台風15号の暴風雨により、いまなお電気の復旧が進まない地域がある。
それが千葉県館山市だ。BuzzFeed Newsは9月12日、現地に入った。
首都・東京都の隣の県でさえも復旧が遅れ、人々の生活を乱す。電気が生活に欠かせないライフラインだと痛感する。自身が保有する民家に大打撃を受けた男性は、取材にこう形容した。
「まるで原始時代の生活ですよ」
BuzzFeed Newsが12日、館山市に入ったのは昼過ぎだった。
その前に取材した同県木更津市よりも、大きな被害を受けていることが一見しただけでわかる。
多くの家屋で、屋根の瓦が吹き飛ばされている。屋根ごと持っていかれ、建物の2階部分が丸見えの住宅もある。
ところどころで交通信号が消え、閉店している店舗も多くあった。地域によって、停電している場所とそうでない場所があるのだ。
海岸に近く、住宅が密集する館山市布良地区に向かうと、被害はさらに深刻だった。
道端でぐったりと腰を休める高齢者ら。瓦礫を積んだ一輪車をゆっくりと押す男性。汚れた布団を勢いよく集積地に放り投げる女性もいた。
その中に「よく来てくれた。話を聞いて」と話しかけてくれた男性(63)がいた。
「四方八方から竜巻みたいな風が吹いて、この有様ですよ。瓦が飛んで、雨が家の中に降り続いて、水浸しですよ。室内もすごい風でした。冷蔵庫なんて1メートルくらい飛んじゃって」
男性は5年ほど前、築100年以上の平屋建ての住宅を購入した。リフォームして10月にカフェとしてオープンする予定だったという。
しかし、9月9日に台風15号による暴風雨が猛威をふるった。男性は15キロほど離れた場所に自宅マンションがあるが、この日は布良地区の家に泊まっていたという。
「避難しようにも、避難できませんでした。外は危険で、怖くて声も出せないほどでしたよ」
「ようやくここまで片付いたんですけど...。襖も濡れた布団もすべてダメになって捨てました。家にあったほとんどの物を捨てましたよ」
庭先には細かく割れた瓦が散らばり、粉々になった窓ガラスもところどころにあった。
この民家の購入を検討した理由の一つに、自然災害が少ないと聞いていたのもあったという。しかし、台風で人が住めるとは思えないほどの被害を受けた。
「近所の人と会うと、『疲れたね』『もう嫌になったね、どうしようか』って会話ばかりですよ」
一番に苦しいのは、「停電していること」だという。
冷蔵庫やエアコンは使えず、温かいシャワーを浴びることもできていない。停電を理由に休業の店舗が多かったために、買い物ができない苦しさを知ったという。
疲れているにも関わらず、数時間ほどしか寝られていない。
「まあしょうがないよね」との声には辛さもにじむ。
「お風呂に入れていないんですよ。冷たい水を浴びても、暑いから数時間でまた肌がベタベタになる。意味ない。着替えたって同じですよ。それが気持ち悪くて」
「まるで原始人のような生活ですよ」
電気が使えないことで、被災者たちが"情報弱者"になったとも感じる。
「俺たちはこれに頼りすぎなんだよ」とスマートフォンを取り出すと言った。
「テレビも見れないわけで、ニュースが届かないんですよ。いつ電気が復旧するのかもわからない。住民伝いで話を聞くけれど、延期、延期で信用できなくなってきてね」
そういった経験をしているからこそ、「備え」の重要さを改めて実感しているという。
「3日でライフラインが復旧すると考えてもダメだ。よく言われる食料や水などの備えの3倍くらいしておかないとだね」
「人は備えていても、何かのきっかけで使ってしまったときに災害が起きるとも思う。だから、困らないように絶対に備えておかないと」
彼は、屋内だけではなく庭先でも、くまなく被害状況を教えてくれた。買ったばかりの民家は修復を諦め、取り壊す予定だという。
それでも声の調子も表情も明るい。
「笑うような状況ではないからこそ、こういう時は笑うんだよ。こんな被害は、人生で最初で最後のはず。片付けも楽しまないと」