「わたしには表立って言える特徴があまりない」 VTuberときのそらは葛藤する

    「個性があることはいいことだ」と人は言う。じゃあ「個性」ってなんだろう?バーチャルYouTuber「ときのそら」と一緒に考えてみた。

    抜群の歌唱力、ハイテンションな言動、可愛らしいキャラなのに渋い男性の声でトークを繰り出す――。平成の終わりに生まれた新たな表現のかたち「VTuber」は、外見にとらわれず、一人ひとりが強烈な「個性」を発揮してファンを魅了している。

    個性なくして成功なし。そんなVTuberの世界で「自分の個性とはなにか」を追究し続ける人がいる。2年前から活動する「ときのそら」だ。

    4月からVTuberによる連続ドラマ「四月一日さん家の」(テレビ東京ほか)に出演。演じる三姉妹の一人として「江東区観光推し隊」にも就任した。名実ともに人気VTuberの一人となったが、「わたしには表立って言える特徴があまりない」と葛藤する。

    「個性があることはいいことだ」と人は言う。じゃあ個性って、いったい何なんだろう?ときのそらと一緒に考えてみた。

    「最初の生放送、見てくれたのは13人ぐらい」

    ときのそらは2017年9月にデビューした、アイドルを目指す18歳のVTuber。同年12月からYouTubeをはじめた。

    定番の「ゲーム実況」「踊ってみた」「歌ってみた」といった動画のほか、活動初期から続けている毎週木曜の生放送をライフワークとしている。

    優しい語り口のフリートークで常連ファンを獲得。今ではチャンネル登録者数22万人を超えて、メジャーデビューアルバムも発表する人気VTuberとなった。

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    「歌が大好き」と語るときのそら。「歌ってみた」動画には180万再生を超える動画も。

    だが、デビュー当初は「うまくしゃべれないことも多かった」と振り返る。

    《デビュー当初の生放送は、たった13人ぐらいにしか見てもらえませんでした(笑)。最初はフリートークが苦手で…。何を喋っていいのかわからなくて、無言になることもあったんです(笑)》

    《自分で何をしゃべっているかわからなくなる瞬間もある。後から放送を見直して「あれ?わたし、変なこと言ってる」って思うこともあるんですけれど、そこも含めて面白いと言ってもらえていたみたいです…(笑)》

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    ときのそら、初めての生放送。この生放送を見ていた人々は「そらとも(ときのそらファン)」から「円卓の騎士」と尊ばれている

    特に悩んだのが、最初の3カ月だった。毎回「何をしゃべればよいのか…」と頭を抱えた。

    それでも回数を重ねていくと、視聴者からコメントで反応がもらえることがわかってきた。これが「ときのそら」の救いになった。

    《それをきっかけに「どんなお話をしたら反応してくれるかな?」と考えながら話すようになって。段々とですが、お友達と話すみたいに、自然とおしゃべりができるようになりました》

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    コメントのやり取りから生まれるトークも、ときのそらの魅力だ。

    ある時期からは、フリートークに活かせそうな話題をスマホでメモする習慣を身につけた。話題の音楽やアニメ、ゲーム、自分が好きなコンテンツやファンに伝えたい気持ちなどを記録している。

    こうした試行錯誤を一つ一つ積み重ねて、今の「ときのそら」が生まれた。

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    ときのそらは、ホラーゲームが好き。「物語性が魅力」だという。

    《そのぐらいやらないと、生放送中に「あれ…?」ってなっちゃうんですよね。一番大事にしているのは、応援してくれている皆さんとのコミュニケーションを密にとっていくこと。自分だけでここまで成長できなかった。周りの人たちの協力あって、今のわたしがあります》

    《どんなに見てくれる人が増えても、みなさんと仲良くコミュニケーションをとっていくことを一番大事にしています》

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    【5分でわかる】VTuberときのそらってどんな子ですか?

    「決められた枠の中で、どこまで表現できるのか」

    こうして人気VTuberの一人となった、ときのそら。4月からはテレビ東京の連続ドラマ「四月一日さん家の」に出演する。

    役どころは両親を失った三姉妹の長女・一花だ。東京・江東区門前仲町の一軒家を舞台に、次女の二葉(猿楽町双葉)、三女の三樹(響木アオ)との日常を描く。

    バーチャル空間で生きているVTuberたちが、俳優として、フィクションを演じる。二段構えのような不可思議さ。ときのそら自身も「最初は驚きしかなかった」と語る。

    《お話を伺った時は驚きしかありませんでした。あとは、選ばれた喜びと「わたしで大丈夫…?」という不安が入り混じって…。それでも「面白そうだな」と思い、挑戦することにしました》

    「VTuberが演じる」と言ってもアニメーションではない。台本を覚え、実際に身体を動かし、監督からは演技指導が入る。制作陣も映画や実写ドラマをつくってきたスタッフたち。すべてが「本物」だ。

    《実際に俳優として演技をして、声もそのまま出して、動きもある。台本は手に持たないんですよ。持ったら台本が見えちゃうので…(笑)》

    さらに言えば、脚本通りに演じるドラマはフリーダムな生放送とは表現の自由度が全く異なる。

    《生放送ではざっくりとした流れは決まっていますが、ドラマの場合は脚本に沿って演技をしていく。表現の自由度の違いがありました》

    《動きと台詞で、観客に届く表現レベルに持っていかなきゃいけない。話の掛け合いとかテンポや間を考えないと、うまくいかない感じがしました。アドリブもありますけど、自分の演じている「一花」というキャラから外れてはいけない。これは大前提》

    《それでも、決められた枠の中でどこまで表現ができるのか、演技というのができるのか。その面白さというか。一つの役を突き詰めていくと「ああ、一花はこういう一面があるのか」と、日々新しい発見に出会えました》

    VTuberがドラマを演じる意味「新しい表現への可能性」

    VTuberの「ときのそら」が別のキャラを演じるという構造に悩むことはなかったのだろうか。

    《あまり考えると、こんがらがっちゃいそうですね(笑)別の人を演じることは生まれて初めてだったので、確かに混乱する部分もありました。油断すると「ときのそら」に戻ってしまうことも。「別人を演じるのって、こんなに大変なんだ」と》

    《それでも「ときのそら」と、芝居としての「一花」は別だと考えるようになると大丈夫でした。やっぱり「わたしはいつもわたし」なので》

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    バーチャルYouTuberドラマ「四月一日さん家の」予告

    VTuberがドラマで演技をすることの意義について、ときのそらは「新しい表現の形を見つけられるかもしれない」と語る。

    《いままでわたしたちはネット上だけで活動していたので、テレビとか他のメディアには出る機会はありませんでした。だから、まだまだ「VTuberって、どんな存在なんだろう?」って、わからない人もたくさんいると思うんです》

    《今回のドラマに出ることで、「世の中には、こういう子たちもいるんだなぁ」って知ってもらいたい。VTuberの世界が広がって、色々な場所でみんなに見てもらえるようになることで、この先の未来で新しい表現ができるんじゃないかなって。そこに、わたしたちがドラマに出ることの意味があるのかもって思います》

    《わたしたちはアニメではなくドラマとしてやっています。なので、まずは「ドラマ」だと思ってもらえるように頑張りたい。そしてわたしたち3人みたいな存在を、みんなに認めてもらいたいというか…。「今の時代、こういう存在もあって良いよね」って、思ってもらえたら嬉しいです》

    《「なんか楽しそう」「ちょっと興味あるかも」って思ってくれる人が、少しでもいてくれたら。作品としても「続きが見たい」と思ってもらえるくらい、楽しんでもらえるように頑張りたいです》

    「自分の個性とはなにか」 葛藤の中でみつけたものは

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    VTuberの活躍の場は、加速度的に増えている。パイオニアであるキズナアイは単独ライブを成功させ、輝夜月は大手食品メーカーのCMに起用された。ときのそらが尊敬するミライアカリはNHKにも出演した。

    《VTuberが活動できる場所も、はじめはYouTubeやニコニコ動画だけでしたが、頑張れば頑張るほど横に広がりが出てきた。お友達もできた。わたしたちVTuberが、どんどん横に広がって、みんなに知ってもらえて、みんなを元気にできる存在になれたら…という期待もあります》

    活動の場が広がる一方、ときのそら自身には葛藤がある。それは「自分の個性とは何か」という問いだ。

    《これまでたくさんの方たちとコラボをしましたが、自分の個性を出していくことの難しさは今でも感じています。デビュー当初はわたし自身も「水みたいな存在」と言っていましたが、わたしには表立って「こういう人です」といえる特徴があるかと言われると、ちょっと考えてしまいます》

    《コラボをしていただいたVTuberのみなさんは強烈な個性をもっている。わたしも「かわいいね」「アイドルだね」って言ってもらえるけど、「じゃあ、どんな個性がありますか?」と聞かれると「アイドル」以外の個性についても、もっと考えていきたいなと感じていて》

    《今は「個性がない」とは思っていないけど、「ときのそらは、こういう子だね!」と言ってもらえるには、まだまだかな思っています》

    「個性が課題」と語りつつも、生放送の積み重ねで着実にファンは増えた。

    視聴者に優しく語りかけるフリートークで人気を集め、その口調は「実家のような安心感」「ママみが強い(「強い母性を感じる」の意)」などと評される。

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    意図しなかった「個性」を得たが、自身はどう感じているのか。

    《「ママ」「お姉さん」というのも、みんながわたしに持っている印象の一つだと思います。でも、「印象がある」ということ自体は嬉しいです》

    《もちろん、ファンの方一人ひとりが持つわたしのイメージは違うと思うので、たまに「どれが本当のわたしなんだろう?」ってなることはあります(笑)」

    《それでも、個性を一つに絞ることは全然考えていません。やっぱり、わたしはわたし。ありのままがいいのかなって。全部まとめて「ときのそら」ですから》