睡眠薬などを悪用して飲み物に混ぜ、相手を抵抗できない状態にして性暴力を加える、いわゆる「デートレイプドラッグ」事件が、後を絶ちません。
しかし、被害者の多くは薬とお酒の作用で当時の記憶を失っています。
意識を取り戻して警察に駆け込んでもうまく説明できず、警官に被害を信じてもらえないことがあるのです。
飲み会にいたはずなのに、気づいたら知らない場所にいて衣服が乱れていた。横で知らない男が寝ていた。
こんな時、どうすればいいのでしょうか。どこに相談すればいいのでしょうか。
内閣府などに尋ねました。
重要なポイントは以下の通りです。
▽一人で悩まず早く相談する。
・被害者の相談に乗るワンストップ支援センターの電話番号は「#8891」
・警察の性犯罪被害窓口の電話番号は「#8103」
▽そのうえで警察署や交番に行き、尿検査などを早く受けて証拠を押さえ、捜査してもらう。
三つの被害事例
政府も、デートレイプドラッグ問題を重く受け止めています。
内閣府男女共同参画局の「薬物やアルコールなどを使用した性犯罪・性暴力って?」というサイトには、被害事例として3つの具体的な手口が書かれています。
①飲み物や食べ物に薬が混入される場合
・カラオケボックスで、トイレから帰ってきて残っていた飲み物を飲んだら、意識がもうろうとし、気がつくと服を脱がされた状態だった。
・仕事の打合せで出された飲み物を飲んだら、急に眠くなり、下半身の違和感で気づくと、服を脱がされた状態で床に倒され、裸の人が自分の上に乗っていた。
②お酒を無理やりすすめられて……
サークルの飲み会で、先輩からお酒をすすめられ、断れずに飲み続けていたら、身体がだるくなり、気が付くと複数の人に囲まれ、胸や下半身を触られていた。
③よく効く頭痛薬だから
よく効く頭痛薬だとすすめられて飲んだら、気持ちが悪くなり、体が思うように動かなくなった。服を脱がされ、複数人に暴行されていた。その様子を動画に撮られた。
BuzzFeedが取材した被害者の方々も、飲みかけのコップや缶を置いたまま席を離れてトイレに行き、戻ってそれを飲んだ後に記憶をなくしていました。
このほか、無理やりアルコールを飲まされたり、頭痛薬と偽って薬物を飲まされたりする手口があります。
睡眠薬を混ぜられた?体に出る症状とは
続いて、睡眠薬などを飲食物に混ぜられた時に起きる症状として、次の6つを挙げています。
- いつもなら酔わない量なのに、酔いの回りがとても早かった
- 急に耐えられないほど眠くなった
- からだが思うように動かなかった。だるかった。気持ち悪かった
- 意識がもうろうとした
- 記憶がない。記憶が途切れ途切れであいまい
- 記憶はないけど、いつもはしないような行動をしていたようだ
また、「薬物の影響で被害時の記憶がない場合があり、その間も会話をしたり、自分で歩いたりしていることもある」といいます。
これは、医学的には「一過性前向健忘(いっかせいぜんこうけんぼう)」という症状です。
周囲からは普通に行動しているように見えても、実際には薬とお酒で判断能力が奪われた状態になっており、しかも本人にその間の記憶は残らないのです。
被害者の支援に取り組む「性暴力救援センター・大阪SACHIKO」によると、被害者が警察に駆け込み、警察官が防犯カメラの映像をチェックすると、被害者が加害者と並んで歩いたり、腕を組んでホテルに入ったりする様子が写っていることがあるそうです。
これは、薬物の影響で起きていることです。
しかし、もし対応した警察官に「一過性前向健忘」の知識に乏しければ、防犯カメラの映像からは普通に行動しているように見えるため、「合意の結果」と思われて捜査に乗りだしてくれない可能性があるといいます。
内閣府はサイトで「自分が知らない間の行動にショックを受けるかもしれないが、それは薬物などの影響による可能性がある」と、改めて注意を呼びかけています。
証拠を残しておくことが大切
では、もしこんな被害に遭った場合はどうすればよいのでしょうか。
内閣府は「証拠を残しておくことが大切」と呼びかけています。
記憶がなかったとしても、尿検査などで薬物の反応が出れば「薬を摂取させられた」という証拠になります。
一方、薬物によっては数時間から数日間(3日前後)で体外に排出されるため、できるだけ早く警察や支援団体に行くことが重要です。
その際、事件にあった際の飲食物の残りや着ていた衣類があれば、そのまま持っていくと証拠が付着している可能性があるといいます。
警察が話を信用しない場合は?
しかし、前述の通り、警察官によっては「デートレイプドラッグ」への知識が乏しく、事件内容をうまく説明できない被害者の話を信用してくれないケースがあります。
BuzzFeedが取材した被害者のなかにも、警察官に「記憶がないってありえるの?」と信じてもらえず、泣き寝入りを余儀なくされた女性がいました。
頼みの綱のはずの警察が、頼りにならない。こんな時は、どうしたらいいのでしょうか。
内閣府男女共同参画局の担当者は取材に、「ワンストップ支援センターの職員と一緒に警察に行く」という選択肢があるといいます。
全国に支援センター。電話番号は「#8891」
ワンストップ支援センターとは、性暴力などに苦しむ被害者の相談に乗り、支援する窓口のことで、47都道府県すべてに設置されています。
主に支援経験の豊富なNPOや公益財団法人などが運営し、地域の警察や医療機関、行政機関と連携しています。相談の秘密は必ず守られます。
携帯電話、NTTアナログの固定電話からは#8891(はやくワンストップ)
NTTひかり電話からは0120−8891−77(一部地域を除く)
にかけることで、最寄りの支援センターにつながります。
そもそも警察署に1人で行くことは勇気がいります。
担当者は「支援センターの職員が一緒に行くことで不安が軽減され、解決策が出てくるかもしれない」と話しました。
また、支援センターの役割も担っている病院の場合、尿検査をしてくれることもあるそうです。
被害から時間がたっても毛髪検査で薬物成分を検出できる可能性があるため、諦めずにセンターなどに相談することが大切としています。
各地の支援センターの一覧はこちら。
警察にも相談の電話番号「#8103」
薬物などを悪用した性犯罪・性暴力は加害者によって計画的に行われます。
内閣府は、「『自分が不注意だった』と自身を責めないでほしい。被害者から相談を受けた人は『あなたのせいではない』と不安を受け止めてほしい」と呼びかけています。
ワンストップ支援センターのほか、各都道府県警の性犯罪被害の相談窓口につながる全国共通番号もあります。「♯8103(ハートさん)」です。こちらも活用できます。
レイプドラッグの問題を取材しています
睡眠薬などの「デートレイプドラッグ」を飲まされて性暴力被害を受けた。でも、警察が話を聞いてくれない。
BuzzFeed Newsでは、このような問題と、「一過性前向健忘」による影響を取材しています。
もし、勇気を出して話していただける方がいらっしゃれば、ご連絡ください。
個人情報やプライバシーはきちんと守った上で、取材させていただきます。
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