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「ドルで給料をもらっている人はいない」安倍元首相の“円安”めぐる発言と拡散→ミスリード。過去のものが…

最近の円安・ドル高情勢に関し、安倍晋三元首相が発言したかのようなツイートが拡散しています。ツイートは過去の発言や一部を加筆したもので、注意が必要です。

4月13日に約20年ぶりの水準となった円安・ドル高の情勢。安倍晋三元首相が「ドルで給料をもらっている人はいない」と発言したように伝えるまとめサイトの記事が拡散している。

しかし、これは過去の国会における安倍元首相の発言をベースにしたもので、「ミスリード」な情報だ。現在の状況とは無関係で、一部の内容は根拠もはっきりしない。BuzzFeed Newsはファクトチェックを実施した。

Twitterで拡散しているのは、まとめサイト「ツイッター速報〜BreakingNews」が3月30日午後に投稿した記事の紹介ツイート。

6万人近いフォロワーがいるアカウントで、4月14日午後5時現在で1万件の「いいね」がつくなど、広がりを見せている。

「【緊急】安倍さんがド正論「ドルで給料をもらっている人はいない!円安は国民生活に影響はありません!」

円安・ドル高をめぐっては、3月28日の外国為替市場で対ドルの円相場は一時、2015年8月以来の円安水準となる1ドル=125円台を記録。4月13日には、2002年5月以来となる1ドル=126円台まで値下がりした。

「ツイッター速報」の記事は125円台となった2日後に出されているが、その内容は、円安に対して経済界から懸念の声が上がっているという米ブルームバーグの報道と、ネット掲示板「5ちゃんねる」の反応をまとめているだけ。見出しやツイートに用いている安倍元首相の発言に関して、一切言及はなかった。

では、この発言はどこから引用されたものなのか。報道機関のデータベース「G-Search」などからは、ここ最近の円安情勢を受け、安倍元首相が同様の発言をしたとする情報は確認できなかった。

一方、国会会議録を調べると、安倍元首相は2015年3月13日の衆議院財政金融委員会や2016年1月12日の衆院予算委員会などで、「ドルで給料をもらっている人はいない」という趣旨の発言をしていたことがわかった。

なお、「円安は国民生活に影響はありません!」といった発言は国会議事録やデータベースでは、確認できなかった。

当時のやりとりは?

こうしたことから、「ツイッター速報」の記事やツイートは、過去の安倍元首相の発言をいまの円安状況に対するものかのように発信し、さらに根拠のはっきりとしない部分を一部加筆した、ミスリードなものであると言える。

当時のそれぞれのやりとりを振り返る。

2015年3月の財政金融委では、古川元久議員(当時は民主、現・国民民主)が「国の通貨の価値は、高い方がいいと考えているのか、あるいは低い方がいいと考えているのか」と聞き、安倍元首相はこう答えた。

安倍元首相「一般論として円安、円高のいずれもメリット、デメリットがあるわけで、一概に申し上げることは困難。他方、円安方向への動きは、輸入価格の上昇を通じて国民生活にも影響を及ぼし得る。確かにドル建てで見た日本のGDPは減少していくが、私たちは基本的にドルで給料をもらっているわけではない、また年金を受け取っているわけではないということは留意しておく必要がある」

なお、「円安方向への動きは、輸入価格の上昇を通じて国民生活にも影響を及ぼし得る」との発言は「ツイッター速報」の見出しにある「円安は国民生活に影響はありません!」とは正反対の趣旨であることもわかる。

また、2016年1月の予算委では、井坂信彦議員(当時は維新、現・立憲民主)が「ドルで見たGDPの落ち込み、ここ2、3年の落ち込みに関してお伺いいたします」と質問し、やはりこう答えている。

安倍元首相「最近よく、ドルで見ればどうなんだと言う方がいらっしゃるんですが、この議場にもドルで給料をもらっている人はいないんだろうと思うんですね。円で増えていかなければ1人1人の収入は増えていかないわけでありまして。為替の変化の中において、ドルで減っているからといって気にする必要は私はないんだろう、このように思うわけであります」

この際はロイター通信が同日、「ドル建てのGDP減少、気にする必要ない=安倍首相」と記事を配信している。

BuzzFeed Newsは安倍元首相の事務所に対し、4月7日に取材を依頼したが、14日夕までに回答はなかった。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。

UPDATE

サムネイル画像の説明を一部加筆しました。