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大量に商品が出回る「次亜塩素酸水」の危険 科学者「一番怖いのは...」

「みんなが使っているから、安全・安心だ」「厚労省が食品添加物に指定しているから安全だ」という考えが広がっている。科学者が警鐘を鳴らす。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、自治体の無料配布や、各メーカーの販売などによって広く流通するようになった「次亜塩素酸水」の使用方法について、科学者たちが警鐘を鳴らしている。

物理化学が専門の京都女子大学名誉教授・小波秀雄さんと、生物物理や化学物理が専門の山形大学理学部の天羽優子准教授だ。

2人の主張には、「次亜塩素酸水を噴霧し、吸入してはならない」という共通点がある。BuzzFeed Newsは、それぞれに話を聞いた。

厚生労働省と経済産業省は、新型コロナウイルスの感染防止にあたり、食器や手すり、ドアノブなどの消毒には、アルコールよりも、熱水や「塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)」が有効だと呼びかけている。

次亜塩素酸ナトリウムとは、アルカリ性で、花王が販売する「ハイター」やミツエイの「ブリーチ」などに含まれ、広く家庭に普及している。

一方、次亜塩素酸水は酸性で、生成方法は塩酸や塩化ナトリウム水溶液を装置で電気分解することで作る「電気分解方式」と、次亜塩素酸ナトリウムと塩酸などを混ぜ、酸性に調整して希釈させた「混合方式」の2つある。

いずれも次亜塩素酸を主成分としているが、両者は全くの別物だ。

消毒用アルコール不足が叫ばれる中、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ代替品として、次亜塩素酸水を一部の自治体が無料配布するなどしてきた。

小波さんは「次亜塩素酸ナトリウムは『危険』だが、次亜塩素酸水は『安全』という情報が、ネット上を中心に見受けられます」としたうえで、「でも、それは間違いです」と指摘する。

「ハイターなどの次亜塩素酸ナトリウムの商品のように、『混ぜるな危険』などと危険性を明示し、正しい手法で使うように伝えているほうがよっぽど信頼できますよ」

「食品添加物=安全」は誤り

危惧するのは「みんなが使っているから、安全・安心だ」「厚生労働省が食品添加物に指定しているから安全だ」という考えが広がっていることだ。

厚労省は2002年、電気分解方式の次亜塩素酸水を「殺菌料」として食品添加物に指定した。食品の殺菌に用いられるが、「次亜塩素酸水は、最終食品の完成前に除去しなければならない」「使用後、最終食品の完成前に除去される場合、安全性に懸念がないと考えられる」との指針を示している。

そのため、「食品添加物=安全」というのは、誤っている。同省が新型コロナウイルスの感染防止に有効だと発表し、水道水の殺菌にも使われる「次亜塩素酸ナトリウム」も食品添加物と指定されているのが良い例だ。

どんな物質にも適切な使い方がある。しかし、政府からの情報が乏しい次亜塩素酸水については「消費者が使用する段階での不適切な扱いが避けられない」と小波さんは見る。

「たしかに濃度が薄ければ、人体に問題はありません。ただし、濃度が極めて薄ければの話です」

とりわけ次亜塩素酸水の使い方として口コミで広がっているのが、「加湿器で噴霧する方法」だ。

小波さんはこの手法を「一番危険だ」と警告する。

空間に次亜塩素酸水が放出されれば、口や鼻を通して体内に吸収されるからだ。

「絶対にやってはいけないのに噴霧している人が多すぎる。次亜塩素酸水に含まれる塩素は、生きているものを殺すわけですから、皮膚や粘膜をも破壊するんです」

「体に優しく、高い殺菌力を持つ消毒剤なんかありません。ウイルスに効果あれば、人体にも有害なわけです。吸い込んだら危険ですよね」

一番怖いのは...

そして、一番怖いのが「次亜塩素酸水によって消毒したつもりになってしまうこと」だと言う。

次亜塩素酸水は、化学的に不安定な水溶液でもある。直射日光を浴びせず、どんなにしっかりと保管していても、時間の経過とともにその効果が失われてしまう。不純物が入っても同様だ。

さらに、現在、経済産業省による要請で「製品評価技術基盤機構(NITE)」が、新型コロナウイルスの消毒方法の一つとして次亜塩素酸水の有効性を検証している最中で、効果があるか確認できていない。

NITEは、5月29日には「現時点において、『次亜塩素酸水』の新型コロナウイルスへの有効性は確認されていない」との中間結果を公表した。

そして、「噴霧による人体への安全性については、確立された評価方法が存在していない」と示しつつ、消費者からの事故情報データバンクに「空間噴霧による健康被害とも捉えられる報告が届いている」としている。この中間結果を受け、配布を取りやめる自治体も出ている。

これらの点を踏まえ、小波さんは「典型的な不安商法ですよ」と訴える。

「『ウイルスに効く』と称して、効かないものを売る業者に注意しなくてはいけません。おそらく全く役に立たない商品も売られ、消費者に使われています。これで消毒ができたと思い、手洗いや換気などをおろそかにするのを恐れています」

有用なら「とっくに病院が実践している」

一方で、山形大学の天羽准教授も、噴霧した次亜塩素酸水を「吸入してはいけない」と声をあげる。

研究室のHPにおいて、次亜塩素酸水が「消毒薬は、程度の差があるだけで、人体にとっては劇物や毒物である。従って、菌やウイルスとだけ反応して、人体とは反応しないような、都合の良い消毒薬は存在しない」と注意喚起する。

たとえ消毒用アルコールであっても、長時間にわたって指先を浸したり、何回も使用したりすれば手荒れを起こす。目や鼻の奥などの粘膜に触れたら刺激が強く、炎症を起こしてしまう。その蒸気を吸っていれば、肺を痛める恐れもあるのだ。

噴霧しても「安全」と謳う商品について、「安全なかわりに殺菌に有効な濃度が出ていないのではないか。もしくは、安全性の確認の実験が甘いかどちらかではないか」とBuzzFeed Newsに話した。

「消毒薬のミストでどうにかできるなら、とっくに病院が実践しているはずです」

天羽准教授は、次亜塩素酸水が有用ならば、政府から安全に、確実に使う方法が近々決まるはずだ。だから、今は使うべきではなく、病院でも使えるようなマニュアルが発表されてから手を出すべきだという考えだ。

医療現場においては、人がいる空間において消毒薬の噴霧は推奨しないのが「原則」だとしたうえで、「まずは原則に従うのが当然なのである。マニュアルとして確立するまでは、その消毒方法は無効と判断するのが、安全側に振った考え方」と推奨している。

一方、次亜塩素酸水について、感染対策のプロである聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんは「病院では(人がいるところで)消毒薬の噴霧はやらない」とTwitterに投稿し、「(1)人体に対する吸入毒性(2)微生物に対する効果が不確実」と理由をあげた。

そして、「子どもの学校でやったら全力で止める」と自身の考えを発信した。

病院では(人がいるところで)消毒薬の噴霧はやらない。理由は二つ。 ①人体に対する吸入毒性 ②微生物に対する効果が不確実 子供の学校でやったら全力で止める笑