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「福島の魚から漁連の基準超えセシウム」“中国駐大阪総領事館”がツイート→ミスリード。国の基準下回る記述がなく…

中国駐大阪総領事館とみられるアカウントが風評被害を助長するようなツイートをしており、拡散に注意が必要です。ファクトチェックしました。

「福島県沖で水揚げされた魚の『スズキ』から、県漁連の基準を超える放射性物質が検出された。福島原発汚染水を勝手に海に放出してはいけない!」

中国駐大阪総領事館とみられるアカウントが2月12日、このような趣旨のツイートを発信した。

しかし、スズキから検出された放射性物質の値は、国際的な指標よりも厳しくするかたちで国が定めた一般食品の基準を下回っている。厚労省も基準を「だれが食べても安全」と説明している。

スズキが超えたのは、国よりもさらに厳格な、県漁連の「自主基準」だ。

ツイートには国の基準に関する記述がないことから、福島県産食品に対する風評被害を助長する懸念があり、「ミスリード」といえる。

また、福島第一原発の「処理水」は今春以降に海洋放出される方針だが、「福島原発汚染水」というものを放出する計画はない。

経緯を振り返る

福島県漁業共同組合連合会のお知らせによると、福島県近くの沖合で7日水揚げされた魚のスズキから、県漁連が設けた基準を超える放射性物質のセシウムが検出された。

福島県漁連は、スズキの出荷を停止した。 ーーやっぱり福島原発汚染水を勝手に海に放出しては行けない!!!

アカウント「中国駐大阪総領事館」は2月12日、こうツイートした。

アカウントには青い認証マークがついており、フォロワーは2万。プロフィール欄には、総領事館の住所とHPのリンクが貼られている。

また、「中国駐大阪総領事館の公式Twitterです!中国社会や中日関係、または在西日本の出来事などを皆様にご紹介させていただきます」とも記載されている。

国の基準を15ベクレルほど下回る

朝日新聞によると、福島県漁連は2月7日、いわき市で同日朝に水揚げしたスズキから、1キロあたり85.5ベクレルの放射性セシウムが検出されたと発表した。

国の基準は1キロあたり100ベクレルだが、県漁連が自主的に設けた同50ベクレルを超えたため、スズキの出荷は安全性が確認されるまで自粛されることになった。

この数値は、県漁連の自主基準は超えるものの、「だれが食べても安全」と設定した国の基準よりも15ベクレルほど下回っている。

一方、県漁連が設定している自主基準の50ベクレルという数字について、福島県はHPで「万が一にも国の基準値である100ベクレルを超えるものを出荷しないようにするため」と説明している。

危険性を示す明確な根拠があるものではない。

厳格な日本の基準

そもそも1キロあたり100ベクレルという日本の基準は他国と比べても厳格だ。

消費者庁の「食品と放射能Q&A」によると、一般食品の放射性セシウムの基準は、アメリカが1キロあたり1200ベクレル、EUが同1250ベクレル、食品の国際規格を策定している「コーデックス」が同1000ベクレルとなっている。

前述の通り、日本は同100ベクレルなので、他国よりもかなり厳しく設定されていることがわかる。

以上のことから、“中国駐大阪総領事館”のツイートには国の基準を下回っているという情報が抜け落ちており、風評被害を助長する懸念があるため、拡散には注意が必要だ。

「汚染水」ではなく「処理水」

また、当該ツイートには「やっぱり福島原発汚染水を勝手に海に放出しては行けない!!!」という記述もあった。

しかし、「福島原発汚染水」というものを海洋に放出する計画はない。

東京電力福島第一原発では、原子炉建屋に雨水や地下水が流入したりして、高濃度の放射性物質を含む「汚染水」が発生している。

東電は汚染水を「多核種除去設備(ALPS)」などに通し、放射性物質を取り除く処理をかけている。処理済みの水は「処理水」と呼ばれ、これまで敷地内のタンク群にためられてきた。

政府が今春以降に行う方針を示しているのは、「処理水」の海洋放出であり、未処理の「汚染水」ではない。

処理水排出は「国際慣行に沿うもの」

なお、「処理水」は技術的に取り除くことが難しい水素の仲間「トリチウム」を含んでいる。

この物質は自然界にも存在し、以前から世界各国で海洋放出されてきた。

例えば、日本と中国の原子力施設からのトリチウム年間放出量(液体)を比較すると、2019年は日本が175兆ベクレルだったのに対し、中国は907兆ベクレルだった。

つまり、中国は日本を上回るスケールで、トリチウムを含む原子力施設からの排水を放出しているということだ。

福島での処理水の海洋放出については、国際原子力機関(IAEA)が「科学的根拠に基づくものであり、国際慣行に沿うもの」と評価している。

BuzzFeed Newsは、中国駐大阪総領事館に当該ツイートについて問い合わせている。返答があり次第、追記する。


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