたのに続けたのは、彼にもう二度と繰り返してほしくないと思ったからです」


後編の記事は以下から。彼女が痛感した現代社会だからこその苦悩。そして、この件が刑事裁判になるまでの大変さや、判決結果を伝える。

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昨日も、きょうも、これからも。ずっと付き合う「からだ」のことだから、みんなで悩みを分け合えたら、毎日がもっと楽しくなるかもしれない。

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10月1日から10月11日の国際ガールズ・デー(International Day of the Girl Child)まで、こちらのページで特集を実施します。