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マスクによる会話の難しさ、散歩時の「危ない!」の声...。障害者の生きづらさが明らかに

不要不急の外出自粛が要請される中、視覚障害者と聴覚障害者が、どんな困難を抱えているのか。

視覚障害者や聴覚障害者の日常を体験してもらおうと、エンターテイメント型のワークショップ「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」「ダイアログ・イン・サイレンス」を展開する「ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ」が5月4日、オンライン上で記者会見を開いた。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い不要不急の外出自粛が要請される中、視覚障害者と聴覚障害者が困難を抱えている実態が浮かび上がった。

会見の冒頭、ダイアログ・イン・ザ・ダーク・ジャパンの志村真介代表は、政府の専門家会議が提言した「新しい生活様式」に言及し、こう語った。

「新型コロナウイルスによって人と人の分断ではなく合理的配慮をして、どのように社会が変われば、より豊かなアフターコロナの社会を作れるか考える機会になればと思っています」

ダイアローグ・ジャパン・ソサエティは、アンケート方式で4月23日から26日まで実態調査を実施。全世代を対象に、165人が回答したという(視覚障害者71人、聴覚障害者<ろう者、中途失聴・難聴者>80人、重複障害者7人、その他7人)。

そして、次のような結果が出た。

約65%が「現在の仕事・学習環境に不便がある」

全体の約65%が、「現在の仕事・学習環境に不便がある」 と回答し、約54%が「経済的状況や雇用面、 学習状況に不安がある」と答えた。

こんな声があった。

・「会社にもしものことがあったら真っ先に障害のある自分が切られるんじゃないか」(視覚障害者)

・「参加するオンラインミーティングは音声しか使用せず、皆と同じタイミングで参加できない。終了後、議事録を確認しなければならない」(聴覚障害者)

60%以上が「生活や外出面で不便がある」

「生活や外出面に不便がある」と回答したのは全体の60%以上で、視覚障害者からは以下の声があがった。

・白杖を持って散歩をすると、「危ない!」という声が増えた。

・ガイドヘルパーや店員・周囲へのサポートの依頼、声かけを遠慮してしまう。

・弱視なので、商品を手に取り、目に近づけなければ見ることができない。自分が求めていた商品と異なる場合、棚に戻すのだが、周囲から見たら不快なんだろうと感じる。

・日頃から物に触れて確認することが多く、感染防止対策が難しい。

また、聴覚障害者からはこんな回答があった。

・マスク着用により口型や表情が読み取りづらくなりコミュニケーションが難しくなる。

・筆記用具の受け渡す必要があるため、筆談を遠慮してしまう。

当事者から語られたこと

他にも、記者会見やテレビ番組で手話通訳や字幕がない場合もあり、「情報取得について不便 」を感じる人が全体に約41%に上るなど、在宅長期化に伴う日常生活の困難さが浮かび上がった。

では、視覚障害者や聴覚障害者は、現状をどう捉えているのか。

生まれた時から全盲の大胡田亜矢子さんは会見で、ソーシャルディスタンスを保つ難しさや視覚に障害があるからこその感染防止対策の不安を語った。

「普段、盲導犬と一緒に歩いていますが、盲導犬がどんどん空いているスペースに入っていく習性があります。そうすると、ソーシャルディスタンスを取りづらく、気を使ってピリピリしてしまいます」

「足で人との距離がわかるように、お店の床にテープがあったり、人に声をかけてもらうのが一番わかりやすいですが」

話せるけれど、音が聞こえない「中途失聴者」である松森果林さんは、「常に情報が不足している中で生活しています」と話す。

「マスクをしていると、相手の口もとの動きや表情が見えず、話しかけられていると気づかないこともあるんです。テレビやネットの全ての映像に、字幕や手話をつけてほしいと思っています」

そのうえで、会話の際にボディランゲージを加える、何かの物を言及する時に実物を示す、スマートフォンで音声を認識してテキスト化するアプリを活用するといった配慮を求めた。

「それに、笑顔を忘れないでほしいです。マスクをしていても表情が変わったことがわかりますから」

人の温かさの実感することも

一方、新型コロナウイルスの影響で人々の生活が変化して行く中で、ポジティブな面も見られるようになったという。

実態調査の結果によると、全体の約58%が「人のつながりや人のあたたかさを感じた」 と回答した。こうしたエピソードが寄せられた。

・「ドラッグストアで買い物サポートをお願いした時、いつも通り腕を持たせてくれて歩いてくださった」(視覚障害者)

・「私が聞こえないと気付いてくださった方が、一生懸命ジェスチャーで伝えようとしてくださった」(聴覚障害者)

・「病院の看護士さんが、この状況でもマスクを外して対応してくれた。聞こえない不便さをよく理解してくれていた」(聴覚障害者)

全盲の大胡田さんも言う。

「例えば、『マスクありません』『マスクあります』『入荷の見込みがない』という表示が見えず、棚を自分で触らないとわからないんです」

「ドラッグストアやスーパーの店員さんはとても親切で、お店に行くたびに『困っていることはありませんか?』『サポートは大丈夫ですか?』と声をかけてくれます。お店の方がマスクを取っておいてくれた時は、涙が出るほど嬉しかったです」

志村代表は、障害者だけでなく、高齢者の知恵や声を可視化することで、健常者を含めた人々が暮らしやすい社会につながると指摘し、「誰もが快適な新しい生活様式を一緒に作っていけると確信しています」と言う。

「全ての人たちが、心豊かな国になるために、配慮してもらうことが大切だと思います」

そして、ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ代表理事の志村季世恵さんは「今、社会を変えることができれば、永続的に変わっていく」 と訴えた。