• covid19jp badge
  • medicaljp badge

政府推奨の感染防止対策のいま 医師と科学者が考える「必要のない方法」と「2つの要点」

新型コロナウイルスの感染防止にあたり、政府は感染防止対策と消毒にどんな方法を推奨し、科学者や医師は、どう考えているのか。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、アルコール消毒液が不足するようになった。消毒用として、さまざまな物質や商品が登場し、広く流通しているものもある。

一方で多くの情報が飛び交うことで、「何が正しいのか分からない」という声は根強い。

感染防止にあたり、政府は感染防止対策と消毒にどんな方法を推奨し、科学者や医師は、どう考えているのか。6月中旬段階での状況を整理した。

推奨される感染防止対策

政府が推奨する、新型コロナウイルスを含む感染症対策の基本は、「手洗い」「マスクの着用を含む咳エチケット」だ。

手洗いは、入念に石けんで洗い、終わったら十分に水で流し、清潔なタオルやペーパータオルでよく拭き取って乾かすように指導している。

咳エチケットとは、咳やくしゃみなどをする際に、飛沫が遠くに飛ぶのを防ぐエチケットだ。

鼻と口の両方を確実に覆うようにマスクを着用する。マスクがない場合には、咳をする際にティッシュやハンカチで口と鼻を覆う。間に合わない時は、上着の内側や袖で、口と鼻を覆うようにする。

厚生労働省によると、集団感染の共通点は、とりわけ「換気が悪く」「人が密に集まって過ごすような空間」「不特定多数の人が接触する恐れが高い場所」だという。

そのため、「換気が悪く、人が密に集まって過ごすような空間に集団で集まることを避けてください」と呼びかけ、外出をできるだけ控えることや、いわゆる「三密」(密集、密閉、密接)を避けることを求めている。

ただ、外出せざるを得ない時があるだろう。その場合には、相手と手が触れ合う距離での会話を避け、換気を心がける。複数人で出歩いたり、人との距離が近かったりする場合は、マスクを着用し、大声で話さないのも大切だ。

「手洗いを丁寧にすれば、十分にウイルスを除去」

汚染された物を触るなどして移る「接触感染ルート」を防ぐために重要なのが、先述の通りまずは「手洗い」になる。

厚労省は「石けんやハンドソープなどで手洗いを丁寧に行うことで、十分にウイルスを除去できます。さらにアルコール消毒液を使用する必要はありません」としている。

机やドアノブなど物の表面には、アルコール消毒液よりも、「熱水」や「塩素系漂白剤」が有効だという。

食器や箸などは、80℃の熱水に10分間さらすと消毒できる。

一方の「塩素系漂白剤が有効」とはつまり、花王が販売する「ハイター」やミツエイの「ブリーチ」などに含まれるアルカリ性の「次亜塩素酸ナトリウム」を、商品の表示を参考に0.05%に薄めた上で、物を拭くと良いという。

ただし、取り扱いには十分な注意が必要だ。

肌に触れたり、体内に入ったりした場合は害となり得るため、ゴム手袋の着用や十分な換気が必要になる。

NITEが発表した「代替品」=界面活性剤

経済産業省による要請で、新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価を実施している「製品評価技術基盤機構(NITE)」は、台所用洗剤や石けんなどに含まれる一部の界面活性剤について「新型コロナウイルスに対する効果が確認された」と発表した。

効果が確認された界面活性剤を含む洗剤のリストを随時更新しながら、公表している。

台所周り用、家具用、風呂用など用途に合った「住宅・家具用洗剤」を使うのが基本だが、手元にない場合は「台所用洗剤」を使って代用可能だ。

注意点とすれば、どちらも「手指・皮膚には使用しないこと」で、台所用洗剤については「スプレーボトルでの噴霧は行わないこと」だ。

次亜塩素酸水は「現時点では有効性が確認されていない」

先述のNITEは、次亜塩素酸水、塩化ベンゼトニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウムなどの新型コロナに対する有効性の検証を進めている。

次亜塩素酸水は、名前が似ている次亜塩素酸ナトリウムと混同されがちだが、異なる性質を持つ物質だ。次亜塩素酸ナトリウムはアルカリ性で、次亜塩素酸水は酸性だ。

6月17日現在ではまだ、有効性を巡る結論は出ていない。NITEはさらに検証を進め、6月中に報告を出す、としている。

なお、NITEが検証を行っているのは、アルコール消毒液などの代わりに身の回りの物品にかけたり拭いたりして消毒する手段としての評価が目的だ。

手指の消毒に使ったり、空中に噴霧したりした場合の有効性、安全性はNITEによる評価の対象外だ。

次亜塩素酸水は、店頭での市販や自治体の無料配布などにより、次第に身近なものとなってきた。加湿器や超音波噴霧器によって噴霧する光景が、居酒屋や学校などで見られるようになった。

次亜塩素酸水の効力は、ppmやppbで示す「有効塩素濃度(残留塩素濃度)」と、pHで表す「酸性度」が指標となる。

NITEは次亜塩素酸水が新型コロナウイルスに対して一定の効果を示すデータも出ている一方で、「有効性評価を行う上で十分なデータが集まっていない」として、「現時点で有効性は確認されていない」と中間発表をした。検証を続け、6月中に結果を公表する予定だ。

また、NITEは次亜塩素酸水の噴霧に関して、次の見解を示している。

「消毒目的で有人空間に噴霧することは、その有効性、安全性ともに、メーカー等が工夫して評価を行っていますが、確立された評価方法は定まっていないと承知しています。メーカーが提供する情報、経済産業省サイトの『ファクトシート』などをよく吟味いただき、十分に検討を行っていただいた上で判断をお願いします」

噴霧については評価を避けた、ということだ。NITEが紹介した経産省のファクトシートは、「消毒液の噴霧に関する有効性と人体への安全性について、現時点では国際的に確立された評価法は見当たらない」としている。

NITEの中間発表後、次亜塩素酸水を無料配布していた自治体が、配布を取りやめる動きが出ている。

さらに、文部科学省が、子どもたちがいる空間で噴霧をしないようないよう通知(6月4日付)を出し、噴霧を中止する学校もある。

同省は同16日付で発表した「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」では、「メーカーが提供する情報、厚生労働省などの関係省庁が提供する情報、経済産業省サイトの『ファクトシート』などをよく吟味し、使用について判断するようお願いします」とNITEと同様の見解を記した。ただ、こうも添えられた。

「なお、児童生徒等の中には健康面において様々な配慮が必要な者がいることから、使用に当たっては、学校医、学校薬剤師等から専門的な助言を得つつ、必要性や児童生徒等に与える健康面への影響について十分検討して下さい」

噴霧には医師や科学者から反対の声が

この次亜塩素酸水を「吸入を避け、噴霧すべきではない」と声をあげる複数の科学者や医師がいる。

共通するのは、「体内に入れてはいけない」。そして「NITEの検証結果で有効と出れば、物品の消毒には使うべき」という点だ。

生物物理や化学物理が専門の山形大学理学部の天羽優子准教授は「医療現場においては、人がいる空間において消毒薬を噴霧してはいけないのが原則です。被害がどれくらい出るのかは、濃度と接触時間による。濃度もまちまちなので、噴霧して吸入してはいけない」と指摘する。

BuzzFeed Newsの取材に「消毒薬のミストでどうにかできるなら、とっくに病院が実践しているはずです」と話した。

次亜塩素酸水が有用ならば、政府から安全・確実に使う方法が近々発表されるはずだ。だから今はそれを待ち、病院でも使えるようなマニュアルが発表されてから、実用に移すべきだという考えだ。

物理化学が専門の京都女子大学名誉教授・小波秀雄さんは「『ウイルスに効く』と称して、効かないものを売る業者に注意しなくてはいけません」と語る。

また、新型コロナへの有効性が政府から示されていない現時点で、「これで消毒ができたと思い、手洗いや換気などをおろそかにするのを恐れています」という。

「手洗いなどの基本を大切に」

米国国立研究機関博士研究員でウイルス学、免疫学を専門とする峰宗太郎医師は、6月14日にYouTubeであったオンライントークイベントで、ウイルスを扱う研究現場でウイルス学者はアルコール消毒液、または次亜塩素酸ナトリウム液の2種類しか使わない、と語った。「この二つは有効性が確認され、安価で、適切に扱えば安全」という。

「空間に噴霧したり、噴霧器を首からかけるなんて医療現場でやっていないことをやる必要はないです。それで、もし害が起きるようなことがあったら、後悔してもしきれない。手洗いなど基本的なことをするのが大事だと、何回でも繰り返して伝えたい」

どうすればいいか。要点は二つ

感染防止や消毒について、一連の取材を通じて複数の医師や科学者が共通して語った要点を、以下にまとめよう。

1)手洗いと咳エチケット、そして「三密」を避けることなど、政府や専門家会議が推奨する感染防止対策を、日々の暮らしの中できちんと実践すること。

2)それ以外の新しい方法や物質は、国や公的機関が有効性や安全性を確認し、安全な使い方や注意点を示してから、取り入れる。